最初はランキングにしようかと思ったんですけど、何時間考えても順位が決められなかったので、「特に面白い」「これだけはぜひ読んでみてほしい」と思ったおすすめ作品をとにかく選びました。
「まだ松本清張をあまり読んだことがない」という方は、ぜひこの中から優先的に読んでいただければと思います。
松本清張の作品って古くて読みにくそう、と思われている方が読むと、きっとあまりの読みやすさにビックリしてしまうでしょう。
初めて読んだ人は皆、口を揃えて「思った以上に読みやすい!」という感想を抱くという……(*´ω`)
1.『張込み』
松本清張ってまだ読んだことがない!まず何を読んだらいいのかわからない!と、迷った方にはコレをおすすめ。
松本清張の初期ミステリ短編から傑作だけを集めました、という作品集。とりあえずコレを読んでおけばオッケーです。
長編より読みやすいけれど、読み応えは十分すぎるくらい。500ページくらいの長編をぎゅっと圧縮した感じの短編ばかりです。
この一冊でいろんな松本清張の顔が見える、ミステリでありサスペンスであり、そこに人間の醜さがブレンドされた、なんとも言えぬ味。
『張込み』『顔』『声』『地方紙を買う女』『鬼畜』『一年半待て』『投影』『カルネアデスの舟板』の8編が収められていますが、見事にどれも面白くて、一番を決めろと言われても難しい。
あえて言うなら、『顔』『鬼畜』『一年半待て』あたりがベストかな。
推理小説の第1集。殺人犯を張込み中の刑事の眼に映った平凡な主婦の秘められた過去と、刑事の主婦に対する思いやりを描いて、著者の推理小説の出発点と目される「張込み」。
2.『黒い画集』
人間の愚かさを詰め込んだ、黒さ極まりない短編集。
推理小説というより、恐怖小説と言った方が近いかもしれない。それほどにゾクゾクするお話ばかり。
特に『遭難』における心理戦の緊張感はちょっと異常とも言えるほどで、 文章だけでここまで人を緊張の渦に陥れるか、と驚いた。間違いなく、今作の中でのマイベスト。
その他、殺人事件に使われた凶器の行方を描いた『凶器』は、ブラックな後味がたまらない一品。松本清張版「奇妙な味」と言ったところでしょう。
ミステリとしては『紐』の捻りが好き。
全体的に見ても、『張込み』と同じくらいおすすめしたい作品集です。
身の安全と出世を願う男の生活にさす暗い影。絶対に知られてはならない女関係。平凡な日常生活にひそむ深淵の恐ろしさを描く7編。
3.『駅路』
『張込み』と同じく、選りすぐりのミステリ短編が収められた作品集。
『張込み』よりもバラエティに富んだ印象ですね。
推理小説というのはあくまで枠組みにすぎず、その中に人間性を社会性を織り交ぜて、もはや別物になっているのが凄いです。
短編ならではのキレが目立つものもあれば、長編で読みたいくらいに凝った筋書きのものも。うーん、贅沢。
『白い闇』『捜査圏外の条件』『ある小官僚の抹殺』『巻頭句の女』『駅路』『誤差』『万葉翡翠』『薄化粧の男』『偶数』『陸行水行』の10編。
邪馬台国の謎を追究する郷土史家を描きながら、“邪馬台国論争”に関する著者の独創的見解を織り込んだ力作「陸行水行」。他に「ある小官僚の抹殺」「万葉翡翠」など全10編。
4.『或る「小倉日記」伝』
松本清張傑作短編集の「現代小説編」。
というわけで推理物ではない(ミステリっぽいモノもある)ですが、松本清張を読む上で絶対に外せない作品集です。
表題作『或る「小倉日記」伝』は松本清張の原点とも呼ばれていますからね。
初めの頃は松本清張といえばミステリばっかり読んでいたんですけど、これを読んで「ミステリ以外も読んでみよう」と思いました。
決して明るい話ではないですが、とにかく印象に残る。哀しい。『石の骨』がかなり好き。
旧石器時代の人骨を発見し、その研究に生涯をかけた中学教師が業績を横取りされる「石の骨」。功なり名とげた大学教授が悪女にひっかかって学界から顛落する「笛壺」。他に9編を収める。
5.『黒地の絵』
これも短編集。選んでいて思ったけど、やっぱり松本清張の短編は面白い。
この『黒地の絵』には、他の短編集と比べても、特に怖い、ブラックな味わいの短編が多く収録されています。
一遍一遍の迫力が尋常ではありません(ほかの短編集にも言えることですが)。
