ミステリ好きを続けていると、名作や有名作家のシリーズを読破したいという欲求がふと生まれるとき、ありますよね。
コナン・ドイルやアガサ・クリスティーなど名高い海外ミステリーも多くありますが、今回はジョン・ディクスン・カーの『絞首台の謎』を紹介します。
新訳版ですからね、新訳版。
ここ1年でやたらカーの作品が新訳され始めているんですよ。『盲目の理髪師』とか『九人と死で十人だ』とか。
これは完全にカーブームが来てますね。
ほんと素晴らしいことです。ぜひこの機会にカーを読み漁りましょう!
『絞首台の謎』
舞台は、イギリス・ロンドン。
霧がたちこめる街はいかにも謎に満ちていそうです。
主人公はアンリ・バンコランというフランス人の名探偵です。
※『夜歩く』に続くアンリ・バンコランシリーズの二作目ですが、この作品からでも楽しめます
友人のマールとともにロンドンを訪れ、ブリムストン・クラブにやってきたバンコランは、絞首台の模型を発見します。
この気味の悪い一品は、宿泊客であるエジプト人のネザム・エル・ムルクに対する脅迫の証拠でした。
殺人予告の犯人は、恐怖を煽りたてるように、関連する人物を殺害します。
運転手が喉を切り裂かれても走り続ける車の謎が、不気味さもダントツかもしれません。
バンコランは十七世紀の殺人犯「ジャック・ケッチ」を名乗る犯人の、「エル・ムルクを首吊り死体にする」という、挑戦にも似た脅迫から被害者を守り、事件を解決できるのでしょうか。
ミステリーらしく、巧妙なトリックのもとに不可解な方法で殺人事件が起こり、バンコランの推理が冴え渡ります。
結末まで犯人を予測することは難しい、入り組んだ物語設計が読者を奥へと誘い込んでくれるでしょう。
本作品の見所は?
1931年に発表された本作を理解するには、時代背景も踏まえて読むとより深く楽しめるでしょう。
ミステリアスな雰囲気を持つロンドンの街の描写も美しく、探偵が活躍するにふさわしい舞台設定です。
背筋がぞわっとするような怪奇描写、むごたらしい殺人の様子も印象的ですが、それゆえに鮮やかに犯人を突き止めるバンコランの姿がカッコよく見えるでしょう。
しかし、一番の見所はこのバンコランの性格だと思います。
実際に読んでみて驚いてほしいのですが、探偵のイメージを裏切るような冷酷さが彼の特徴といえるでしょう。
「悪魔」と評されるような探偵は、ちょっと他の作品ではお目にかかれないのではないでしょうか。
物語の終わり方が何とも恐ろしく、鼻歌を歌うバンコランのことが忘れられなくなりそうです。
ミステリーとしては少々荒削りな部分もあるものの、格調高い文体やオリジナリティのある人物設定が魅力的で、続編にも興味が出てくること間違いなしです。
海外ミステリの醍醐味を味わえる!
半世紀以上前の作品ということもあり、現代ミステリーに比べると難解なところもありますが、時代を越えて読み継がれる名作の持つ世界観に圧倒されます。
タイムマシンがあったら行ってみたい、この時代のロンドンの空気が感じられるのもいいですね。
冷たい性格の名探偵バンコランと友人になりたいかどうかは人によって好みが分かれそうですが、魔性の人物であることは間違いありません。
シリーズもののミステリーは、探偵自体が謎を抱えているものも多く、その魅力が読者を惹きつけているのでしょう。
事件が解決するまでの間、脅迫してくる犯人の正体やすぐそこにいそうな恐怖感をリアルに想像できる作品です。
無実の罪で自ら首を吊って命を絶った青年の怨霊のしわざでは……といった、ホラーのような恐怖も添えられています。
謎をかいくぐって真実を突き止めるバンコランの探偵ぶり、冷静な彼と対比される周囲の人物や文章全体に仕掛けられた罠が、読み終わった後もしっかりと印象に残る作品です。
殺人事件ものはいったん犯人が分かると読み返すことはあまりなかったりしますが、このシリーズは謎が解けた後も再読したくなるかもしれません。
ディクスン・カーは他にもミステリーを残しているので、作者の世界にどっぷり浸かってみるのもいいですね。

コメント
コメント一覧 (2件)
最も好きな海外ミステリ作家はと聞かれるとバークリー若しくはカーと応えます。
本当に最近のカーの新訳ラッシュには感動させられます。
世間的には凡作といった評価かもしれませんが、「盲目の理髪師」はその舞台設定と謎の魅力からかなりお気に入りです。
この作品も読みましたが、本当にバンコランが魅力的で堪りません。
なんと高級な悪魔かと。
ただ著者本人は気に入らなかったのですよね(笑)
首無し運転手の謎という魅力的な謎と、結末でのバンコランの悪魔的な描写で、印象深い一作です。
ちぃさんならコメントくださると思ってました!笑
いやあ、ほんとカーの新訳ラッシュ来てますよね。嬉しい限りです。
わかりますわかります、盲目の理髪師は私も良いと思います。特に舞台設定が好きですね。
やー今回もまさに高級な悪魔という名にふさわしい活躍っぷりでした。たまりませんね!