最近5回目くらいの「実話怪談集」ブームがやってきました。
夏のせいですかね。
実話怪談集といえば「新耳袋」というシリーズが有名ですが、今回は同著者の新シリーズ『怪談狩り』の第三弾『禍々しい家』をご紹介させてください。
新シリーズの中でも特に粒ぞろいの怪談集でした。
今作に収められているお話は全て「建物」にまつわる怪異です。
好きなんですよ。「建物」がからむ怖い話って。
小野不由美さんの『残穢』や、三津田信三さんの『どこの家にも怖いものはいる』、最近では澤村伊智さんの『ししりばの家』など、建物怪談は読んでいて非常に楽しいのです。
なぜでしょう。やはり、身近に感じるからですかね( ゚∀゚)
収録されているお話はどれも面白かったですが、まずは特に印象に残った3編を簡単にご紹介です。
『角部屋からの訪問者』
Nさんが13階建てマンションの最上階部屋を購入。
本当は角部屋を購入したかったのですがすでに人が住んでいたので、そこから二番目の部屋に住むことになった。
そのまま何年か過ごしたが、角部屋の住人を一度も見たことがことがない。物音すら聞いたことがない。
そんなある日。
Nさんが寝ようとしていると、初めてその部屋から物音が聞こえてきた。
好奇心が湧いたので耳を澄まして見ると、何かが押入れから這い出るような音、パタパタと部屋を移動する音、隣の玄関のドアが空いて閉まる音が聞こえてきた。
すると部屋を出たその足音はNさんの玄関の前で止まり、かわりに「ガチャリ」とNさんの玄関のドアが開く音がした。
何かが、Nさんの部屋に入ってきた。
『メリーさんの家』
大阪の関西テレビで一躍話題となった『メリーさんの家』の完全版。
大分県側の林の中のどこかにあるというその館。
道を走っていると急にエンジンが止まったり、カーステレオが勝手に鳴り始めたり、ハンドルを取られたりする。するとそこに、メリーさんの館があるという。
その噂に興味を持った稲森さんは、仲間四人と館を探しながら車を走らせていた。
しばらく探索していると、ようやくメリーさんの館らしい建物を発見。噂通りエンジンは止まり、カーステレオが勝手に鳴り出した。
車に二人を残し、稲森さんとSさんがメリーさんの館へ向かう。そこで彼らはーー。
という、いかにもな幽霊屋敷話。しかも後日譚までありました。好きです。後日譚があると一気に信憑性がますのはなぜでしょう。
『置屋』
大学で民俗学の研究サークルに入ったFさんは、すぐにBさんと友達になった。
ある日Bさんが引越ししたというので、Fさんはすぐに遊びに行った。木造二階建ての立派な日本家屋だった。
ただこの建物、妙なことが起きるらしい。
夜Bくんが寝ていると、顔にパサっと長い黒髪がかかることが頻繁に起きているという。
しかしBくんは霊的なものは全く信じないため、誰かのいたずらだと決めつけていた。
そんなある朝、Bくんから「犯人を見つけた。すぐに来てくれ」という電話がかかってきた。階段を登って行った浴衣姿の女を、二階に追い詰めたのだという。
FさんはすぐにBくんの家に駆けつけた。だけど、Bくんがどこにもいない。携帯にも出ない。
その日から、Bくんは消息不明となった。
この時点で奇妙な話ではありますが、なんとここからが本番です。
ここからさらに、身の毛もよだつ恐怖体験が語られていくのです。短編とは思えないくらいの濃密で恐ろしい物語でした。
実話怪談集はこれまでもたくさん読んできましたが、まだこんな怪談があるのかと、なんか嬉しかったです。
怖い話は尽きないなあ……。
さてさて。
今回『怪談狩り 禍々しい家』をご紹介したのは、「面白い怪談がいくつも収められていたのでおすすめ」という他にもう一つ理由があります。
それは、「山の牧場」の後日譚が収録されているから、です。