『或る「小倉日記」伝』と同じく「現代小説」の第2集なので、推理短編集ではないのですが、美術モノの『真贋の森』『装飾評伝』は傑作でしょう。
ほか、『二階』『拐帯行』『黒地の絵』『紙の牙』『空白の意匠』『草笛』『確証』など名作ぞろい。
もちろん、読んでいて気持ちの良いものではないので、苦手な方は注意。気分が落ち込んでいる時などには、読まないほうが良いです。
朝鮮戦争のさなか、米軍黒人兵の集団脱走事件の起った基地小倉を舞台に、妻を犯された男のすさまじいまでの復讐を描く「黒地の絵」。美術界における計画的な贋作事件をスリリングに描きながら、形骸化したアカデミズム、閉鎖的な学界を糾弾した「真贋の森」。
6.『点と線』
松本清張の長編ミステリといえばコレ。
時刻表を使ったアリバイ崩し系の傑作です。
あまりにも有名な名トリック《空白の4分間》はぜひ目にしておきたいところ。
今の時代のミステリを読んでいる人ならトリックはわかる、なんてたまに言われたりしていますが、わからないですよ笑。
良くも悪くも当時(昭和30年代)ならではのトリックですので、私にとっては逆に新鮮なものでした。
トリックだけでなく、物語の演出やリアリティにも注目。
そして読み終わった後、『点と線』というタイトルの素晴らしさにウットリ。
時刻表を駆使した精緻なトリックと息をのむアリバイ崩し。著者の記念碑的作品となったトラベル・ミステリーが、風間完画伯の挿画入りであざやかによみがえる。
7.『眼の壁』
『点と線』と同時期に連載されていた、社会派ミステリの名作。
総額3000万円の手形を騙し取られた上司が責任を負って自殺した。部下である萩崎は復讐を誓い、新聞記者の友人の力を借りながら事件の真相を突き止めていく。
しかしその背景には、巨大組織の影がうごめいていて……。
警察ではなく、普通の会社員が主人公、ってところが良いですね。その分『点と線』よりサスペンスとしての面白さが増しているように思えます。
素人でありながらも懸命に事件の真相を暴こうとする姿には感銘を受けますが、相手が相手だけにドキドキさせられっぱなし。心臓にわるいです。
最後には、もちろん驚きが。
白昼の銀行を舞台に、巧妙に仕組まれた三千万円の手形詐欺。責任を一身に負って自殺した会計課長の厚い信任を得ていた萩崎は、学生時代の友人である新聞記者の応援を得て必死に手がかりを探る。
8.『黒革の手帖』
この作品も、何回もドラマ化されているので、ご存知の方も多いでしょう。最近では、2017年に武井咲さんが主演をされていましたね。
女性銀行員だった原口元子が銀行のお金(7500万円!)を横領し、銀座にクラブを経営。欲にまみれた元子は、お金持ちの男たちから金を巻き上げていく。
銀座のクラブなんて私には一生縁がないだろうし、どちらかといえば好みではないのだけれど、松本清張が書くとなんでこんなに面白くなっちゃうんでしょうね。手に汗握るノンストップサスペンスってこういうこと。
お金の巻き上げ方と、どんどん悪女になっていく元子の様子にゾクゾク。結末がどうなるのかわかっているのに、何度読んでも〈あの最後の展開〉にはハラハラしますね。
ラストは、思わず「うわあああ」です。これですよ、松本清張は。
7500万円の横領金を資本に、銀座のママに転身したベテラン女子行員、原口元子。店のホステス波子のパトロンである産婦人科病院長楢林に目をつけた元子は、元愛人の婦長を抱きこんで隠し預金を調べあげ、5000万円を出させるのに成功する。
9.『ゼロの焦点』
長編代表作の一つですね。
新婚早々に失踪してしまった夫の行方を追っていく。
古臭さを感じさせないし、文章も読みやすいし、テンポも良いのでサクサク読める。松本清張って読みにくそう、と思っている方が読んだらびっくりするのではないでしょうか。
「有名作品だからとりあえず読んでみようかな」という理由で全然良いので、読んでみましょう。大正解です。
トリックと犯人に驚く推理小説、というか、推理小説の皮をかぶった社会派小説に近いかも。とにかくストーリーが面白い。当然のごとく、一気読み。
前任地での仕事の引継ぎに行って来るといったまま新婚一週間で失踪した夫、鵜原憲一のゆくえを求めて北陸の灰色の空の下を尋ね歩く禎子。ようやく手がかりを掴んだ時、“自殺”として処理されていた夫の姓は曾根であった!
