今年もこの季節がやってまいりましたね。
『このミステリーがすごい! 2018年版』の発売です!!
しかも祝30周年目ということで、
誕生号が丸ごと収録されていたり、綾辻行人さんと宮部みゆきさんの対談や、恩田陸さんと宮内悠介さんの対談、新進気鋭の作家7人(青崎有吾さん、芦沢央さん、阿部智里さん、岡崎琢磨さん、白井智之さん、知念実希人さん、友井羊さん)による大座談会など盛りだくさんな一冊となっていました。
うーん、豪華。
さて前置きはこのくらいにして、早速、2018年版「このミステリーがすごい!」で選ばれたベスト10作品(国内編)をご紹介していきましょう。
2018年版「海外編」はこちら

※2018年版「このミステリーがすごい!」は《2016年11月 – 2017年10月》に発刊された作品が対象です。
10位.『開化鐵道探偵』
鉄道建設の最中、逢坂山トンネルの工事現場で次々と不可解な事件が起きる。それを解決してほしい、との命を受け、元・八丁堀同心の草壁賢吾が、助手の小野寺とともに事件の真相を追う。
内容はまさに王道ミステリという感じで、ホームズとワトスンのような探偵役と助手のコンビ、最後に探偵が関係者を集めて真相を暴く、というおきまりのパターンが炸裂。
と言ってもガチガチの本格ミステリではなく、文明開化時代の情景を味わいながらゆっくり読み進めたい作品。この時代の雰囲気好き。
誰かと思ったら「八丁堀のおゆう」シリーズの著者さんでした。そりゃ面白いわ。
ぜひこれをキッカケに『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう』シリーズなども読んでいただけたらと思います。
9位.『盤上の向日葵』
『孤狼の血 (角川文庫)』や『検事の本懐 (宝島社文庫)』など、柚月裕子さんの作品をいろいろ読んできましたが、最高傑作ではないでしょうか。
山中で発見された白骨死体。一緒に埋められていたのは、初代菊水月作の希少な駒だった。なぜこの駒が一緒に埋められていたのか、その意味は。
まず読みやすいし、謎も魅力的だし、人間ドラマとしても面白い。ミステリー小説だとか、将棋に興味があるとかないとか、そんなの関係なしの「すごい小説」でした。
なので、将棋がよくわからないから、という理由で読まないのは損です。将棋のこと詳しくない私でも存分に楽しめました。
読み終わったあとついため息が出てしまう、「とてつもない物語を読まされたなあ」という読後感。
ラストは「あーそうなっちゃうかー」って感じのなんとも言えぬ余韻が……くぅ。ランクイン文句なしの名作です。
8位.『かがみの孤城』
ちょっと待てーい!
ランクインは嬉しいんですけど、『かがみの孤城』をミステリー小説としてエントリーして良いならもっと順位上でしょう!
と、叫んでしまいたくなるくらい好きな作品。まさに辻村深月さんの集大成。
学校での居場所をなくし、閉じこもっていた少女・こころの目の前で突然、部屋の鏡が光り始めた。その鏡をくぐり抜けた先にあったのは、お城のような不思議な建物。
そこには、こころの他にも6人の少年少女がいた。7人は、なぜこの場所に集められたのか?
あかん、あらすじを書いているだけでも涙が出てくる。
ミステリを読み慣れているから途中でトリックが分かってしまったって?
そんなもん関係ないんじゃああ!
そもそも謎解きとかトリックとか、そういうものを楽しむ「推理小説」ではないのです。
「青春ファンタジー小説の傑作であり、ちょっとミステリー要素ありますよ」くらいに思ってください。
いやでも、ミステリーがメインの小説ではないのにもかかわらず、このミスにランクインしてしまうくらい凄い小説ということか。そういうことにしておきましょう。

7位.『遠縁の女』
未読だったので速攻で読んできました。すこぶる面白かった。
2017年版のこのミスで4位となった『半席』の著者さんでした。
まず青山さんの時代小説は読みやすくて良いですね。時代小説ってそこまで得意ではないのでありがたいです。
さて、収められているのは「機織る武家」「沼尻新田」「遠縁の女」の短編3作。
いずれも武家の厳しい社会と、そこに潜む女性がテーマ。
いろんな女性がいるものですが、男たちはみな女性の手のひらの上で転がされ、転がされ。いつの時代も男は謎めいた女に弱いのか……。
ミステリー小説!という感じではないですが、実に青山さんらしい時代小説でどれも味わい深さ満点でした。
やはり、武者修行から五年ぶりに帰国した男を待っていた真実と女の謎に迫る表題作がベストかな。
6位.『狩人の悪夢』
ベスト5には入るのでは、と予想してました。おしい。
おなじみ、臨床犯罪学者・火村英生と、ミステリ作家・アリスのコンビが織り成す〈火村英生シリーズ〉または〈作家アリスシリーズ〉の長編です。
アリスが人気ホラー小説家の家「夢守荘」に訪れて、「眠ると必ず悪夢を見る部屋」に宿泊する。
その翌日、ホラー作家のアシスタントが住んでいた家で変死体が発見される……という展開。
