予想以上に読むのに時間がかかってしまいました。
というわけで、2018年版「このミステリーがすごい!」ベスト10の「海外編」です。
2018年版「国内編」はこちら

※2018年版「このミステリーがすごい!」は《2016年11月 – 2017年10月》に発刊された作品が対象です。
10位.『シンパサイザー』
ピュリッツァー賞やエドガー賞最優秀新人賞など合わせて六冠を達成したという、なにやらすごい作品。
「私はスパイです。冬眠中の諜報員であり、秘密工作員。二つの顔を持つ男――」捕らえられた北ベトナムのスパイは、独房で告白をつづる。息もつかせぬスパイ小説にして皮肉に満ちた文芸長篇。
なるほどスパイ小説か、との情報だけで読みはじめましたが、純文学に近いですね。
ベトナム人の見たベトナム戦争について淡々と描かれており、想像していたエンタメスパイ小説とはまるで違う。同じ戦争でも、視点が変わると全く別の物語になる、とはわかっていましたが、ここまでとは。
特に盛り上がる場面もないのですが、作品に込められた「熱量」が凄まじくて一気読みとはいかず、時間をかけて噛みしめるように読んでしまった。
今回のベスト10の中でも一番読む時間がかかった。でも、そのぶん忘れられない物語になった。
9位.『ゴーストマン 消滅遊戯』
『ゴーストマン 時限紙幣』に続くシリーズ2作目。
主人公となる「ゴーストマン」が実に変幻自在な人物で、外見を変えるだけでなく、声や姿勢や態度も変化させ、完全に違う人になって犯罪をこなすわけ。
つまり「何者にでもなれる」ってこと。
そんな「ゴーストマン」こと「私」に、ゴーストマンとしての基礎を叩き込んでくれた師匠アンジェラから、SOSが届く。
もちろん罠の可能性もあるが、「私」は彼女を助けるためマカオへと向かう。
1作目の方が「クールなハードボイルド犯罪小説」って感じでした。今回は少し風味が違う。面白いことには変わりないけれど。
かなり映像化向きな物語だけど、「ゴーストマン」がどんな人物になっているのか想像するのも楽しみの1つなので、映像版は見たくないなあと思ったりもする。
間違いなく、先に1作目『ゴーストマン 時限紙幣 (文春文庫)』を読んでいた方が楽しめますので、ぜひそちらから。
ゴーストマンのこれからの活躍を期待していたシリーズだったのですが、なんと著者ロジャー・ホッブズはこの作品を最後に、28歳の若さでこの世を去ったそうな。
早すぎる。
8位.『その犬の歩むところ』
GIV――ギヴ。それがその犬の名だ。その孤独な犬の首輪に刻まれていた三文字だ。傷だらけで、たったひとり、山道を歩んでいた犬の名だ。彼はどこから来たのか。どこで、なぜ、こんなにも傷だらけになったのか。彼は何を見てきたのか。どこを歩んできたのか。
犯罪が、天災が、戦争が、裏切りがあった。世界が理不尽に投げてよこす悲嘆があり、それと戦い、敗れる者たちを見守ってきた一匹の犬がいた。
ギヴという名の犬と、人との繫がりを描いた、救済の物語。
動物系に弱いことは自覚していましたが、これは名作だ。
戦争、テロ、災害、犯罪、これまでアメリカが直面してきた問題を、ギヴはどう見てきたのか。
犬や猫が好きなだけに、読んでいて辛くなる場面もあった。
でも最終的には気持ちが温かくなり、人と犬との繋がりの大切さを学べる良い作品。よくある「犬好きの人のための小説」ではない。
ミステリー小説かどうかは置いといて、「読んでよかった度」はベスト1。
海外のこのミスってどんよりした作品が多いから救われたー。
7位.『渇きと偽り』
故郷の町で幼馴染が一家心中し、葬儀のため20年ぶりに帰郷した警察官・フォーク。
しかし、その一家心中には不審な点があり、幼馴染の両親からも真相を突き止めてほしいと頼まれたフォークは、事件の謎を追っていく。
と共に、フォークが20年も故郷を離れるきっかけとなった事件が語られていく。
現在と過去の事件の振り返り、閉鎖的な街でのピリピリした人間関係、なんてのは海外ミステリでは定番の展開ですが、結局このパターンは面白い。
干ばつに悩まされる田舎町の、タイル通りの「渇き」が凄まじく、読んでるこちらまで肌や喉がヒリヒリしてくるよう。
