十九世紀末のヨーロッパでは吸血鬼に人造人間、怪盗、人狼、切り裂き魔など異形の者が存在していた。
そんな中で人の血を吸わないことを誓った“親和派”の吸血鬼・ゴダール卿も、妻と二人の息子、娘と暮らしていたが、ある冬銀の杭を持ったヴァンパイアハンターに襲われてしまう。
そのときは返り討ちにしたものの、その数日後に妻が殺害されるという悲しい事件に見まわれた・・・。
妻は杭で胸を穿たれた挙句聖水をまかれていたことから、当初はハンターの犯行かと思われた。
しかし警察の捜査に不満な彼は、“怪物専門”の探偵に依頼をすることに。
依頼を受けた探偵、通称『鳥籠使い』一行は、果たして真実に辿り着けるのか―?
異形たちが繰り広げるミステリー!
物語の舞台は19世紀末ですが、その世界には人間だけでなく人造人間や吸血鬼、人狼など、さまざまな異形の生き物が共存しています。
ある日吸血鬼が何者かによって殺害され、怪物専門の名探偵である主人公輪堂鴉夜が犯人を探すことになりました。
ミステリー小説では王道中の王道である殺人事件を解決する名探偵、という構図でも、吸血鬼や人狼など人間ではない生き物が介入することでこんなにユニークな物語になるとは思ってもいませんでした。
一見するととんてもないファンタジーな作品ですが、殺害現場の状況などから探偵が地道に犯人を探していく様子は本格的なミステリー小説です。
さらにそこへそれぞれの異形たちの特性を活かした推理も取り入れられ、物語をより独特なものにしてくれています。
また、全体を通して明るい雰囲気で満たされているのも独特でした。
主人公を始め登場人物の台詞や会話が喜劇の脚本のような面白いものになっています。わざとらしくなりがちな台詞でも、この独特の世界観ならではの違和感のなさで楽しめます。
推理部分も本格的なので、ライトノベルが好きな方だけでなく、本格的なミステリー小説をよく読む方にもおすすめしたい一冊です。
さまざまな側面から楽しめる喜劇
「闇鍋本格ミステリ」というキャッチコピーにふさわしく、なんでもありな舞台設定でありながら本格的なミステリー小説要素の多い、これまでにない小説です。
ミステリー小説という分類ではありますが、さまざまな側面から楽しむことができ、多くの人に愛される作品になるのではないかと思います。
19世紀の世界が物語の舞台となっているため、ホームズなどの古典ミステリーが好きな方にはとくに楽しんでもらえそうです。
吸血鬼を始め異形のものたちが活躍する物語は、ファンタジー小説が好きな方にはたまらないでしょう。
ゴシックな世界観が好きな方にもおすすめです。
さらに、くり広げられるユニークな会話は舞台作品や喜劇が好きな方におすすめ。
普段ライトノベルをよく読む方にとっても入り込みやすいでしょう。
小説ではありますが世界観やキャラクター像がしっかりしているので、頭の中でアニメが再生されているように読み進めることができます。
普段小説を読まない方でもスラスラを読み進めることができますよ。
気軽に読めて、それでいてしっかりと物語を楽しめる小説を探しているという方はぜひチェックしてみてください。
人気シリーズ第一弾!今後の展開にも注目
作者の青崎有吾氏はライトノベル、ミステリー小説を多く執筆しています。
これまでに「体育館の殺人」で鮎川哲也賞を受賞しており、「水族館の殺人」では本格ミステリ大賞の候補作となった経歴があります。
その他にもさまざまなミステリー小説の賞の候補作になっており、読んだことがある、見かけたことがあるという方も多いのではないでしょうか。
シリーズ作品としては「ノッキンオン・トックドドア」シリーズも人気です。
このシリーズやアンデッドガール・マーダーファルスシリーズはよりライトノベル感の強い作品となっていますが、これまでのミステリー要素はそのままにされています。
これまでの青崎氏の作品を読んだことがある方も、より深みを増した今シリーズを読めば新鮮に楽しむことができるでしょう。
青崎氏の作品を読んだことがない方の一冊目としてもおすすめです。
続編から読むこともできますが、この第一弾から読み始めることでユニークなキャラクターたちへの理解を深めることができますよ。
作中には主人公二人の旅目的も書かれているので、これが続編にどう関係してくるのかという点にも注目して読んでみてくださいね。


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