ナイジェリア最大の都市ラゴス。
そこで暮らしている真面目な看護師・コレデはある日、美人の妹・アヨオラからかかってきた1通の電話に悩まされることになる。
「ねえコレデ、殺しちゃった」
アヨオラは過去にも2度、交際中の彼氏を殺害しており、今回で3度目の犯行である。
これまで通り死体の処理を進めていた2人だったが、繰り返される殺人事件がきっかけとなり、次第に警察の捜査が迫り始める。
そんな中、コレデが職場内で密かに好意を抱いていた医師・タデと、妹・アヨオラが互いに惹かれ合っていく。
アヨオラは、また同じ過ちを犯してしまうのだろうか。
そして、姉妹の運命は今後どうなっていくのか…….。
ナイジェリアを舞台にした、スリリングなサイコミステリー。
事件を隠蔽する姉妹の絆が生み出す、緊迫感のあるストーリー
本作では、3人の人間を殺害した自由奔放な妹・アヨオラと、妹を救うために事件の隠蔽を試みる真面目な姉・コレデが主人公となって、物語が進行していきます。
2人は性格も外見もすべてが正反対で、思いやりのある姉がシリアルキラーに変貌を遂げた妹に度々振り回されるシーンは、何度も同情してしまいます。
姉の私生活に終始割り込んでくる妹の存在によって、読者はモヤモヤとした気持ちを感じつつも、いつ警察の捜査が迫るか分からないスリリングな展開に圧倒されていくことでしょう。
客観的な立場で物語を見つめる読者にとっては「自分勝手な妹との縁なんか切ってしまえ!」と叫びたくなる展開が盛りだくさんですが、愛する妹のために思わぬ方向へと奮闘する姉自身はいたって真面目で、もはや狂気さえ感じさせます。
妹はなぜ同じ過ちを繰り返してしまい、姉はなぜそこまでして妹を庇うのか?
私達読者は、こうした問いかけを終始投げかけながら、姉妹2人の行末を見守っていくことになります。
殺人容疑者の視点から描くサイコミステリーの世界観を楽しみたい方はもちろん、姉妹の歪んだ絆がもたらす緻密な心境変化に感情移入したい方にもおすすめしたい1冊です。
重苦しいテーマでありながらも、どこか馴染みやすい描写
繰り返される妹の殺人に姉妹の歪んだ絆、そして、姉が好意を寄せる医師と妹の予期せぬ出会い。
ここまでの内容からご想像いただける通り、本作の物語は、重苦しい空気感に包まれたストーリー展開が盛りだくさんです。
こうしたテーマが、冒頭からこれでもかと言うほど襲ってくるため「暗い気持ちへと引きずり込まれてしまうかもしれない」という不安でいっぱいになってしまうかもしれませんが、心配は無用です。
読者に直接語りかけるような文体はテンポが良く、200ページ弱の中編小説を短めの章立てで仕上げているため、いやな息苦しさや余韻を残すことなく、ぐんぐんと読み進めていけます。
そのうえ、暗い雰囲気を漂わせる物語に散りばめられたドライ・ユーモア溢れる描写は、不謹慎ながらも、クスッと笑える面白さを秘めているのです。
歪んだ絆が引き起こす姉妹の言動はサイコパスのような印象を与えますが、2人の過去の経験を知っていくにつれて「自分も彼女達と同じ立場だったら、同じようなことをしていたのかもしれない」と、度々考えさせられるようになります。
このように、軽快な描写と深みのあるストーリー設計によって、読者が姉妹自身あるいは周囲の傍観者になったかのような感覚で物語の世界に浸れるのは、本作の魅力の1つといえるでしょう。
2人の姉妹が描くサイコミステリーの結末は……。
著者のブレイスウェイトさんは1988年にナイジェリアで生まれ、英国キングストン大学卒業後にデビュー作である本作を発表し、作家としてのキャリアをスタートさせました。
同著は、ロサンゼルス・タイムズ文学賞ミステリー部門とアンソニー賞で優秀新人賞を受賞し、その他の開催コンテストの候補作にも選ばれました。
デビュー作であるにもかかわらずここまでの注目を集めた本作は、簡潔な文体と短めの章立てで構成されているのが特徴で、小説をあまり読んだことがない方でも序盤から物語の世界観に没頭できてしまう工夫が張り巡らされています。
誰もが馴染みやすいと感じる作品を創り出せるのは、ブレイスウェイトさんの詩人としてのキャリアが関係しているのではないかと思います。
詩には文字数に縛りがあり、小説に比べて表現が難しい執筆活動といえますが、そこで培われた「物事を端的に伝えるスキル」が、そのまま小説の執筆活動にも活かされているのかもしれません。
また、本作の魅力は読みやすさだけでなく、200ページ弱の中編小説とは思えないほどの奥深さと満足感を読者に与えている点も見逃せません。
古典的な殺人事件を軸にしながらも、その背景には、コレデとアヨオラの歪な姉妹関係や彼女達の家族問題、恋愛の三角関係など、数々の重厚なテーマが垣間見えます。
こうした数々のテーマが彼女達の心理と言動に影響を与え、思わぬ方向へとストーリーが展開されていくのです。
彼女達の傍観者といえる読者自身は、どこか危なっかしい2人の行末を見守る形で読み進めていく必要があるため、終始ヒヤヒヤした臨場感を味わうことになるでしょう。
シリアスな展開が数多く登場する本作ですが、読み終えたときには、1つの壮大な物語を体験した後の満足感を得られる良作になっていますので、興味がある方はぜひ読んでみてください。
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