この死体がまた実に謎な状態だったわけですが、それは読んでからのお楽しみ。やっぱり有栖川さんの作品は「なぜそうする必要があったのか」、つまりホワイダニットが面白すぎる。
相変わらず火村とアリスのやり取りを眺めているだけでも楽しいし、犯人を論理的推理で追い詰めていく様はさすが。というか恐ろしい。『スイス時計の謎 (講談社文庫)』を思い出しました。火村先生に追い詰められる犯人に「どんまい」と声をかけたくなりますね。
あと改めて「有栖川有栖さんの文章好きだな」って思った。火村英生シリーズに限らず、読みやすくて、どこかユーモアがあって流れるように読める。
5位.『いくさの底』
戦場が舞台だからこそのミステリー。
戦時中、到着したビルマの村で、隊を率いる日本軍の将校が殺害される。
〈誰が殺したのか?〉はもちろん、〈なぜ殺したのか?〉というホワイダニットが特に見所。ラストの展開には思わず「そういうことか!」と。
派手な戦闘シーンとかないのですが、じっとりと重く、古処さん自身がこの戦場を体験したことがあるのではないか、と思えるほどにリアリティがある描写に息がつまる。
ただし文章は読みやすい。一気読みできます。
戦争小説としてもミステリ小説としても面白く、そして深い物語でした。そりゃ選ばれるわ、という感じ。
4位.『ミステリークロック』
に続く〈防犯探偵シリーズ〉の4作目。
「ゆるやかな自殺」「ミステリークロック」の2編からなる作品集です。
防犯探偵・榎本さんと弁護士・青砥さんのコンビにまた会えたことは嬉しいし、確かに面白いことは面白い。複雑すぎるトリックも私は好きだ。
でも、でもですよ。
どうしても貴志さんには
1.『クリムゾンの迷宮 (角川ホラー文庫)』
2.『黒い家 (角川ホラー文庫)』
3.『天使の囀り (角川ホラー文庫)』
4.『新世界より(講談社文庫)』
5.『青の炎 (角川文庫)』
くらいの傑作を期待してしまうんですよねえ!
この5作品が面白すぎるのがいけないんですが、貴志さんの作品を好きだからこそ、このくらいでは満足できなくなってしまっているというか、全く厄介なものです。
これが普通の作家さんの作品だったら、素直に「面白い!」っておすすめできるんですけど。難しいものです。
3位.『機龍警察 狼眼殺手』
機龍警察シリーズの6作目。長編としては5作目。このミスの常連さんですね。
このシリーズ、基本的に〈龍機兵〉という新型機甲兵装が活躍するのですが、今作では〈龍機兵〉が全く登場しない。
その点が残念に思いましたが、〈龍機兵〉の活躍がないのにここまで面白く書ける、と考えればすごい。
というより、〈龍機兵〉の活躍がないからこそシンプルに人間ドラマに集中できて、やはり機龍警察シリーズとしてなくてはならない物語になっています。もはや普通の警察小説としても抜群に面白いです。
相変わらずの重厚なストーリーとキャラ描写でページをめくる手が止まらないし、またシリーズ1作目から読み返したくなるような極上のエンタメ作品でした。
シリーズを未読ならもちろん1作目『機龍警察〔完全版〕 (ハヤカワ文庫JA)』から。ただし、一度読み始めるとシリーズ一気読みせずにはいられなくなるので注意してください。
2位.『ホワイトラビット』
いわゆる「伊坂ワールド全開」ってやつです。
仙台の住宅街で起きた人質立てこもり事件がいろんな人の視点で語られていく、という籠城ミステリ。
物語が進むにつれて少しづつ立てこもり事件の真実が明らかになっていくわけですが、おもわずウヒョー!と言わずにはいられない伏線回収の気持ち良さ。そしてどんでん返し。
伊坂さんの作品にどんでん返しを求めているわけじゃないんですが、これには「そうくるか!」と唸ってしまった。『アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)』に似たヤラレタ感がある。
面白い小説ってこういうことだよね、ウンウン、と一人で頷いてしまうくらい好きでした。
伊坂作品によく登場する「黒澤」という泥棒が今回も活躍しますが、他の作品をあまり読んだことがない方でも十分に楽しめるので問題なしです。
1位.『屍人荘の殺人』
キター!( ゚∀゚)
間違いなくこのミス上位に入るだろうなあ、と思っていましたが1位とは!しかもデビュー作ですよ。おめでとうございます!
神紅大学ミステリ愛好会の会長・明智恭介(あけちきょうすけ)とその助手・葉村譲(はむらゆずる)は、同じ大学の名探偵少女・剣崎比留子と一緒に映画研究部の夏合宿に加わることになる。
しかし合宿一日目の夜、肝試しの最中に「まさかの出来事」に遭遇し、彼らは『紫湛荘(しじんそう)』に立て籠もりを余儀なくされる。
外界と連絡が取れなくなった状況下で事件が起こる、いわゆる「クローズド・サークル」を扱った作品です。
名探偵と助手、ミステリ好き大学生、夏合宿、クローズドサークル、殺人事件、とくれば有栖川有栖さんの〈学生アリスシリーズ〉第一弾『月光ゲーム―Yの悲劇’88 (創元推理文庫)』を彷彿とさせる典型的な本格もの。
で、ありながら、あの展開!!!
