高校の同窓会が、修学旅行を再現する形で行われた。
行き先は、星見島と呼ばれる孤島。
40年ぶりに会った元生徒と元教師たちは、その晩の宴会で思い出話に花を咲かせた。
めいめいに語り合う中、元生徒の一人・久我が、不意に告白を始めた。
「私は修学旅行の時に、先生を殺すつもりでした」
久我は、自分たちを勉強漬けにして自由を奪った教師たちに、恨みを抱いていたのだという。
もちろん実際に殺すわけにはいかず、母校をモデルとしたミステリー小説を執筆し、作中の修学旅行で教師たちを皆殺しにすることで留飲を下げていたらしい。
殺人がフィクションで終わったというオチに、ほっとする一同。
ところが宴会が終わった後、本当に殺人事件が起こった。
ただし殺されたのは教師ではなく久我で、風呂場で刺殺体となって発見された。
犯人は誰で、目的は何なのか。彼が高校時代に執筆していたという小説と関係があるのだろうか?
さらに、折り悪く荒天により船便が欠航となり、全員が孤島に閉じ込められてしまい――。
本格ミステリーと思いきや…?
『首切り島の一夜』は、40年ぶりにやり直すことになった修学旅行で、元生徒が殺されるというミステリーです。
行き先がよりによって孤島であり、お約束のように殺人事件が起こり、嵐のためクローズドサークルになってしまいます。
コテコテの本格ミステリーですね!
ただしよくある本格ミステリーと違って探偵役は登場せず、読者は自力で事件に対峙しなければなりません。
しかも作者の罠というか陰謀というか、目くらましが非常に多く、困惑させられること必至!
①久我が執筆した小説
作中作では修学旅行で教師たちが殺されますが、実際の事件では久我が殺され、教師たちは無事。
被害者が真逆なので、そこに何か隠されていそうな気がしますよね。
②カバー裏に隠された作中作
カバーをめくると、なんと作中作のエンディング部分を読めるようになっています。
こういう仕掛け、ワクワクしますよね!
でも内容に、久我が執筆したものとは違う部分があり、どうにも胡散臭いです。
③血まみれのタオル
ある登場人物の手荷物に入っていて、これもやはり怪しさ満点。
犯人と何らかの関係がありそうに見えますが……。
④信頼できない語り手
語り手は、章ごとに異なっています。
それぞれが歩んできた人生が語られるのですが、その中に時々謎というか、矛盾に思える部分があります。
こういった目くらましが、この作品のミステリーとしての難易度を上げています。
全体的にはそれほど難解ではなくサラッと読めそうなのですが、これらの隠し要素がところどころにあって、何だか腑に落ちなくてページを遡って二度三度と読み返すことになるのです。
そういう意味で『首切り島の一夜』は、じっくりと楽しめる作品です。
うまくいかない熟年人生がリアル
『首切り島の一夜』は、登場人物の全員が熟年です。
40年ぶりの修学旅行ですからね、元生徒たちは50代ですし、教師たちも還暦くらいの年齢。
それだけ生きていれば過去の人生で色々とあったでしょうし、各章では登場人物たちによってそれらが語られます。
ある人物は子育てで行き詰まり、またある人物は怪しげな商売に手を染めて、別の人物はゲームにどっぷりハマりこんで……と、まさに十人十色。
そして興味深いことに、全員が全員、順風満帆とはいかず、何かしらの問題を背負って苦しんでいるのです。
その様子が妙にリアルで、「一歩間違えれば自分もこうなってしまうかも」と、熟年人生の厳しさにドキッとさせられます。
しかも読者としては、「彼らのエピソードのどこかに、本筋のミステリーに関わる重大なヒントがあるかもしれない」と考え、目を皿のようにして読むわけで。
集中する分、余計に個々の苦しい立場への理解が深まり、ハラハラできますよ。
そして読み込めば読み込むほど、ラストで真実が分かった時に、唖然とすることになります。
それほどの衝撃が用意されているというか、「これもまた作者の罠だったか!」と気が付いて、驚きつつ頭を抱え込むことになると思います。
とにかく群像劇風に描かれている各人物のエピソード、これらが本筋にどう関係してくるのか、あるいは無関係なのか、そこがポイントとなります。
熟年たちの波乱万丈な回顧録を味わいつつ、ミステリーとしての真相を探ってみてください。
これまでにないどんでん返しを楽しめる
『首切り島の一夜』の作者・歌野晶午さんは、「どんでん返しと言えば歌野氏!」と言われるほど、物語を大きく反転させることで知られる作家さんです。
そのため本書も、警戒しながら読み始める方が多いのではないでしょうか。
「歌野晶午さんの作品だから、いつどうひっくり返されるかわからないぞ」と、ページの隅々にまで目を光らせながら注意深く読むのです。
そしてその結果どうなるかというと……、きっと全く思いもよらない部分で、ものの見事にどんでん返しを食らうことでしょう。
詳しくはネタバレになるので伏せますが、『首切り島の一夜』のどんでん返しは、歌野晶午さんのこれまでのどの作品とも違うタイプであり、ファンであればあるほど騙されてしまうのではないかなと思います。
そういう意味で『首切り島の一夜』は歌野晶午さんらしくない作品と言えますし、「完全に予想外のどんでん返しをしてくる」という意味では、まさに歌野晶午さんらしい作品とも言えます。
これまでにないレアな一冊であることは間違いないので、ファンの方はぜひ読んで、手の平で転がされてみてください。
初めましての方も、この機会にぜひ歌野晶午さんのどんでん返しの手腕を味わってみてくださいね。