京極夏彦『虚談』-全ては虚。何もかも虚。

2018年2月に発売された、京極夏彦「虚談」

京極作品は怖いストーリーが多いので、夏向きですよね~。

最近は、女性でも読みやすい作品が多くなっていて、好感度がますますアップ中!(?)

そんな物語の中でも今回は、「虚」で綴られる、ちょっと不思議なストーリーです。

目次

『虚談』あらすじ

「虚談」は9編のショートストーリーで構成されています。

そのため、あらすじはそれぞれ異なりますが、共通しているのは、全部の話が「虚談」だということ。

「虚談ってことは嘘ってこと?」

そう思うかもしれませんが……。

 

 

はい!そうなんです。

タイトルで「虚談」という壮大なネタバラシが行われているにも関わらず、それを承知でまずは読み進める、これが京極夏彦先生のやり方です。

主人公は、元デザイナーで小説家のナッちゃん。

これは、「夏彦」のナッちゃんだと思って良いですね。

この辺りからも、実話なの?虚なの?と頭の中に迷いが生じてしまいます。

 

人から相談されやすい「ナッちゃん」は、周囲の話へ耳を傾けているうちに、なんとも答えが出ない世界へ迷い込んでいきます。

しかし、最後はすべて「虚」で終わってしまうストーリーが9つ。

こんな調子ですので、あらすじをチェックするのではなく、ナッちゃんになったつもりで、ぽんと物語の中へ飛び込んでしまった方が楽しめる作品になっています。

嘘ばかりな「虚談」の読みどころは?

「虚談」の読みどころは、嘘だと言われているのに、分かっているのに読後に頭がグラグラしてしまうこと。

例えば、1話目の「レシピ」の終わりは

【この話は――最初から最後まで、全部嘘だからである。】

4話目の「クラス」は

【今、見聞きしているこの現実らしきものこそ――。嘘なのかもしれないのだし】

といった調子です。

じゃあ、読み終えた私が「嘘かい!」とツッコミたくなる……訳でもなくて。

「虚談」だと言われているにも関わらず、いつの間にか世界へ引き込まれ、現実かどうかが分からなくなってしまうんです。

「はい、嘘でした」

そう言う京極夏彦さんに対して、

「ねぇ。本当に嘘なの?どっち!?気になるんですけど……」

という疑問を残したまま、去って行かれるこの感じを、是非体験してもらいたいです。

もう一つ、「虚談」は本のデザインや構成も見どころですね。

各短編の始まりが、黒を基調とした写真になってるんですけど、これがそこはかとなく怖くて、正に虚無の世界へ吸い込まれていくよう。

表紙が白基調なので、本を開いた時のギャップやコントラストが世界観を作ってくれているようです。

「虚談」をすべて読み終えたとき……。

小説は一気読みすることが多い私ですが、ショートストーリーである「虚談」はちょっとした合間に、少しずつ読み進めました。

というのも、一つひとつの物語が読後にずしんとのしかかり、情報を整理するのに時間がかかってしまうから。

これは悪い意味ではなく、短い中にぎゅっと多くの情報が濃縮されているので、それが頭の中でばっと広がっていくイメージでしょうか。

そんな訳で、読み終えた瞬間お腹いっぱいになってしまい、少しの休憩を求めてしまうのです。

そんなこんなで全9編を読み終えてみると、舞台背景、登場するキャラクターの性格や年代が、九者九様なため、様々な異世界へ旅立ったような感覚が味わえます。

どのストーリーにもぞくっとする怖さが含まれているので、その違いを楽しみながら、延々と「で本当なの?どっちなの?」を延々と繰り返すことになるのです。

何度も読み返したい物語が多いので、友だちや図書館などから借りるのではなく、本棚に置いておきたい作品でもありました。

全ては、虚談。

ショートショート作品も好きなのですが、オチが分かりやすかったり、もうちょっと説明が欲しいな、と感じたり……そんな方には特に「虚談」はおすすめです。

不思議系ストーリーや、昔ながらの怪談テイストで繰り広げられる「虚」の物語が、心地よい世界へと私たちをいざなってくれますよ。

京極作品は怖いから、と避けている方も、入門で手に取るにぴったりですね。

現代怪談シリーズだけあって、本の中の世界観が、ちゃんと平成後期に設定されているので、ホラー系小説独特の古臭さが消え、若い世代でも読みやすくなっている点も、売れている理由だと思います。京極作品にしては珍しく薄いですし!

「虚談」の表紙にあるぼかされた写真は、9人の人間の写真を合成しているそうなので、誰かな~と見つめてみるのも楽しいです。

発刊当時は、この9人を当てた当選者1名が、京極作品の新作に登場できるキャンペーンがあったとか、知っていたら応募したかったな~。

最近怖い話が足りてないな、と感じたら、どこから読んでもOKな「虚談」の気になるタイトルからページを開いてみませんか?

一度迷い込んだら出られない、嘘と虚構の間ですが、それがまた心地よいと感じさせてくれる物語です。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)

コメント

コメント一覧 (2件)

  • なっちゃん、、、(笑)
    私は心の中では、図々しくも『夏彦』と呼び捨てにしております(笑)
    怖い上に、夏彦作品は分厚い!(笑)
    上下巻に分けて欲しいくらい分厚い!
    でも、これは読んでみようかなぁ。
    夏彦に挑んでみようかなぁ(笑)

  • 夏彦!笑
    そうそう、あの分厚さはなかなか手に取りにくいですよね……。
    しかし!いちど読み始めると止まらなくなり、時間を忘れて読みふけってしまうのが京極作品の怖さです!
    ぜひぜひ夏彦に挑んでみてください(*´ェ`*)
    「虚談」はかなり読みやすいほうです!

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