国内ミステリー小説

『転がる検事に苔むさず』- 個性的な捜査陣が繰り出す本格検察ミステリー

夏の暑い夜、ある若い男が鉄道の高架から転落し、猛スピードで走る自動車に衝突した末に死亡する事件が発生した。

所轄署の刑事課長・有村は突如巻き起こった出来事に困惑しながらも、仲の良い検事・久我と後輩の新人女性検事・倉沢とともに捜索を始めることとなる。

転落事件を自殺によるものと睨んだ3人は、転落した男性の身元や遺書の存在を調べていくが、捜索が進行するにつれて、様々な疑惑が浮かび上がった。

このような疑念が生まれたのは、ペーパーカンパニーを利用した輸入外車取引の形跡、出所不明の麻薬や現金などが、男性の周辺から見つかったためである。

転落死した男性は、一体何者なのだろうか。

そして捜査陣が予想した通り、転落死は自殺によるものか。

はたまた、他殺が原因なのか……。

個性的な登場人物達が繰り出すミステリをお楽しみください。

捜査陣の熱意に溢れた仕事ぶりを感じさせるストーリー

本作のストーリーは、刑事の有村、検事の久我、倉沢の3人が協力して、転落死した男性の身元や事件の捜査を進めていくところから始まります。

転落事件の原因調査に奮闘する捜査陣の背景説明には、警察や検察の仕組みに関わるテーマが扱われるため「難しくて読みにくそう…」と、つい食わず嫌いをしてしまいそうになるかもしれません。

また、暗い雰囲気が醸し出される事件モノの小説が苦手な方にとっては、読むことを躊躇してしまうこともあるでしょう。

しかしこの本で描かれる物語では、警察小説特有の複雑なストーリーが単純明快に紐解かれていくため、誰もが読みやすいと感じられる作品に仕上がっています。

そのうえ、各キャラクターの人間らしさやユーモアのあるやりとりを描くシーンが各所に散りばめられているので、読み終えた後に嫌な余韻を残すこともありません。

数々のシーンの中でも、事件解決の過程で描かれる主人公達の熱く真っ直ぐな仕事ぶりは、読者の感情を大きく揺さぶることでしょう。

事件モノならではの推理しがいのあるサスペンスミステリーを求めている方はもちろん、ストーリー進行に合わせて一致団結していく登場人物の関係性に感情移入したい方にも、ぜひおすすめしたい1冊です。

検事界のパワーバランスを巧みに描く

2人の検事と1人の警察官が主軸となって事件解決へと奮闘していく本作は、事件の原因捜査や検事内部の派閥争いの裏側がリアリティのある空気感で描かれているのが特徴的です。

その中でも、ストーリーの過程で検察組織の内情が忠実に再現されている点は見所の1つといっても良いでしょう。

たとえば、物語の主役の1人である久我は検事として日々仕事に明け暮れている人物ですが、検察庁内の派閥争いの弱みを知っているがゆえに検察側から冷遇され、様々な嫌がらせや侮蔑を受けています。

こうした背景が困難を呼び寄せ、事件解決まであと少しという展開で検察内部の確執が邪魔をしてくるため、物語が思うように進まないもどかしさを感じることもあるでしょう。

しかし、数々の障壁に立ち向かった末に思わぬ方向へと二転三転していくストーリー進行は読者の没入感を呼び覚まし、つい一気読みしてしまいそうになるほどの中毒性を持ち合わせています。

読みやすい文体とユーモアのある会話描写により、どちらかといえばライトミステリーの雰囲気を漂わせながらも、検察庁という縦社会のパワーゲームの実態を生々しく描くストーリー展開は見逃せない要素の1つといえるでしょう。

心に泌みる本格検察ミステリー

直島さんは1964年に宮崎市で生まれ、立教大学の社会学部社会学科を卒業後に、新聞記者として働き始めました。

現在も現役の新聞記者としての活動をされており、時事コラムを担当しているそうですが、かつては検察庁の実態を記事にまとめていた経験もあったようです。

2021年には、本作『転がる検事に苔むさず』が第三回警察小説大賞を受賞し、作家デビューを果たしました。

そんな警察小説の名手が生み出した本作は、事件捜査の裏側や検事内部の派閥争いなどの重厚な描写が積み上げられていくストーリー展開が特徴ですが、そのわりには小難しい印象を与えません。

こうした読みやすさの背景には、直島さんがかつて担当していた検察庁に関わるコラム執筆経験の中で、検事の日常や行動パターンなどを深く分析してきた経歴が上手く活かされているのではないかと思います。

日常生活ではなかなか触れられない検事側の苦悩や検察庁内部の人間関係など、リアリティのある描写が盛り沢山なので、最後まで適度な緊張感を持って読み進められること間違いなしです。

また、こうした現実味のあるストーリー設定にくわえて、物語で登場するキャラクター達のユーモアに溢れたやりとりも注目ポイントの1つです。

一見難しい印象を与える検事主導ミステリーの重厚さを際立たせながらも、軽快なテンポでサクサクと読み進められるストーリー構成になっている本作。

短時間でもじっくりと小説を楽しみたい方にもぜひおすすめしたい作品です。

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anpo39
年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)
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