衝撃でした。しかも、あの状況でしかできない本格ミステリしてるから最高ですよね。
いやでも、ミステリ好きの私からしたら納得の一位なんですけど、普段ミステリを読まない方がこのミス1位をキッカケに『屍人荘の殺人』を読んだらどんなリアクションになるのでしょう。わたし、気になります!
ミステリ好きな人からすれば、「おお、夏合宿でクローズドサークルとは、お約束のパターンをやってくれるじゃあないか!」と喜ばせておいての〈あの展開〉で「え!!!」って驚愕するわけで。
……まあいいか、深いことを考えるのはやめよう。今は純粋に『屍人荘の殺人』が1位になったことを喜ぼう!
にしても、いつも行く本屋さんに『屍人荘の殺人』がズラリと並べられている光景には、思わずニヤニヤしましたねえ。
その横に、有栖川さんの『月光ゲーム』を積み上げて「まずはコチラ!」的なポップを書いて売り場を作ってみたい願望があったりなかったり。

他の年のこのミスはこちら!
NEW!【2018年版/海外編】このミステリーがすごい!ベスト10紹介
・【2017年/国内編】このミステリーがすごい!ベスト10紹介
・【2017年/海外編】このミステリーがすごい!ベスト10紹介
・【2016年/国内編】このミステリーがすごい!ベスト10紹介
・【2016年/海外編】このミステリーがすごい!ベスト10紹介
・【2015年/国内編】このミステリーがすごい!ベスト10紹介
・【2015年/海外編】このミステリーがすごい!ベスト10紹介
・【2014年/国内編】このミステリーがすごい!ベスト10紹介
・【2014年/海外編】このミステリーがすごい!ベスト10紹介
・【2013年/国内編】このミステリーがすごい!ベスト10紹介
・【2013年/海外編】このミステリーがすごい!ベスト10紹介
関連記事
➡︎【第2弾】最高に面白いおすすめ国内ミステリー小説50選②
参考にしていただけたら嬉しいです。それでは良い読書ライフを(* >ω<)=3
コメント
コメント一覧 (6件)
このミスの結果は、このブログで確認しようと決めていました(笑)
自分は七冊読んでいましたが、どれも素晴らしい作品ですよね。個人的に嬉しかったのは、狩人の悪夢と屍人荘の殺人。デビュー作でこのミス一位って、不夜城以来だった気がします。いずれにしても、屍人荘の大健闘に万歳! ほかのランキングでも金星を挙げたらしいです。これからの作品に期待が持てますね。
そうだったんですか!アラシナオヤさん、ありがとうございます笑。
いや、本当に良い作品が集まったと思います。私も狩人の悪夢と屍人荘の殺人は嬉しかったですね。
そうそう、デビュー作で1位って不夜城以来21年ぶりだそうです。
『狩人の悪夢』はランクイン当たり前として 笑、『屍人荘の殺人』みたいなミステリが1位になるとやっぱり嬉しいものですよね。私も心の中でバンザイでした。
本書に載っていた著者・今村昌弘さんの特別インタビューも面白かったです。
いやあ、本当に嬉しい。
きゃー、また読みたいのがいっぱい!
とりあえず、1位に輝いたのは読まなきゃ!
私も、かがみの孤城、もっとランクが上でもいいと思う!!ひとりで暴動しそうでした。
あ、、思い出したら涙が、、。
間違いなく、今年の私の中では1位かと。
ふっふっふー。
年末年始は読書で大忙しですなあ(´∀`*)
私も本に埋もれそうです。。
ですよねー!かがみの孤城はもっと上ですよねー!
まあミステリー小説かと言われるとアレですが、読んでよかった小説としてダントツ一位です。
かがみの孤城を超える作品は、やはり辻村さんご自身にしか書けないのでは。
今年の一位どころか、ここ数年の間で読んだ小説の中でもトップ争いする勢いです(ノω`*)
私はこの中だとホワイトラビットが好きですね。伊坂幸太郎最高です。あとかがみの孤城読みました。トリックはわかりましたけど辻村深月の作が品の中で最高でした。ツナグしか読んだことないけど。
後1つ。米澤穂信がランキングに入っていないのは意外です。そもそも今年新作出したのか知らないんです(笑)。
ホワイトラビットはほんと面白かったですよねー。
いつもの伊坂さんにより磨きがかかってたというか、やっぱり伊坂さんの作品は面白いなあ、と改めて思わされました。
かがみの孤城、気にっていただけたようで嬉しいです!
ですよねー!米澤穂信さんが入っていないのはびっくりです。古典部シリーズの新作『いまさら翼といわれても』はランクインすると思ったんですけど、本当に意外でした。