10.『球形の荒野』
昭和30年代の雰囲気がたまらない、ミステリとしてもヒューマンドラマとしての名作でもありますね。
時代背景、心理描写の巧さはもちろん、今作では特に「伏線の回収」の仕方が好きです。
ミステリではあるけれど、かなり温かみのある読後感なのが嬉しい。
最後まで読むと、『球形の荒野』というタイトルの意味がわかります。拍手。
芦村節子は旅で訪れた奈良・唐招提寺の芳名帳に、外交官だった叔父・野上顕一郎の筆跡を見た。大戦末期に某中立国で亡くなった野上は独特な筆跡の持ち主で、記された名前こそ違うものの、よもや…?という思いが節子の胸をよぎる。
11.『砂の器』
松本清張の作品の中でも特に有名ですね。
とある駅の操車場で発見された男の死体。唯一つの手がかりは男が喋っていた東北弁と「カメダ」という言葉のみで、事件は迷宮入りかと思われた。
しかしベテラン刑事の今西はの奮闘により、少しづつ真実が見え始めてくる。
「なんでもっと早く読んでいなかったんだ、ちくしょう!」ってくらいに面白いです。やっぱり、今西刑事の執念とも言える「地道な捜査」が良い味を出しているんですよ。
おすすめなのは間違いないのですが、推理小説として読むと、結構評価が分かれるのではないでしょうか。特にあのトリック。私は好きですけど。
映画版が名作すぎた、っていうのもあるんでしょうけどねえ。
東京・蒲田駅の操車場で男の扼殺死体が発見された。被害者の東北訛りと“カメダ”という言葉を唯一つの手がかりとした必死の捜査も空しく捜査本部は解散するが、老練刑事の今西は他の事件の合間をぬって執拗に事件を追う。
12.『日本の黒い霧』
戦後の日本で次々に起きた未解決の怪事件、「帝銀事件」「下山事件」「松川事件」をベースに、日本の闇に隠された真実を暴いていこうとするノンフィクション。
なのですが、これは、それらの事件に対しての松本清張の推理を楽しむ「小説」として読むべきでしょう。楽しいですよ、松本清張の推理を読む、ということは。
当時日本を占領していたアメリカのGHQも絡んでくる壮大で重いストーリーで、超読みやすいってわけではないけれど、それでもグイグイ読まされてしまう圧倒的筆力。
こういう未解決事件に迫る話、好きなんですよね。今でもたまに『未解決事件 日本』とネットで検索してみては、一人でゾクゾクしてます(´∀`*)
戦後日本で起きた怪事件の数々。その背後には、当時日本を占領していた米国・GHQが陰謀の限りを尽くし暗躍する姿があった。しかし、占領下の日本人には「知る権利」もなく真相を知る術もなかった。
おわりに
というわけで、私の「松本清張おすすめ作品トップ12」はこんな感じですかねえ。
迷ったら、まず『張込み』や『黒い画集』『或る「小倉日記」伝』『黒地の絵』あたりの「短編集」から手に取ることをおすすめしております。
ぜひ、参考までに(*´∀`*)
コメント
コメント一覧 (2件)
出ました、松本清張!
恥ずかしい限りなんですが、少し前まで社会派に偏見があって、松本清張を全く読んでいないんです。
唯一映画の「天城越え」だけ観たのですが。
ここ最近面白い社会派(「天使の傷痕」等)に出会って興味が出てきたのですが、如何せんコテコテのトリック偏重の本格を優先してしまっておりました。
そんな折、こちらで松本清張を紹介して頂いて今度こそ買う決心がつきました。
とりあえず「張込み」「点と線」辺りから買ってみます。
追伸:
以前ご紹介の「地獄の奇術師」読了致しました。
雰囲気抜群で、面白かったです。
これからも良質な書評期待しております。
出ちゃいました!松本清張!
いえいえ、私も松本清張を手に取ったのは本を読み始めからしばらく経ってからでした。私は単純に「読みにくそう」「難しそう」というイメージがあったからなんですよねえ。
おお、そうなんですね!天使の傷痕、素晴らし。それは良いタイミングでした。少しでも松本清張の世界に足を踏み入れていただければ嬉しいです。
地獄の奇術師の雰囲気、良いですよね。お気に召していただけたようで、嬉しいです。
そして、嬉しいお言葉ありがとうございます。ちぃさんにはいつも、励ましていただいております(*´∀`*)