でもテンポがよく文章も読みやすく、フーダニットを最後まで引っ張り一気読みさせられてしまった。
今回のベスト10の中でも一番読み終わるまでのスピードが早かったかもしれない。
なんとデビュー作ですって。今後が楽しみ。
6位.『ジャック・グラス伝: 宇宙的殺人者』
序盤は完全にSFでどうかなと思いましたが、第2部からミステリマニアの変人令嬢・ダイアナが登場してきてミステリ小説になる。
ジャック・グラスと呼ばれる宇宙的殺人者が犯人だ、ということが読者に提示されており、彼が「どうやって」「なぜ」それを行ったか、の謎を解くことがメイン。
つまりフーダニット(誰が?)ではなく、ハウダニット(どうやって)、ホワイダニット(なぜ)を楽しむ作品。
で、この「ハウ」と「ホワイ」が実にSFならではで、この作品意外じゃまずお目にかかれない代物。これを見れただけでも十分読んでよかったと思えた。
あくまでSFミステリなので、真面目に推理小説として読むと「そんなのありですか!」と絶叫します。
「ミステリー小説を読むぞ!」と意気込んで読むと賛否別れるかもしれませんが、「SF冒険活劇」だと割り切って読めば凄く面白い。
5位.『黒い睡蓮』
衝撃度ナンバー1。
とある村で、女好きで絵画コレクターでもある眼科医が殺される。動機は女性関係か、絵画の取引関係か。という、一見よくある推理小説。
ですが、巧みな構成と技と仕掛けでアッと言わせてくれる名作でした。物語も十分面白い。
2016年のこのミスでも『彼女のいない飛行機 (集英社文庫)』が9位にランクインしていたミシェル・ビュッシさん。これからも目が離せませんなあ。
ミステリとしてはギリギリ、人によっては「そんなのありかよ!」と怒ってしまうかもしれませんが、細かいことはいいからとにかく騙されたい!という方はぜひ。
4.『湖畔荘』
ある問題を起こして謹慎処分となったロンドン警視庁の女性刑事。
ロンドンを離れてコーンウォールの祖父の家で謹慎の日々を過ごすうちに、偶然、打ち捨てられた屋敷・湖畔荘を発見する。
そして、70年前にそこで赤ん坊が消える事件があり、迷宮入りになっていることを知る。
興味を抱いた彼女は、この事件を調べ始めた。
これは面白い!
館モノってわけじゃないんですが、国内海外関係なく怪しげな「荘」が出てくるミステリって好き。
上巻で広がった伏線と謎をシュルシュル回収していって、下巻の終盤は「圧巻」の一言。
謎解きの醍醐味ってのを堪能できます。
上巻の終盤から、もう止まらなくなり、慌てて下巻を手に取り一気読み。
うわーそうくるかー!と唸ってしまうラストの展開。
ケイト・モートンにしてやられた。
唯一の難点は、上下巻合わせて4000円という出費。
でも、それだけの価値があると言えるほどに良いミステリでした。ホントに。強がりじゃなくて。
3.『東の果て、夜へ』
映画化してほしい、とまず思った。
そんなことしなくても、頭の中でハッキリと映像化されていたのですが。
ロサンゼルスのスラム街「ザ・ボクシズ」で犯罪組織に所属する15歳の少年、イースト。
麻薬斡旋所の見張り役だった彼は、ボスから「ある裏切り者を殺せ」と命令を下される。
その裏切り者は、遠く東に離れたウィスコンシン州へ旅行中。彼が来週ロサンゼルスに戻ってくる前に殺せ、という。
その旅を共にするのが、13歳にして殺し屋である弟を含めた3名の少年たち。
イーストたちの、2000マイルにも及ぶ旅が始まる。
4人の少年が1人の男を殺すための旅にでる、というあらすじだけで大好きなのですが、どうでしょう。
これは、ミステリー小説というより、少年の成長を描いたクライムノベル&ロードノベルであり、傑作青春小説です。
4人の少年の旅といえばキングの『スタンド・バイ・ミー(新潮文庫)』を彷彿をさせますが、似ているようで、やっぱり違う。
もちろんトラブル続出でなかなか思うようにはいかず、でもド派手な展開とかなくて、常に落ち着いたテンポで進むのがまた良い。
なんでもない情景描写が、いちいち胸に突き刺さる。
静かなんだけど、どこかピリッとしか空気が漂うこの雰囲気、好き。
表紙も、『東の果て、夜へ』という邦題も、好き。
2位.『13・67』
