国内ミステリー小説

竹本健治『狂い壁 狂い窓』-史上最も怖いと呼ばれる名作ミステリが文庫化しました

さすが、タイトルに『狂い』という文字が二つあるだけあって、狂っている。

 

※グロい描写が苦手な方は注意してください

 

頭に凶器が突き刺さっている。頭蓋骨が砕けているのは明らかだった。蟠った髪のなかから魚の腹子のようなものがどろりと血にまみれてはみ出している。

P.11.12より

 

さかさに覗きこむ女の顔はぶよぶよとむくんで、針で刺すと白い液が飛び出すだろうと思われた。眼球にも白い膜が張り、どんよりと表情なく濁っている。

(省略)

瞶めるうちにあちこちの毛孔から白い糸屑のような虫が這い出てくる。額から、頬から、鼻から、脣から、白い線虫は次から次へと這い出し、見るまに膚の上は蠢く虫たちにびっしりと被われた。

P.20より

序盤から飛ばす勢いで書き綴られる気持ちの悪い描写、言葉。

文字を読んでいるだけで吐き気がしてくる。

竹本健治『狂い壁 狂い窓』

 

本書『狂い壁 狂い窓』は、『将棋殺人事件 (講談社文庫)』『トランプ殺人事件 (講談社文庫)』と並び《狂気三部作》と呼ばれる一冊。

最初に発表されたのは1983年という、竹本健治さんの初期の頃の作品です。

そんな竹本さんの「史上最も怖いミステリ」と呼ばれる『狂い壁 狂い窓』が先日15日に文庫化しました。

不吉なアパートで起こる怪事件の数々

舞台は築六十年という「樹影荘」。

元々は産婦人科病院だった建物を、洋館アパートとして改築しためちゃくちゃ雰囲気の悪い場所。

そこで、相次いで奇妙な出来事が住人たちを襲います。

 

住人の発狂。

天上から漏れ落ちた血だまり。しかも数分で消えてしまった。

壁から無数に湧き出す虫の大群。

窓から投げ込まれたマネキンの首。

部屋を覗く何者かの気配。

廊下に流れたどす黒い血。

便器の死の文字の悪戯。

根こそぎ荒らされていた鉢植。

目のない地蔵。

そして……。

 

何かが起こるに違いない舞台に加え、独特のジメジメとした陰鬱な文章。

そして実際に起こっちゃっている怪現象。

住んでいる人は皆なんかおかしいし、何より「樹影荘」というアパートそのものが気持ち悪い。

やはり私は狂っているのかも知れない。激しく両肩をさすり、軀を丸く縮めたが、震えは全く止まらなかった。だけどたとえそれが事実だとしても、狂っているのは私だけではない。樹影荘全体が狂っている。

P.230より

そう、狂っているのは「樹影荘」そのもの。

 

ですが、私のテンションは上がる一方!

なんて素敵な舞台なんですか!奇妙な住人に陰鬱なアパート!

 

まあ私だったら血だまりの時点で引っ越しますが、彼らは住み続けます。

むしろ、怒涛の怪現象の連続に怯える登場人物たちと一緒になって怖がってました。そういう作品でしょう。

途中まで本気のホラー小説でしたもん。

 

では着地はどうなのよ?ってことなんですが、これが見事にミステリとして着地する。

最後の方までミステリであることを忘れてましたけどね。

でも雰囲気がドロドロなので、読後のすっきり感はまるでないです。なんかまだモヤーっとしたものがまとわりついているような。

「ぜーはー、ぜーはー、や、やっと読み終えた……う……」って気分。

いま自分が住んでいる家がどれだけ幸せなのかを噛み締めます。

ミステリとしての驚きは普通だけど雰囲気最高

ミステリとしてもしっかりしてるんですよ。

どう考えても怪現象なものも、ちゃんと真相を明かしてくれるんです(ミステリなので当たり前か)。

 

でもこの作品は、やっぱり「雰囲気」と「物語」を楽しむことが一番だと思います。

竹本さんが全力で、無理やり「気持ち悪く書いてやろう」としている気が伝わってくるんです。

「どうだ!気持ち悪いだろう!狂っているだろう!」って言ってるみたいな。そこがいいんです。

 

ホラーとミステリを融合させた傑作といえば、私の大好きな「刀城言耶シリーズ」というのがあるんですけど、怖さの種類は全くの別物。

「刀城言耶シリーズ」はゾクゾクっとヒヤッとする感じなのに対し、『狂い壁 狂い窓』はネチネチ、ドロドロ、ベチャベチャしている感じ。

どちらかといえば江戸川乱歩のおどろおどろしさに近いですね。

一番タチの悪い怖さです。

 

※「刀城言耶シリーズ」もとっても面白いのでぜひ読んでみてね!

結論:「樹影荘」はヤバイ。

本作の最大の魅力は、やはり「樹影荘」という建物の魅力でしょう。

「樹影荘」で何があってこれからどんな事件が起きるか、を楽しむ作品だと感じました。

そして、陰鬱な雰囲気を極限にまで引き出す竹本さんの文章。これがあってこその怖さでしょう。

それだけに今回の再文庫化には感慨深いものがある。この作品に関しては何かとそれらしい雰囲気を醸し出そうとするあまり、文体や言葉遣いなど多少ひねくれすぎたきらいはあるが、今回の校正でも努めてその味わいを残すことにした。

P.371「あとがき」より

と竹本さんご本人もおっしゃってますし、全力で味わいましょう。

この狂った雰囲気を、文章を。

ABOUT ME
anpo39
年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)
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POSTED COMMENT

  1. あおい より:

    はじめまして。以前から此方のサイトを本選びの参考にさせてもらっている者です。anpo39さんの記事でこの小説を知りました。すっごく好きな要素の本なのにもしかしたら知らないままか知ってても手に取る事はなかったかも知れないので紹介してくれたanpo39さんにはとても感謝しています(*^^*)まだ序章しか読めていないですけど既にヤバい感じがビシビシとするのでこれからの展開がとても楽しみです。

    今後の紹介記事も楽しみにしています♪

    • anpo39 より:

      あおいさんはじめまして!
      参考にしていただけているようで大変嬉しいです。ありがとうございます。
      こういうのお好きですか!私もです!
      じっとりした怪奇ミステリってやっぱり良いですよねえ。
      なのでこれからもこのタイプの作品があったらどんどんご紹介していきますね。
      あおいさんに知っていただけて良かったです!(´∀`*)

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