ある高校で連続して三人の生徒が自殺をしたことから物語は始まります。
一人目は首吊り、二人目と三人目は飛び降り。
この三件の自殺には同じ文面の遺書が残されていたことから、何か深い関係があるのではないか?と噂が立ちました。
主人公は連続自殺にショックを受けたクラスメイトの家を訪問します。
彼女は連続自殺について、あの三件は自殺ではない。自分も殺される、と発言します。
なんとその犯人は生徒を殺したのではなく自殺させる能力を持つというのです。
ある出来事から主人公もその能力を認め、協力して犯人を探っていくことになりました。
主人公たちはたった一度のチャンスから犯人を捕まえることができるのでしょうか。
特殊能力を用いた新感覚のミステリ小説でありながら青春小説としての一面もあり、どのようなラストが待っているかまったく見えないハラハラドキドキの一冊です。
浅倉秋成『教室が、ひとりになるまで』
北楓高校で起きた生徒の連続自殺。ショックから不登校の幼馴染みの自宅を訪れた垣内は、彼女から「三人とも自殺なんかじゃない。みんな殺された」と告げられ、真相究明に挑むが……。
特殊能力を取り入れているものの、きちんとミステリ小説になっている見事な小説でした。
作中では特殊能力にはさまざまな制約があり、謎の解決にも重要な役割を担っています。
犯人は相手を自殺させる能力を持っているため、主人公たちももしかすると既に能力にかかっているかもしれない、殺されてしまうかもしれないという不安を一緒に感じることもできます。
能力ものは少しでも違和感を覚えると世界観に没入できなくなってしまいますが、今作はありふれた高校が舞台であることも相まってすぐに感情移入することができました。
仮説を元に推理を進めていく様子は本格的なミステリ要素も強く、ミステリ小説好きでも満足できる仕上がりになっています。
そしてラストの犯人と対峙するシーンは映画のように盛り上がり、一気に読み進めてしまうことでしょう。
ミステリ、青春、特殊能力といった派手な要素が目立つ今作ですが、その奥にはスクールカースト問題も盛り込まれています。
クラスの中心グループに入れなかった人、クラスの熱い雰囲気に馴染めなかった人などには強く共感できる部分があるでしょう。
反対に、クラスの中心にいた人たちにとっても、別の視点から学生時代を思い返す良いきっかけになりそうです。
社会に出ても作中に描かれるような同調圧力はさまざまなシーンで見られます。
それを感じたときにどのように行動するか、もし自分に特殊能力があったらどうするか?ということも考えてしまいます。
連続自殺の問題が解決してもこのようなクラス間の問題は終わりません。
ラストの展開には、主人公の友弘に感情移入して切ない気持ちになることでしょう。なんともいえない余韻を感じさせる読後を味わえます。
浅倉秋成さんの青春ミステリは本当に面白い!
今作「教室が、ひとりになるまで」は本格ミステリ大賞小説部門、日本推理作家協会賞長編及び連作短編集部門にノミネートされました。
デビュー作「ノワール・レヴナント」では講談社BOX新人賞を受賞しましたが講談社BOXという文芸レーベル内だけでの賞だったため知名度が低く、今作のダブルノミネートで一気に文芸界で注目を集めることとなりました。
今作で浅倉秋成氏の名前を知ったという方も多いのではないでしょうか。
2019年に出版され、2021年に文庫化されたばかりの注目作です。
有名なミステリ賞にノミネートされたことや特殊能力といった点が話題を集めていますが、社会的な問題も丁寧に描いており、軽快な文体でありながらしっかりと読み応えがある作風です。
ミステリ小説として、青春小説として、さまざまな面からいろんな楽しみ方ができるのも魅力的なポイントです。
他にも浅倉氏は不思議ながら切ない恋愛を描く「九度目の十八歳を迎えた君と」や、ちょっとした嘘が大きな事態に展開する「失恋の準備をお願いします」など、ユニークかつ爽快な作品を発表しています。
今作が気に入った方は作者の他の作品もチェックしてみてください。
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