宏哉の通う鏡沢高校には校則がなく、髪を染めるのも、ピアスをつけるのも、派手な服装で登校するのも、個々の自由だった。
その代わり「法律」だけは絶対に守らなければならず、生徒は入学時に分厚い六法全書を渡されており、校内には監視カメラがあちこちに設置されていた。
もしも違法行為をした場合、朝礼で名を明かされた上で厳罰を受けることになる。
ある日、1年生が上級生の財布を盗むという事件が起こった。
罪はたちまち全校生徒に晒され、その生徒はクラスで公然と無視され始める。
無視はもちろん良いことではないが、法律で禁じされていないため、学校側は特に諫めようとしない。
「法律違反でなければ何でもしていいのか?」
宏哉はどうにも納得できず、ある行動を起こす。それが「異端」への道であるとも知らずに―。
やがて宏哉は、鏡沢高校だけでなく、この街全体に広がる歪みに気付き、対峙していくことになる。
何が異端で何が正しいのかを問う、衝撃の特殊設定リーガルミステリー!
違法でなければ何をしても許される?
『魔女の原罪』は、西洋でかつて異端とされていた魔女をテーマに、架空の都市・鏡沢ニュータウンで起こった凄惨な事件について描いたミステリーです。
冒頭に「魔女と魔法使いの違いを知ってる?」というセリフがあるのですが、その答え、わかりますか?
正解は、「魔法使いには善人もいるけれど、魔女は存在自体が悪」です。
簡単に言うと、「魔女はどんなに性格が良くても、どれほど善い行いをしていても、必ず悪だとみなされてしまう」ということですね。
そして周囲の人々は、魔女を異端として排除する。
これって「多数派こそが正義」という歪んだ考え方に通ずるので、なんだか怖いですよね。
『魔女の原罪』の舞台となる鏡沢高校や鏡沢ニュータウンでは、まさにこの考えがはびこっています。
なにせ、一人の生徒をクラス全員で徹底的に無視しても、先生は止めないくらいです。
明らかないじめなのに、「無視は別に法律違反ではないから」と、容認しているのですよ。
主人公の宏哉は正義感が強いため、その様子に我慢ならず、疑問を投げつけてしまいます。
ところがそれにより、今度は宏哉が「多数派に背いた異端」としてターゲットにされてしまうのです。
これだけ見ると、『魔女の原罪』はいじめをテーマとした学園モノのようですが、実はこれは氷山のほんの一角。
中盤にある事件が起こり、ここから物語は本筋に入り、どんどん不穏に、どんどん血生臭くなっていくのです。
少女の変死体と街の秘密
さて中盤に何が起こるのかというと、宏哉のクラスメイトの杏梨が、土砂降りの中、遺体で発見されます。
それも全身の血を残らず抜かれているという、なんともむごい姿で。
宏哉と杏梨はクラスだけでなく部活も一緒ですし、二人とも定期的にクリニックで人工透析を受けているので、よく見知った間柄です。
その杏梨が無残な遺体となり、ショックを受ける宏哉。
しかもその後、なんと宏哉の母親・静香が殺人容疑で逮捕されてしまって、ショックは二倍。
でも宏哉は挫けず、鏡沢高校の先生で元弁護士の佐瀬と一緒に、事件の真相を探ろうとするのですが…。
というのが後半の流れです。
見ての通りミステリー色がグッと強くなりますし、宏哉たちが調べるにつれて驚きの事実が次々に明らかになりますし、もうドキドキして目が離せません!
特にビックリさせられたのが、鏡沢ニュータウンに隠されていた秘密。
実はこの地には、ある特殊な事情を持つ人々が集まっていたのですね。
そしてこのことが、鏡沢高校が校則もないのに法律に強くこだわっていた理由に関係してきます。
また、宏哉が人工透析を受けていた理由にも……。
このように、前半で散りばめられていた謎が、後半になると点と点とを結ぶようにどんどん繋がっていくため、ページをめくるたびに「なるほど!」や「面白い!」という気持ちが沸き起こります。
この他にも衝撃の真相がザクザクと出てきますが、それはご自身でご確認を。
「異端」とは一体何で、どんな悲劇や狂気をもたらすのか、ぜひ戦慄しながら読んでみてください。
法廷でのリアルなクライマックスが圧巻
『魔女の原罪』の作者・五十嵐 律人さんは、リーガルミステリーを得意とする作家で、現役の弁護士でもあります。
司法修習生時代から「法律の魅力を伝えたい」というお気持ちで執筆されていたそうで、なるほど五十嵐さんの作品には法律がよく登場しますし、舞台も大学の法学部や法廷だったりします。
法律というとお堅くて難しそうなイメージがありますが、五十嵐さんの作品では全くそのようなことがなくて、むしろライトで読みやすいところが魅力。
『魔女の原罪』でも、難解な蘊蓄は基本的に出てこないし、専門用語にはわかりやすい説明がついているので、法律に不慣れな人でも物語の世界にすんなり入って行けるのですよね。
それでいて、法廷での臨場感やリアリティは流石の一言!
『魔女の原罪』のクライマックスの舞台はまさに法廷なのですが、繰り広げられる舌戦が激アツで、追い詰めたり追い詰められたりと一進一退する緊迫感もすごくて、読んでいて手に汗握りまくりでした。
ここは現役の弁護士さんだからこそ描けたシーンであり、本書で一番の見どころだと思います。
リーガルミステリーがお好きな方にはもちろん刺さること間違いなしの作品ですし、学園ミステリーが好きな方、地域ぐるみのドロドロした感じが好きな方にもおすすめです。
きっとハラハラドキドキで一気に読めてしまうことでしょう。
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