「井上真偽」という名前にピクリと反応してしまう方も多いことでしょう。
いかにも推理作家というイメージを持ってしまう名前です。
これで「真偽」で「まぎ」と読むのもなかなかニクイですよね。
井上真偽さんと言えば、つい最近『探偵が早すぎる』がドラマ化されたことでも知られています。
というよりも、ドラマ化をきっかけに井上真偽さんを知ったという方も多いかもしれませんね。
実は、今回ご紹介する『恋と禁忌の述語論理』は、井上真偽さんのデビュー作。
講談社が主催する第51回メフィスト賞を受賞しています。
井上真偽さんが小説家デビューを果たした作品でもありますので要チェックですね(*´∀`*)
井上真偽『恋と禁忌の述語論理』
主人公となるのは大学生の森帖詠彦(もりじょう えいひこ)。
基本的には詠彦の一人称で語られていくことになります。
詠彦は夏のある日、北関東の古民家に住んでいる天才数理論理学者の叔母・硯(すずり)のもとを訪ねます。
硯は天才数理論理学者であり、独身のアラサー美女でもあります。
では、詠彦と硯のコンビで事件を解決していくのかというと、そうではありません。
というのも、詠彦はすでに別の名探偵が解決したはずの殺人事件の真相を証明してもらうために硯のもとへと訪れたのでした。
藍前ゆりに誘われて参加した女子会で起きた事件の真相について、大阪の繁華街にあるテナントビルで起きた殺人事件の真相について、山梨県の避暑地に建つ洋館で起きた殺人事件の真相について……詠彦は次から次へと硯のもとへと事件を持ち込み、相談するのです。
そして秋のある日、詠彦は硯の住む家を訪ねます。
詠彦が持参したチーズケーキを見て、硯は瞳を輝かせて……といった具合に、他の探偵に推理されている事件を硯が否定して別の推理を与えていくという形でストーリーが展開していきます。
3.感想、見所
この作品に限ったことではないのですが、綺麗なお姉さんと助手的ポジションの男の子という組み合わせは比較的よくあるパターンかと思います。
ただ、一般的にはそのコンビで難事件を解決していくという展開になるかと思うのですが、こちらの作品は一味違っています。
というのも、この作品で語られるのはすでに他の探偵によって推理がなされており、解決している事件なのです。
それを詠彦が硯のもとへと持ち込み、硯が他の探偵の推理を否定して新しい推理をもたらしていくというスタイルなのです。
そして、その推理で飛び出してくるのが数理論理学です。
正直なところ、事件はおまけで数理論理学がメインなのではないかと思えるほどガッツリ登場します。
実際にかなりのページを割いていますし、図解まで用意されている徹底具合です。
やはり数学を苦手としている方には面食らうようなところもあるとは思いますが、元も子もない言い方をしてしまうと、数理論理学がまったくわからなくとも楽しめる作品です。
わからないなりに読み進めていっても、最終的には何となくわかるようになるという不思議。
キャラクターもひとりひとりがかなり魅力的で個性的に描かれており、漫画やアニメでもないのにここまでキャラクターに色を与えられるのはすごいなという印象です。
さらにラストには大どんでん返しが……、必見です。
やはりメフィスト賞受賞作は面白いに決まってる
井上真偽さんは好きでも、デビュー作の「恋と禁忌の述語論理」だけ読んでいないという方が意外に多いようです。
というのも、こちらの作品は表紙がそれらしくない雰囲気なのです(講談社ノベルス版)。
ぱっと見で、学生の青春モノと思い込んでしまう方も少なくないようです。
こちらの作品に限らず、最近では表紙で損をしている作品も多い気がするのですが、井上真偽さんが好きならやはりデビュー作は外せません。
井上真偽さんの他の作品で活躍しているキャラクターたちも登場しますので、そのあたりでも楽しめるでしょう。
そして、何よりもデビュー作で数理論理学をメインにぶち込んでくるという井上真偽さんのセンスには感嘆させられます。
数学が苦手な方でも読み進めてしまうほどの読みやすさですし、井上真偽さんらしいキャラクター同士の軽妙な掛け合いというのは変わらずに楽しめます。
専門的な分野がメインなのに予備知識がまったくなくとも楽しめるし、一度読み始めるとラストまで読み進めてしまうという不思議な力を持った作品です。
ラストまでしっかりと読み進められた方だけが楽しめる大どんでん返しも見逃せません。
これまでにない切り口のミステリだと思いますので、ミステリ全般にマンネリを感じている方にも読んでいただきたい1冊です。
井上真偽さんの作品のひとつとしても、勢いも控えめでとても読みやすいかと思います。
ぜひ、文庫化したこの機会にどうぞ(*´ω`)ノ
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