『琥珀の夏』- 圧巻の最終章に涙が込み上げる、辻村深月さん待望の新作!

弁護士である近藤法子がある施設を尋ねるところからこの物語は幕を開けます。

そこはかつて自分も一時を過ごしたことのある「ミライの学校」。

カルト教団として批判の的になったその施設である日、少女の白骨遺体が発見される。

そのニュースを見た法子は自分が施設にいた頃に仲良くしてくれたある少女〈ミカ〉のことを思い出します。

発見された遺体の情報から、自分が施設に通っていた頃の誰かが死んだ可能性が高いことを知り胸騒ぎを感じる法子。

そんな法子のもとにひと組の老夫婦が依頼を持ちかけてきます。

「自分たちの孫が被害者かもしれない」と語る老夫婦は法子に弁護士として調査を依頼する。

一体何が起こったのかを調べることにした法子の前に驚愕の真相が明らかになります。

明らかになる白骨遺体の正体、そしてその中で紐解かれる30年前の記憶と罪。

蘇る幼い頃の友情に思いを馳せながら法子が進む物語の終盤、涙なしでは読めないミカの真実が明かされます。

目次

ミステリーとしての面白さもある『琥珀の夏』

本書はミステリーとしても読み応えのある作品となっています。

「ミライの学校」の敷地内で発見された白骨遺体。

この白骨遺体が一体誰のものなのか、どうして死んでしまったのかを調べることを軸として物語が進んでいきます。

調査をする主人公の法子は「ミライの学校」婦人部長の田中と面談をしますが手がかりを得ることができません。

そこで法子は自分の記憶を思い返したり、当時の施設を知る人物から話を聞くことで、少しずつ真相を明らかにしていきます。

現在と過去の話を行ったり来たりするので、読者は時間の交錯に心地よく翻弄されながら、主人公の法子とともに物語の行く末を辿ることができます。

過去のある記憶を辿りながら、それが現在にどう絡んでくるのかを予想する楽しさも味わうことができるのです。

また、子供時代のノリコ、ミカの記憶や各章で登場する人物たちのさまざまな視点からの話によって、「ミライの学校」がどのような場所だったのかを把握していくことになります。

一つの事件について多角的に掘り進めていくことで、読者は深まる謎にもどかしく思いながらも、最後まで一気に読み進めてしまうこと請け合いです。

登場人物たち一人一人の感情に触れることで、単純なミステリーでは味わえないような、より生々しく切ないミステリーの世界を堪能できるでしょう。

辻村作品らしい、深く胸に突き刺さる人間描写

ミステリーとしても楽しめる本作ですが、もう一つの見どころとしては辻村深月さんの人物描写です。

主人公の法子とミカの心情描写は圧倒的な繊細さと深さで描かれていて、途中からまるで自分の見知った人間についての話を聞いているような錯覚に陥ります。

また、彼女たちの感じる一喜一憂を通して彼女たちの性格を血の通った人間のものとして知っていくと同時に、読者は自分自身にも照らし合わせて共感や同情を抱くことになります。

こうしたシンパシーを登場人物たちとの間に抱かせることで、読者は物語の深部に引き込まれていくのです。

本作のキーとなる「ミライの学校」に対してのイメージも、読者は度々その印象を変えていくことになるでしょう。

序盤では「偏った考えを持つカルト宗教団体」として映る「ミライの学校」ですが、物語が進むにつれて「真剣に子供たちのことを考える大人たちによって作られた施設」の姿が見えてきます。

同じ一つの場所でも、そこに居合わせた人によってその印象がガラリと変わるということを、辻村さんの切れ味のある文章から感じ取ることができるでしょう。

物事の多面性や組織や人間の持つ一言では表せない複雑さについて考えさせられるのも本作の大きな魅力です。

「人の罪」を描き続ける直木賞作家の新たな到達点。

直木賞作家待望の新作。

過去には「鍵のない夢を見る」で直木賞、「かがみの孤城」で本屋大賞を受賞するなど、これまで数々の話題作を生み出してきた辻村深月さんの2年ぶりとなる新刊長編「琥珀の夏」が6月9日に発売されました。

カルト集団と批判を受けた学校の跡地で発見された白骨遺体はあの少女のものだったのか。

かつて訪れていた施設で起こった事件をきっかけに始まる主人公・法子とミカの物語。

記憶と、施設にゆかりのある人物を尋ねることで法子は幼い頃に閉じ込めていた友情と罪の存在に気づき、過去の扉を開いて少しずつ物語の真相に近づいていきます。

本書はミステリー作品としても楽しめるほか、親子関係や女の子たちの友情の複雑さをありのままに描いたヒューマンストーリーを楽しむことができます。

親元から離れて共同生活を送る少女たちの小さなコミュニティー。

しかしそこには確かにひとつの社会があって、幼いからこそ純粋で時に残酷な人間関係のありようは、読んでる側の少年少女時代をも想起させるでしょう。

主人公たちの考え方や感情を痛いほど正確に描ききった本作は最後にやってくる怒涛の展開が素晴らしく、読後に余韻が残ること間違いなしです。

辻村深月という作家の武器を十分に表しているので、彼女の本を読んだことがない人にもおすすめできます。

この本を読むことで辻村深月さんがどのような小説を書いているのかを知ることができるでしょう。

また、本作は少年少女時代を終えて長い歳月を経た年代の人たちと、お子さんを持つ人たちにもおすすめです。

「琥珀の夏」を読むことで親と子の愛情のあり方、本当に子供のことを考えるというのはどういうことなのかを考えるきっかけとなるでしょう。

そして、自分自身の過去に思いを馳せ、あの頃周りにいた友達や大人たちとの日々をありありと思い出す尊い時間を過ごすことができます。

作家として新たな代表作とも呼び声高い辻村深月さんの「琥珀の夏」、ぜひご一読ください。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)

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