香港警察の生ける伝説、と呼ばれるクワン警視。
そんな彼がこれまでに関わってきた数々の難事件が収められた、6本の短編集。
時系列が逆になっており、一遍進むごとに過去へと遡っていくという展開がお見事。
香港の方が書いた香港警察小説、っていうと馴染みがないし、ちょっと手に取りづらい気持ちもわかるのですが、これ、大傑作ですよ。
まず一遍一遍が「はー、こりゃ面白い!」と思わず声に出してしまうほどの出来栄え。
巧みな伏線回収に意外な真相、警察小説でありながら本格ミステリでもあって文句のつけどころが見当たらない。
そして、あの展開。
思わず「え!!!」って言ってしまう衝撃。最高ですか。
1位.『フロスト始末』
ご存知「フロスト警部シリーズ」。その最終作です。
これでフロスト警部ともお別れかあ、と思うと寂しすぎます。
内容を簡単に説明すると、「デントン署にいたフロスト警部が次から次へと事件を抱えて(押し付けられて)ドタバタする」シリーズおなじみの展開です。
フロスト警部って人は、見ているだけでも楽しいんですよ。
言い方が悪いですが「冴えないおっさん」であり、下品なジョークも言いまくる。
でもシリーズを追うごとに、いつもハチャメチャな事件に巻き込まれる気の毒な彼が、なぜだか魅力的に見えてきて、気がつけばファンになってしまっている。そんな不思議な人。
人員不足の中、何件もの事件を抱え、寝不足は当たり前で現場を駆け回るフロスト警部。
ストーリーは面白いし、ミステリの質は高いし、ユーモアがあって楽しいし、安心安定いつものフロストシリーズでした。
シリーズ最後の作品なので、読み終わりたくなかったのですが、それでも上下巻を一気読みさせられてしまうほどに面白かった。
1位、おめでとうございます。
読む順番
1作目『クリスマスのフロスト (創元推理文庫)』
2作目『フロスト日和 (創元推理文庫)』
3作目『夜のフロスト (創元推理文庫)』
4作目『フロスト気質 上 (創元推理文庫)』『フロスト気質 下 (創元推理文庫)』
5作目『冬のフロスト 上 (創元推理文庫)』『冬のフロスト 下 (創元推理文庫)』
6作目『フロスト始末〈上〉 (創元推理文庫)』『フロスト始末〈下〉 (創元推理文庫)』
です。
できれば1作目から読んでほしいというのが本音ですが、実はこれまでの作品を読んでなくても『フロスト始末』は楽しめると思います。それだけ完成された作品です。
2018年版「このミス」内でも、担当編集者・宮澤正之さんが、
初めてフロストの名前を知った、上下巻の警察小説なんて読み通せるかな?という人も心配はいりません。じつは、第一作『クリスマスのフロスト』からではなく、いきなり本書から読んでも大丈夫ですし、読みはじめると止まりませんから。
P.45より
と述べています。
上下巻の警察小説、と聞くと読むのが大変そうに思えますが、フロスト警部シリーズは本当に読み始めたら止まらない。
ミステリだから読みたいのではなく、フロスト警部がそこにいるから読みたいわけで。
もう、彼に会えないのが寂しくてならない。会いたくなったら、何度も再読しよう。
ありがとう、フロスト警部。
個人的ベスト3は?
確かに『フロスト始末』が1位で嬉しいんですけど、「好きなシリーズだから」って理由が強いんですよね。しかも最終巻っていうと、1位にしたくなっちゃうじゃないですか。
では、そういう感情を抜きにして、純粋にミステリ小説として面白かったベスト3をあげるなら、
2位.『13・67』
3位.『黒い睡蓮 (集英社文庫)』
ですね。
この3作品は、頭ひとつ抜けて面白かったです。
あと、本家ではベスト10入りしませんでしたが、
アーナルデュル・インドリダソン『湖の男』
と
ヘレン・マクロイ『月明かりの男 (創元推理文庫)』
が個人的にベスト10入り。
ぜひご参考までに。
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参考にしていただけたら嬉しいです。それでは良い読書ライフを(* >ω<)=3
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