実話怪談のレジェンド『山の牧場』
『山の牧場』とは、同著者の実話怪談集シリーズ『怪談新耳袋 第4夜』に収められている、著者自信が体験した怪談の一つです。
そりゃもうオカルト好きなら誰もが知っているってくらい有名な話で、一時期いろんなところで話題になっていました。
あらすじ
当時大学生だった著者が、卒業制作の映画ロケをするため、友人と車で山の中を探索していた。
すると、車一台がやっと通れるような細い道を見つける。
道を進んでいくと「あと30メートル」「あと20メートル」「あと15メートル」と白いペンキで書かれたドラム缶が置いてあった。
最終的に「終点」と書かれたドラム缶が道の真ん中に置いてあり、仕方なく車を降りて辺りを見回した。
そこには草原が広がっており、赤い屋根の牛舎と宿舎らしき建物があった。
どうやら牧場のようなのですが、それにしては奇妙なことがたくさんありすぎたのです。
1.牛舎は全く使われた形跡がなかった。
2.屋根に直径2メートルほどの凹みがあった。鉄球を落下させ、底が抜ける直前で引き上げたように。
3.牛舎の壁ギリギリのところで一台の中型トラクターが横転していた。しかも自らの轍(キャタピラの跡)の上で。つまり牛舎に向かって進んでいる途中、突如としてひっくり返ったという状態。近くに乗り上げるような障害物もない。
4.そもそも、自分たちは車一台がやっと通れる細い道を登ってきた。このトラクターはどうやってここまで登ってきたのか。
5.牛舎の近くに何かの実験室らしい建物があり、棚に収まってたと思われるフラスコやビーカーなどの器具が全て床に落ちて粉々に砕け散っていた。割れていない器具が一つもない。
6.二階建ての建物があり、一階には石灰の粉の山が二つあった。
7.しかも二階に部屋があるにもかかわらず、二階へ登る階段がない。
8.無理やり二階に侵入して探索。すると6畳ほどの和室に、雛人形や博多人形などが何体か天井を見上げたように転がっていた。
9.さらに、部屋いっぱいに何百枚単位の量のお札が、壁、畳、天井に貼り付けられていた。
10.襖に、白いペンキで「たすけて」と殴り書きされていた。
11.白い壁には見たこともない文字がビッシリ書かれていた。
12.途中拾ったメモ帳には、壁に描かれてるのと同じ見たこともない文字がビッシリと書かれ、人体図も書かれていた。
などなど、です。
サクッと書いただけでもこの量。
もしどれか一つだけだったら、そんなに怖くないかもしれません。ただのイタズラだと思えるものだってあります。
しかし些細な奇妙なことも、これだけの数が集まると得体のしれない恐怖に包まれるのです。
まだまだこれからも奇妙なことは続きますが、残りはぜひ本書で楽しんでください。著者の語り口調で読むと余計に怖いです。
そんな実話怪談の伝説とも言える『山の牧場』の後日譚が、2017年のついこの間発売された『怪談狩り 禍々しい家』に収められているのです。そりゃ読むしかないでしょう!
『怪談新耳袋 第4夜』が発売されたのが1999年。初めて『山の牧場』を読んだ時、他の実話怪談とは異なる特別な怖さを感じました。
歓喜です。まさか今になって『山の牧場』の後日譚が読めるとは。
おわりに
というわけでですね、この機会にぜひ『怪談新耳袋 第4夜』の『山の牧場』だけでも読んでみてください。
『山の牧場』をすでにご存知の方は、ぜひ『怪談狩り 禍々しい家』を。
やはり『山の牧場』押しになってしまいますが、たとえ『山の牧場』が収められていなくても『怪談狩り 禍々しい家』は実話怪談集として非常に面白い作品でした。
怖い話がお好きであれば、読んで損はないですよ(*´ω`)
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