エリー・グリフィス『窓辺の愛書家』- 本好きの老婦人や何人もの作家が殺されていく謎解き小説

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老婦人ペギーが、90歳で亡くなった。

大変な本好きであり、部屋には大量のミステリーが残されていた上、それらの全てに作者から彼女への献辞が書かれていた。

ペギーは「殺人コンサルタント」として、多くのミステリー作家に殺人アイデアを提供していたのだ。

ペギーは自然死とされたが、あまりに急な死だったことと、息子がペギーの持ち物を急いで処分しようとしたことから、介護士ナタルカは不審に思った。

そこで刑事ハービンダーに相談し、ペギーの部屋を探ってみたところ、突然覆面の人物が押し入ってきて本を一冊奪って行った。

現在では絶版になっている古い推理小説だった。

一体誰が何の目的でこの本を持ち去ったのか。

ペギーの死にはどのような秘密が隠されているのか。

本好き必見、「刑事ハービンダー・カー」シリーズ第二弾!

目次

ミステリーに関するネタが面白い

『窓辺の愛書家』は、老婦人ペギーが急死した理由を探る謎解き小説です。

ペギーがかなりの本好きで、何人ものミステリー作家の執筆に協力していたことから、作中には実在の推理小説や出版社、ミステリー番組のネタが多く登場します。

たとえば『ブラウン神父』や『ジェシカおばさんの事件簿』などなど、知っている方であれば思わずニヤリとしてしまう箇所が多々あり、そこが本書の魅力です。

もちろん他作品のネタだけで成り立っているわけではなく、『窓辺の愛書家』自体のネタもあり、これも相当面白い!

ペギーが「殺人コンサルタント」をしていたこと、死の直前に読んでいた本に謎のメッセージが挟まれていたこと、そして死後の捜査中に覆面の人物が一冊の本を奪って行ったことなど、興味をそそる展開が続きます。

さらに、そのメッセージがあった本の作者が頭を撃たれて死にます。

また、同じメッセージを持っていた別の作家も、インシュリンの過剰注射で死にます。

このように、ペギーの急死を皮切りに、彼女と交流のあった作家が次々に死んでいくのです。

この他、原稿の盗作疑惑や出版社の裏事情なども絡んでくるので、本好きや作家好きの方は、読みながらワクワクし通しだと思います。

そして終盤になると真相が一気に見えてくるのですが、これがまた意外性が高く、ラストまで驚きの連続!

犯人の正体や殺害の理由はもちろん、例のメッセージの意味も、あらゆる真相が読者の度肝を抜いてきます。

個性的な素人探偵たち

『窓辺の愛書家』は、本にまつわるミステリーとしての面白味はもちろん、探偵役の3人のキャラクター性にも魅力があります。

探偵役は、まずペギーの介護士だったナタルカ。

最初にペギーの死を不審に感じ、ハービンダー刑事に相談した人物です。

次に、ミステリーマニアのベネディクト。

元修道士であり、現在はカフェのオーナーをやっているという、面白い経歴の青年です。

そして、ペギーと同じマンションの住人であり、BBC(英国放送協会)の元コメンテイターで、実はゲイという、これまた個性的な設定の老紳士エドウィン。

この3人はとりわけ親しいわけでも、探偵としての経験があるわけでもないのですが、それぞれがペギーと何らかの関係を持っており、彼女の死を不審に思ったことをきっかけに真相を求めて一緒に捜査を始めます。

全くの素人探偵なので、勢いに任せた行き当たりばったりの行動も多いのですが、だからこそ読者としては先が読めなくて面白い!

時にハラハラ、時にクスッと笑わせてもらいながら、気が付けば3人の不器用な捜査を応援しながら読んでいることでしょう。

しかもそれぞれの過去や人生観までしっかり描かれており、3人とも重荷を背負いながらも今を精一杯生きている様子が伝わってくるところがまた良いのです。

また、ハービンダー刑事も良い味を出しています。

前作『見知らぬ人』にも登場し、シリーズ名にもなっているハービンダー刑事は、インド出身の女性刑事で同性愛者です。

やはり複雑な思いや過去を背負っていますが、3人の素人探偵を助け、協力し合い、最後には真犯人をズバリ当てるという活躍ぶり。

しかもちょっとほろ苦い恋もあり、なかなかに目が離せない動きをしてくれます。

このように『窓辺の愛書家』は各人物の描き込みが丁寧なので、そこに焦点を当てて読むと、より深く楽しめるでしょう。

前作との違いと共通点

『窓辺の愛書家』の作者エリー・グリフィスさんは、イギリスのベテラン作家です。

著書『見知らぬ人』では、2020年のアメリカ探偵作家クラブで最優秀長編賞を受賞しており、その続編にあたる作品が本書『窓辺の愛書家』です。

こちらも、英国推理作家協会で最優秀長編賞の最終候補作として選ばれました。

続編と言っても、前作と今作とでは物語のつながりは基本的にありません。

ハービンダー刑事を始めとする何人かの登場人物は共通しているものの、物語としてはそれぞれ全く違う方向に展開しています。

なにせ『見知らぬ人』は、中学教師の殺害や怪奇が絡むシリアスなミステリーでしたが、『窓辺の愛書家』は素人探偵3人が猪突猛進に事件に挑む、ユーモア交じりのコージーミステリーですからね。

また、前作が主人公の一人称で描写されているのに対して、今作は三人称なので、そこからも作品テイストの違いが感じられます。

そのためシリーズ物ではありますが、前作を読んでいない方でも全く問題なく楽しめるでしょう。

もちろん、一人称と三人称の違いはあれど、章ごとに主人公が切り替わり、複数の視点で多角的に物語を追っていくスタイルは健在。

何より、本や出版社がネタとして多く取り扱われているので、本が好きな全ての方におすすめしたい作品です。

ぜひ手に取って、作家たちの裏の世界を覗いてみてください。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)

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