安楽椅子探偵の決定版とも呼ぶべき、SFの巨匠アシモフの『黒後家蜘蛛の会1』が新装版で登場してました。
こりゃ興奮するってものです。
本作は連作短編集となっており、
「黒後家蜘蛛の会」の会員6人が、毎月1回開いている晩餐会に持ち込まれる不思議な出来事の話題について議論し、謎を解いていく、というものです。
要は、みんな集まって謎解きゲームをするわけですね。
しかし毎回の真相を解くのは、メンバーではない給仕のヘンリーなのです!
「いやお前が解くんかい!」って感じですが、まあ見事な推理力なのでつい聴き惚れてしまいますよ。
ではどんなお話が収録されているか、ざっくり見てみましょう(`∀´)
1.『会心の笑い』
さて、みんな大好き『会心の笑い』です。
『黒後家蜘蛛の会1』の中では『会心の笑い』が一番好き!という声も多いのですが、読めばきっと納得してくれるはず。
このエピソードでは、「盗難事件の謎」が話題となっています。
ある日、アタッシュケースに何かを詰めている人物を目撃するが、何を盗まれたかわからないのでそれを当ててほしい、というもの。
“何が盗まれたかわからない”という不思議な事件の話題に想像力が掻き立てられます。
一発目ということもあり、登場人物が多く覚えることが難しい印象もあるので、ゆっくりと読み進めていきましょう。
そして読み手は、読了とともにひとつの教訓を得ることになるのです。
おしゃれな印象の舞台設定と、さらりとした物語の展開が魅力のエピソードですね。
2.『贋物(Phony)のPh』
このエピソードでは、「不正受験の謎」が話題に。
勉強は全くできないランスという男が、いきなり博士号を取ると言い出した。
ランスにできるわけがない、と周りの人々はバカにしたが、なんと彼は最難関とされテストにトップで合格してしまった!一体なぜだ!
3.『実を言えば』
このエピソードでは、「金庫を開けた犯人の謎」が話題となっています。
会社の金庫から現金と証券が盗まれた。
金庫に近づけたのはジョン・サンドしかいないのですが、正直者である彼は否認する。
「皆さん、僕は本当のことを言っているんです。ぼくは、現金もしくは証券と盗ってはいません。ぼくがそう言うだけで、証拠はありません。でも、ぼくを知っている人なら、ぼくの言葉を信じてくれるはずです」
P.78より
物語を通して、読み手は“嘘ではないけれど、本当ではないこと”の存在を意識するでしょう。
『言葉を正確に聴く人は稀』という文中の言葉が印象に残るエピソードとなっています。
4.『行け、小さき書物よ』
このエピソードでは、「マッチブックの謎」が話題となっています。
マッチブックとは喫茶店にあるような紙マッチのことで、それを集めている蒐集家が、何やら重要な情報漏洩に関わっているらしいとのこと。
その手段が、どうやらマッチブックを使ったものらしいと言うのですが……。
推理小説に登場するトリックのなかでも、“暗号解読”を意識して読み進めましょう。
『言葉のメリーゴーランドにうまく乗れずにいた』など、表現の豊かさにも注目したい短編です。
5.『日曜の朝早く』
このエピソードでは「とある殺人事件の真相」が話題となっています。
必ず朝8時には目が覚めるという画家・ゴンザロが殺人事件に巻き込まれる。
当然、「必ず朝8時には目が覚める」という要素がキーポイントになってきます。推理小説らしいトリックが、ファンをワクワクさせますねえ。
エピソードも5つ目となってくると、毎回の「給仕のヘンリー」の活躍に読み手は期待を覚えてくることでしょう。
登場人物の上品な様子も魅力となっています。
エピソードの中でも、わかりやすく、読みやすい印象の一作です。
読了後に、読み手はこの『日曜の朝早く』というタイトルにハッとさせられることでしょう。
6.『明白な要素』
このエピソードは、「予言の真相」についてが話題となっています。
万引き犯が来ることを予知するという、不思議な能力を持ったスーパーのレジ打ちの女性がいました。
ある日、彼女は遠く離れたサンフランシスコの火事について予言したという。
彼女の能力にはどんな仕掛けが……!?
