奥田英朗『コメンテーター』- トンデモ精神科医がコロナ禍でもハチャメチャ治療で大暴れ!

あの破天荒な精神科医・伊良部一郎が帰ってきた!

注射フェチでフィギュアも大好き、天真爛漫かつ無鉄砲な性格で、ハチャメチャな治療をしては患者を振り回す。

そんな伊良部が、なんとテレビのワイドショーで、コメンテーターとしてリモート出演することになった。

テレビ局側は、コロナ化における鬱の社会問題化についての解説を求めていたが、素直に従う伊良部ではない。

あまりにも場違いな服装をし、肝心のコメントも放送事故スレスレ。

さらにグラマー美人の看護師マユミまで、パツパツのミニ丈ナース服で、ギターを抱えて画面内に乱入。

当然番組には苦情が殺到し、ヤバい事態になるかと思いきや、意外なことにネットでは大反響となり―?

「伊良部一郎シリーズ」第四弾、17年の時を経てついに刊行!

目次

コロナ禍でもハチャメチャな伊良部

「伊良部一郎シリーズ」と言えば、2005年や2011年のテレビドラマ、2009年のテレビアニメを思い出す方も多いと思います。

本書『コメンテーター』は、その原作シリーズの第四弾です。なんと17年ぶりの刊行ということで、ファンの方にとっては超おまちかねの一冊!

初めましての方も、ドラマ化やアニメ化までされた大人気シリーズの復活ということで、興味が湧くのではないでしょうか。

内容としては全5編の連作短編集で、過去のシリーズ通りトンデモ精神科医の伊良部が、治療と称した無茶振りで患者を翻弄する、というもの。

ひとつ違うのは、17年前にはなかった新型コロナウイルスの影響で、社会そのものが変化したところ。

テレビは連日コロナコロナと騒ぎ立て、一般市民は窮屈な自粛生活を強いられ、そのような中で徐々に心を病んでいった人々が本書には描かれています。

もちろん伊良部はコロナが落とした影に負けることなく、いつものハチャメチャなノリで、鬱々とした気分を一気に吹き飛ばしてくれます。

どの話も豪快で痛快で、読みながら患者と一緒にスッキリ爽快な気分になれること請け合い。

笑って、仰天して、時には頭を抱え、最後には幸せを感じられる、そんな充実した読書体験ができる一冊です。

各話のあらすじと見どころ

『コメンテーター』

表題作。

低視聴率に悩む某テレビ番組が、コロナ関連のコメンテーターとして美人女医を招くことにしました。

ところが何をどう間違えたのか、色白デップリの伊良部が出演し、番組はとんでもない内容になってしまい―。

伊良部はもちろんマユミも暴走するので、番組を見ていたお茶の間の皆さんは、さぞビックリしたことでしょう(笑)

こんな番組、むしろ見てみたい!

『ラジオ体操第2』

一見とても温厚なのに、実は頭の中では怒りが渦巻いている中年サラリーマンの物語。

怒りたくても怒りを表面に出すことができない彼は、心のバランスを崩し、過呼吸症候群に陥ってしまいます。

患者をわざと怒らせようとする伊良部が面白い!

噛んでるガムを口から出して額にベチョッとか、ありえなさすぎる失礼度で笑えます。

でもこれも伊良部なりの治療なのですよね~。

『うっかり億万長者』

会社でうまくやれずに退職し、デイトレイダーになった若き株長者のお話。

四六時中パソコンの前で相場変動や資産をチェックしなければ不安で仕方がないということで、伊良部の診察室にやって来ます。

ここでもやはり伊良部は、患者を茶化しまくって、おもちゃにします。

マユミも一緒になってハチャメチャにしていくので、患者さんの振り回され度が特に高い作品です。

『ピアノ・レッスン』

広場恐怖症となった女性ピアニストのお話です。

電車やタクシーで強い不安を感じるので移動が困難ですし、しかも悪化していく一方なので、すっかり困ってしまい―。

失敗しないようにと慎重になればなるほど、不安やストレスって増えるものですよね。

ピアニストだと特に増えそうですが、それすらも我らが伊良部先生は吹き飛ばしてくれます。

相変わらずデタラメな治療ですが、なんだか名医に見えてくるから不思議です(笑)

『パレード』

大学入学でせっかく山形から上京したのに、コロナ禍で授業がリモートになってしまった学生の物語。

友達やグループを作れなかったため、リモートが明けても周囲になじめず、社会不安障害を発症してしまいます。

今回の治療方法も強引でド派手!

これだけはっちゃければ、確かに内向的な学生さんでも吹っ切れそうですね。

街が大変なことになってしまったので、後始末がヤバそうですが……。

心の陰りを吹き飛ばす痛快な一冊

17年経っても変わらない伊良部のハチャメチャっぷりが、おわかりいただけたかなと思います。

ただ、相変わらずとは言っても、伊良部の精神科医としての腕前は上がったように見えます。

毎回とんでもない治療方法を提案しては、患者をひどい目に遭わせている伊良部ですが、根本にはきちんとした医学的な理由が見え隠れしています。

その証拠に患者さんたちは、すったもんだの末に心の中の陰りを払拭できているのですよね。

あまりにもデタラメな伊良部を見ていて、悩むのがバカバカしくなってくるのか、いつの間にか過呼吸や強迫観念などの症状が出なくなって、気分が晴れ晴れとするのです。

今回は特にそういったお話が多く、どさくさに紛れて患者を治してしまう伊良部を、ちょっとカッコいいと思えたりもしました。

作中だけでなく現実の世界でも、コロナ禍の影響で心に重荷を背負った人は多いと思います。

もちろんコロナ関係以外で心を病んでしまう人も少なくないでしょうし、病むまで行かなくても、怒りを溜め込む人とか人付き合いが苦手な人とか、たくさんいそうです。

自分もそうかも、と思った方は、ぜひ本書『コメンテーター』を読んでみてください。

きっと登場する患者さん同様に、伊良部先生に発散させてもらえるでしょう。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)

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