英国カンブリア州のクリスマス。
パーティ中のフリン警部とポー刑事、ティリー分析官のもとに事件発生の連絡が来た。
州内の異なる3つの場所で、切断された指が2本ずつ発見されたというのだ。
しかもそれぞれの現場には「#BCC6」という謎のメッセージも残されていたという。
いずれの場所の指も、1本は生前に切断され、もう1本は死後に切断されたものだと判明。
つまり指の持ち主は、既に死んでいるということだ。
ポー刑事とティリー分析官は、フリン警部の指揮下、この猟奇的な事件を追う。
しかし事件の背後には、想像を絶する巨悪「キュレーター」が潜んでおり―。
英国を震撼させた「ワシントン・ポー」シリーズ、第三弾!
先を読めたと思ったら…?
「ワシントン・ポー」シリーズは、熱血刑事ポーとギフテッドの分析官ティリーが、様々な難事件を解決していく警察小説シリーズです。
『キュレーターの殺人』は、『ストーンサークルの殺人』『ブラックサマーの殺人』に続くシリーズ三作目となります。
一作目、二作目も猟奇的な展開でしたが、今作も同様。
クリスマスで華やぐ街のあちこちで、切断された人間の指が2本セットで発見されるのです。
運輸会社の事務所と、教会の礼拝堂と、精肉店の3ヵ所で、これってクリスマスシーズンに大活躍する施設ばかりですよね。
しかも指があったのは、プレゼントのマグカップの中、洗礼盤、調理カウンターと、やはり人目に付きやすい場所であり、犯人の何らかの意図が隠れていそうです。
さらに、それぞれに「#BCC6」という謎の文字列も残されています。
加えて2本の指は、片方が生きたまま切断、もう片方が死んでから切断されたという不気味さ。
単に猟奇的なだけでなく、不可解な点があまりにも多いこの事件を、ポーとティリーのバディが捜査します。
ポーの行動力とティリーの分析力とで、二人は徐々に核心に近付いていくのですが、その過程がもう骨が折れるの何の!
ヒントが見えたと思ったらハズレで、推理できたと思ったら覆され、の連続です。
なにせ作者のM・W・クレイヴン氏ご自身が、
「先が読めたと思うならあなたは注意が足りていない」
と仰っているので、そう簡単に謎が解けるはずがないっ。
だからこそポーとティリーが真相を探り当てた時には、あまりの意外性に心底ビックリしますし、大きなカタルシスを味わうことができます。
約600ページという長編ですが、ミステリーとして抜群に面白く、時間を忘れて一気読みしてしまうほどです。
バディとしての成長とニマニマ展開
『キュレーターの殺人』は、ポーとティリーの関係性も見どころのひとつ。
三作目ということで、二人の息はイイ感じに合ってきています。
ポーは仕事熱心で情に厚く、ガムシャラに行動して危険な目に遭いがちですが、今作ではティリーが支えになることで、持ち前の血の気の多さを良い方向で発揮します。
一方ティリーも相変わらず対人面はダメダメなものの、相棒として唯一心を許せるポーのおかげで天才的頭脳を上手に生かせるようになってきました。
このように、二人はバディとしてグングン成長!
また今作では、二人がより親密になるような展開もあり、そこにも注目です。
たとえば、ちょっとした事情からティリーがポーの家でシャワーを浴び、ポーのガウンを着るのですが、その姿を見たポーはあることを感じてしまいます。
ここはぜひ、ご自身でニマニマしながら読んでくださいね!
そして終盤でも読み手のテンションを上げるシーンがあり、危険な橋を渡ろうとするポーにティリーが、
「あたしはどこまでもついていく」
と、命がけで同行するのです。
ここも二人の信頼関係が強く感じられ、デンジャラスなシチュエーションも相まって、一層ドキドキさせてくれます!
シリーズのファンはもちろん、初めて読む方もきっと興奮せずにはいられない、おすすめのシーンです。
女性が第一線で活躍する新時代の警察小説
『キュレーターの殺人』の作者のM・W・クレイヴン氏は、作家になる前は軍隊に所属されていたそうです。
保護観察官(犯罪者や非行少年の再犯防止や社会復帰を指導する)として働いていた経歴があり、2015年に作家デビューされました。
その経験ゆえか氏の作品、とりわけ今作『キュレーターの殺人』はとてもダイナミックでスリリング!
凄惨なシーンもあれば豪快なアクションもあり、キャラクターも非常にテンポよく動くので、読んでいて映画のようにリアルで迫力ある映像が頭に浮かぶ方も多いのではないでしょうか。
そして犯罪心理も鮮明に強烈に描かれています。
というのも、よくある「犯人の気持ちもわかる」と読み手が同情できるような生ぬるいものでは決してなく、「こんな恐ろしいことを考えるなんて…!」とゾッとしてしまうレベルなのです。
理解しがたいくらいドス黒くて激しいところが、犯罪心理として逆にリアルに感じられます。
また、女性の活躍が多いところも今作の特徴です。
ティリーはもちろん、上司のフリン警部、指揮を執るナイチンゲール警視、解剖医のエステル、FBI捜査官のリーなどなど多くの女性が現場で生き生きと力を発揮しています。
特にフリン警部は、妊娠中で出産間近でありながら、潜入捜査をしたり犯人と直接渡り合ったりと出番が多く、いろんな意味で読み手をハラハラさせてくれます。
男性社会のイメージが強い警察で、女性がこうまで第一線で頑張る作品は現代的であり、数ある警察小説の中でも新しいタイプと言えそうです。
そういう点でも読み応えがあり、これからも応援したいシリーズですね!
イギリスでは既に続編が2冊刊行されているそうなので、それらが日本に上陸するのが今から楽しみです。


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