作家のホロヴィッツは探偵のホーソーンと一緒に文芸フェスに参加するため、オルダニー島を訪れた。
ところが島では開発事業を巡って住民たちの争いが起こっていた上、フェスの参加者たちもどことなく不穏な様子だった。
嫌な予感がする中、案の定パーティの翌日に殺人事件があったことが判明した。
オンライン・カジノ会社のCEOであり、フェスの後援者でもあるチャールズが何者かに殺害されたのだ。
喉をペーパーナイフで刺されており、全身は椅子にテープで固定されていた。
ただ、なぜか右手だけは拘束されておらず、自由に動かせる状態だった。
このように不可解な方法で、誰が何のために殺害したのか。
ホーソーンは真相を求めて事件を追い、ホロヴィッツはそんなホーソーンの働きを作品化するために彼を追う。
作家と探偵の凸凹コンビが織り成す傑作ミステリー、第三弾!
軽快でも推理はハード
『殺しへのライン』は「ホーソーン&ホロヴィッツ」シリーズの三作目です。
作家のホロヴィッツが、探偵ホーソーンの活躍を小説にするために彼の捜査に同行する、というシリーズです。
ところが同行しても、ホーソーンは偏屈で秘密主義なので、推理内容をほとんど語ってくれません。
やむなくホロヴィッツは自分で推理して事件解決のために行動するのですが、所詮素人ですから推理はデタラメだし行動はハチャメチャ。
おかげで事態はますます悪化していき己の身も危険になっていく、というドタバタ劇を描いた痛快ミステリーです。
今作『殺しへのライン』もやはりこの展開であり、ホロヴィッツは事件の真相を暴こうと推理するのですが、的外れもいいところ。
でもこれはおそらく読者も同じで、今回の事件、真相はそう簡単には見えません。
なにせ被害者は富豪であり、恨みを抱く者、つまり殺害動機を持つ人物が非常に多いのです。
さらに遺体の右手だけが自由な状態だったり、その手から高級腕時計が外されていたり、愛車にスペードのエースが置かれていたりと、不審な点も多いです。
しかもひとつひとつの謎が解けても、それらがどう真相に絡んでくるのかがなかなか見えてこないので、かなり頭を悩ませながら読むことになります。
軽やかなコメディ要素も多いのに、推理パートはとてもハードです!
最終的にはホーソーンの見事な推理が炸裂し、真相がどんどん明らかになります。
それまで点でしかなかった部分がみるみる繋がっていく様子は、まさに圧巻!
真相の意外性に驚きつつ、その鮮やかさにうっとりしながらクライマックスを楽しめます。
拗らせバディから目が離せない
『殺しへのライン』は、ホロヴィッツとホーソーンの関係性も見どころのひとつです。
この二人、コンビでありながらも決して仲が良いとは言えず、いがみ合う(というかホロヴィッツが一方的に馬鹿にされる)ことが多いのですが、それでもどこか信頼や親愛の情が見え隠れしており、そこが実にイイ!
まずホロヴィッツは、作家としての知性を推理で発揮したいのに失敗続きですし、ホーソーンの偏屈っぷりにウンザリすることもしばしば。
それでもホーソーンの探偵としての腕前には敬服していて、彼からふいに優しい言葉をかけられると嬉しくなってしまうという、なんとも可愛い感じです。
対してホーソーンは、マイペースで無遠慮で、いちいち腹立たしい物言いをしますが、抜群に頭が切れて頼りになるニクイ奴。
普段はホロヴィッツに地団太を踏ませてばかりなのに、時折ふっと見せる甘い態度がたまらない!
たとえて言うなら、ツンデレ属性の入ったシャーロック・ホームズ!
こんな二人が拗らせながら事件を追って解決していく様子は、ハラハラドキドキに加えワクワクやキュンキュンもあって、抜群に面白いです。
一作目や二作目と比べると、ホーソーンのトゲトゲしさが少し減ってマイルドになっており、二人がバディとして良い形になってきている様子も感じられます。
また今作では、前作に引き続き「ホーソーンの過去」についてまた少し明かされます。
年齢や以前携わっていた仕事のことであり、徐々に核心に近付いている感があります。
しかもラストにはより深い過去を匂わせる絵葉書まで届くので、読み終えたと同時に次回作を読みたくてたまらなくなりますよ。
作者=語り手というリアリティ
「ホーソーン&ホロヴィッツ」シリーズの作者は、アンソニー・ホロヴィッツ氏です。
そう、物語の語り手のホロヴィッツが、作者ご自身を投影したキャラクターなのです。
同じ手法を使った作家としてエラリー・クイーン氏がよく知られていますが、こちらはズバ抜けて高い知性を持つ天才探偵として作中に登場します。
それに対してホロヴィッツのキャラクターは、探偵役ではなく作家役であり、しかも道化のような役回り。
知性は高いものの、職業柄ぶっとんだ発想をしがちで、推理も行動もちょっとズレている感じ。
感情の起伏も激しいので、ある意味とても人間くさいキャラクターですね。
そのためリアリティがあり、読んでいると「もしかしてホロヴィッツは本当に作者自身であり、物語も作者が実際に体験したことかも?」と思えてきます。
そう考えると、本書『殺しへのライン』を、よりワクワクと楽しめます。
その場合もちろんホーソーンも実在していることになるので、読むテンションがより一層アップしますよ。
またアンソニー・ホロヴィッツ氏と言えば、「このミステリーがすごい!」や「本屋大賞・翻訳小説部門」など、数々のミステリーランキングで受賞したことでも知られています。
特に、2018年から2021年にかけて発表した4作品が、4年連続でランキングを制覇したことは、史上初ということで話題になりました。
その4作品のうち2作品が、「ホーソーン&ホロヴィッツ」の一作目と二作目です。
このことからも、三作目である『殺しへのライン』は、世間から非常に注目を集めています。
このようにとても魅力の多い作品ですので、この機会にぜひぜひ読んでみてください!


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