という話なんですが、これまでの5作品とは印象の異なる結末を迎えます。
読み手に「ありえない出来事」について、新たな視点を与えるでしょう。
私は爆笑でした。
7.『指し示す指』
まさしく、タイトルの通りの謎が話題となっています。
義父の老後の面倒を見て、そのお返しとして遺産を相続するはずだったレヴィ。
しかし義父は口もきけないほどに衰弱し、遺産について聞き出すことができなかった。
唯一のヒントは、最後に義父が指差した書棚のシェイクスピア全集。
このシェイクスピア全集に遺産の秘密が隠されているのか!
という話。
これも爆笑でした。
ユーモアに富んだ描写に、読み手は思わず、クスリと笑みがこぼれるでしょう。
前回までのエピソードが盛り込まれており、順番に読み進めることで、楽しみが増します。
「人の思い込み」について、考えさせられる一作です。
8.『何国代表?』
このエピソードでは、「脅迫文の謎」を議論されています。
ミス・アースコンテストの美女達に脅迫状が届いた。
しかし、一体誰が狙われているのかわからない。果たしてどの国の美女が狙われているのか……。
8つめのエピソードにして、ついに「給仕のヘンリー」の推理力を目的としたゲストが現れる展開が魅力となっています。
9.『ブロードウェーの子守歌』
このエピソードでは、「アパートの壁をつたわる騒音の真相」が話題となっています。
作家であるルービンは、アパートのどこかかか聞こえてくるトンカチの音にウンザリしていた。
しかもそれはルービンにしか聞こえないほどの音だという。
この音は一体なんなのか。
登場人物のセリフばかりのシーンであっても、「給仕のヘンリー」の存在が際立っていますね。
最後の結末に、ヒヤリとさせられる一作です。
10.『ヤンキー・ドゥードゥル都へ行く』
このエピソードでは、「鼻歌が示す真相」についてが話題となっています。
陸軍の中に情報を漏らしている者がいることがわかった。
その仲間を捕まえて尋問するが、なかなか口を割らない。
手がかりは、彼らが無意識に歌う鼻歌にあるようだが……。
英語の発音を使った言葉遊びの部分は、やや難しく感じられるかもしれません。
タイトルにある歌を事前に知っておくと、より物語に入り込みやすい一作です。
11.『不思議な省略』
このエピソードでは、「とあるメッセージの謎」が議論されています。
アトウッドに遺産を譲ると約束したおじいさん。
彼が遺した言葉は「アリスの不思議な省略」。
「アリスの不思議な省略」??一体どういう意味でしょう。
トリックが少し難しいので、慎重に読み進めてほしい一作。
結末のセリフがとても魅力となっているエピソードです。
12.『死角』
最後は、「盗撮犯の謎」について話されています。
船旅の途中に講演をする予定だったロングの資料が盗まれてしまった。
食事中に、資料が自分の机の上にあるとつい口にしてしまったのがいけないようだ。
だけどもその時同じテーブルにいた者たちに不審な行動は見られなかった。
一体誰が資料を盗んだのか。
このエピソードを通して、『壁に耳あり・障子に目あり』という状況を意識するでしょう。
この作品ならではの言葉遊びにも注目してほしい一作です。
おわりに
おいおい、そんなのアリかよ!と叫んでしまうオチもいくつかありますが、とにかくミステリとして大変面白い12編が揃っています。
しかもミステリ要素だけでなく、会員たちのキャラクターが面白すぎる。
彼らの雑談を見ているだけでも楽しいので、ぜひ一度読んでみてほしいですねえ。すぐにファンになっちゃうでしょう。
作者が体験した、実際の会合がモデルとなっているというのも、読み手の心を躍らせますね。
とにかく、海外推理小説の今なお色褪せぬ傑作です。
ぜひ新版が発売されたこの機会に、お手にとってみていただけたらと思います(*´ェ`*)
コメント
コメント一覧 (2件)
黒後家蜘蛛の回は私が一番と言っていいくらい大好きなシリーズで、取り上げて頂いて、とても嬉しいです。
私が好きな話は、一巻ではないですが、「封筒」とか「証明できますか?」とか単純な話が好きです。もちろん「会心の笑い」も大好きです。
あとはヘンリーの上品さと料理の美味しそうなところがたまらなくいいです。
何回読み返したかわからないくらいですが、また読み返そうかな。
今後とも面白い本の紹介楽しみにしています。
無生産者さんこんばんは〜。
黒後家蜘蛛の会いいですよねえ。
あーその2編もいいですよね!!わかります!単純な話だからこその面白さ!
これからどんどん新版を発売してほしいですなあ(*´ェ`*)