“生ける廃墟テーマパーク”の屋敷内に建つ奇怪な屋敷を舞台に、謎解きとホラー要素も入ったミステリー作品となっている、凝った作りの本作。
作者の大ヒット作『屍人荘の殺人』シリーズ第3弾という位置付けではあるものの、最初に登場人物の自己紹介が載っているため、本作から読んでも楽しむことができます。
通常のクローズドサークルものと異なり、内部要因でその状況が発生するという驚きの設定となっており、本格ミステリーを超えた人間ドラマとしての美しさや思想、考え方も垣間見ることができるというのが一つの魅力となっています。
しかし特殊な状況で、登場人物たちの主張は互いに矛盾を抱えていて、同じ事件から受ける彼らの印象も一致しません。
次第に詳らかにされていく恐ろしい真実や、瞬きを忘れる程に引き込まれる心理戦で新たな事実が明らかにされるなど、読み進めるにつれて情報がどんどんアップグレードされていきます。
推理がどこまで正しいのかもわからない主人公の主観で物語は動いていきますが、それでも読み進めていく中で徐々に事件の恐ろしい背景や真実が浮かび上がってきます。
「入ったら二度と出てこれない」と囁かれる場所で明かされる事件の意外な真実、そしてそこに至るまでの設定を生かした強烈なトリックに、読者は大いに驚かされることになるでしょう。
【読み進めるにつれて超常現象に翻弄される読者自身】
『本物の監獄のようだ。それが目的の建物を前にした率直な感想だった。』の一節から始まる本作は、最初から不気味な空気を漂わせており、これから始まる恐怖を予感させます。
一人また一人と殺される緊迫感溢れる展開の最中、次々と巻き起こる事件、迫りくるハリウッド映画のような「怪物」の存在には悍ましい部分があり、リアルな襲われる描写にハラハラドキドキの連続が続くこと間違いなしです。
超常現象を違和感なく取り込んでおり、その背景には悲劇的な要素もあるので、主人公と一緒に胸が痛い気持ちも抱えながら推理していくことになります。
読み進めるにつれて怪異の不気味すぎる存在感をありありと強く感じ、凄惨で緊迫感のある描写に呑み込まれていきます。
後半の盛り上がりが凄まじく、クローズドサークル・推理ミステリーの世界観に呑み込まれていくような面白さを感じられます。
【本格推理小説としての面白さと独特の雰囲気】
広大な屋敷の見取り図とタイムテーブルを睨めっこするタイプの本格推理小説となっており、読み進めると話に振り回されるような楽しさを感じることでしょう。
登場人物それぞれの主張を読み進めていくことで初めて、その人たちがどういった立場なのかを徐々に知ることが出来るようになっています。
そして様々な条件から、屋敷に留まることを選ばざるを得ない心理的クローズドサークル展開となっており、ただ怖いだけではなくクスッと笑える古典的な表現もあるので、そのさじ加減は見事としか言いようがありません。
登場人物によって異なる事実の受け止め方や認識のズレ、明らかにされる事実に、読者は次々と翻弄されていくことになります。
「果たして裏切り者は誰なのか…」という謎に、読者はハラハラさせられるというわけです。
こういった本格推理小説特有の雰囲気を、クローズドサークルミステリーと同時に味わえる“クローズドサークル・推理ミステリー”としての魅力が、本書には詰まっているといえます。
【クローズドサークル・推理ミステリーの一冊目ならコレ!】
特殊設定によるクローズドサークルものとして出版されることとなった本作。
単話としても傑作なのでこちらから読むも良し、シリーズならではの楽しみもあるので1,2作目の『屍人荘の殺人』『魔眼の匣の殺人』を読んでからこちらを読むのも良し。
こちらの3作目はすでにクローズドサークル・推理ミステリーの決定版として絶大な評価を得ており、推理小説やクローズドサークルもの、ミステリーに興味がある方にとってはもはや必読の小説と言っても過言では無いでしょう。
あまりクローズドサークルものには興味を持ってこなかった、という方は読むのに躊躇するかもしれませんが、それはちょっともったいない!
むしろ、この本を読むことによってクローズドサークルものの面白さに目覚めることができるかもしれません。
クローズドサークルものに興味が無くても引き込まれるほどに、本書は“推理ミステリーとしての面白さ”も十分に兼ね備えているということができるのです。
物語の凝った内容構成、推理を進めることで明らかにされる意外な真相、それらの真実すら飲み込んで流れていく超常現象。
推理ミステリー好きの方、クローズドサークル小説デビューを果たしたい方、ただただ読み応えのある推理ミステリーを読みたい方など、推理ミステリーや読書が好きな方は読んで損はないハズ!
出版されたばかりのこのタイミングで、胸を鷲掴みにされる覚悟を持ちながら、ぜひ一読してみてください。


どうしてこんな事が考えつくんだろう?
と、もうそれだけです 最高のクローズドサークルでした(*Ü*)
特殊設定を付け加えてしまうことで普通なら難易度が格段にあがりできることに制限がかかってしまい窮屈な物語になってしまいそうなものですが、やはり今村さんは最高です… こんなクローズドサークルは体験したことがありません
わりと破天荒な設定なのにとてもロジカル 細かいピースをはめ込んでいくような解決編は鮮やかでした…