時は202X年、日本は地方の過疎化と少子高齢化により、経営破綻の危機に陥っていた。
そんな折、動画投稿サイトに謎の仮面人物パトリシアが現れ、テロを予告。
「日本政府は60日以内に地方を切り捨て、資本を大都市に集中させろ。さもなくば地方を無差別に攻撃する」
これにより、地方在住の国民8000万人が人質となってしまった。
さらに地方再生に取り組んでいた官僚・神楽零士が、不可解な方法で殺害された。
このショッキングな状況に、日本中が大パニック。世論も「地方を見捨てるべき」「救うべき」と真っ二つ。
そこで立ち上がったのが、過疎地に住むカリスマブロガー・晴山陽菜子。
元同級生の官僚・雨宮雫の協力を得て、テロに挑むが―。
新しいハウダニット、3D感覚で謎を追え!
『救国ゲーム』は、現代の日本を舞台としたミステリー長編です。
まさに我々が生きている日本での物語なので、登場するあらゆるものが身近です。
たとえばパトリシアのテロ予告は動画配信で行われますし、それに立ち向かう陽菜子は有名ブロガー。
そして殺害された神楽の首はドローンで、胴体は自動運転車両で運ばれるのです。
このように『救国ゲーム』では、今の時代ならではのツールが、テロや殺人に大きく関わってきます。
これが斬新で面白く、しかも身近であるがゆえに頭に映像が浮かびやすく、スリルある展開を二重に楽しむことができるのです!
犯罪が現代的なのですから、謎解きももちろん現代風。
なにしろ犯罪に空を飛ぶドローンが使われますから、従来のミステリーのような二次元的な追い方では、対抗しようがありません。
縦と横に加え、高さも計算し、三次元的に動きを追っていかなければならないのです。
かつて2DだったTVゲームが、現在では3D主流となっているように、ミステリーもまた時代と共に形を変えていくのでしょう。
『救国ゲーム』はまさに、その3D感覚で謎に立ち向かっていく、いわば新世代ミステリーです。
今までとは違う頭の使い方で、新しいハウダニットをぜひ堪能してください。
現実でも起こりえるリアリティ
『救国ゲーム』で事件の発端となっているのは、日本の過疎化問題です。
地方では若手が減り、事業は人手不足となり、衰退する一方。
それでいて住民がゼロになるわけではないので、国としては予算を使って、暮らしを支援しなければなりません。
これにより財政が圧迫されているため、地方はある意味、国にとってのお荷物になっています。
パトリシアはそれを憂いて、政府に「財政のためには地方を見捨てろ」と主張したのです。
この過疎化も財政難も、まさに今の日本が直面している問題です。
政府は頭を悩ませ続けていますし、各種メディアでも社会問題としてよく取り上げられています。
つまりパトリシアのような存在は、私たちが生きている世にも現れるかもしれない、ということです。
パトリシアだけではありません。動画を使ったテロ予告も、ドローンや自動運転車両を使った犯罪も、ありえます。
技術的には十分に可能なのですから。
この点もまた、『救国ゲーム』の面白さのひとつです。
架空の世界の物語とは違い、リアリティがある分、想像しやすく入り込みやすい。
読みながら、「明日にでも同じ事件が起こるかもしれない」と思わずにはいられません。
だからこそ先の展開が気になりますし、社会を救うための謎解きにも、つい夢中になってしまうのです。
考えてみてください。あなたが住んでいる地域が、テロのターゲットになってしまったら?
あなたが住んでいる地域に、過疎地から8000万もの人がなだれ込んできたとしたら?
想像すればするほど『救国ゲーム』は面白く、ハラハラドキドキしながら読めると思います!
ミステリーを楽しみながら社会問題にも向き合える
国民8000万人が人質となったり、ドローンで生首が運ばれてきたりと、アイデアもトリックもとても斬新で、エキサイトできる作品でした。
結城真一郎さんは、東京大学の法学部を卒業した作家です。
『救国ゲーム』は、その学歴に大きくうなずいてしまうくらい、緻密なロジック満載のミステリーです。
とはいえ決して難解すぎるわけではなく、文章のテンポが良く、セリフも今時の口調なので、サクサクッと読めますよ。
ただ登場人物には天才が多く、犯罪は優れた知能を使って行われますし、それを追う雨宮もまた超絶思考で暴いていきます。
この天才と天才による頭脳戦はさすがに複雑で、読み手も頭をフル回転させられます。
しかしだからこそ読み応えがあり、一度読み終えた後も、繰り返し読んでもっと深く理解したくなります!
また上でも述べましたが、『救国ゲーム』の根本には、日本の過疎化や財政難の問題があります。
そのため読了後に、これらの問題について改めて考えてみる人も多いのではないでしょうか。
大都市と地方との格差、増え続ける国の借金など、いずれもとても身近な問題で、我々も無関心でいるわけにはいきません。
そういう意味では『救国ゲーム』は、ややもすると社会問題から目を背けている我々に、考えるきっかけをくれる作品だと思います。
新世代ミステリーを楽しむためにも、今の時代や社会に向き合うためにも、ぜひ多くの人に読んでいただきたい作品です。
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