ついに「桐島加奈江」の怪異が明かされるなんて……。
……まずは、このたび発売されました『拝み屋怪談 来たるべき災禍』という作品についてご説明しなくてはいけませんね。
今作は『拝み屋シリーズ(と、私は呼んでいる)』と呼ばれるものの五作目。
拝み屋シリーズとは、〈拝み屋〉を営む郷内心瞳さん(ごうない しんどう)さんが、実際に見聞きした体験をもとにして書かれたシリーズ作品のことです。
〈拝み屋〉のする内容は、
家内安全に交通安全。安産祈願や合格祈願。地鎮祭に屋敷祓い。先祖供養にペット供養。
平素、私が手がける仕事の大半は、概ねこのような感じである。実務自体は山もなく谷もなく、依頼人から乞われるままにただひたすら、無心で拝むのが常である。
『拝み屋郷内 花嫁の家』P.2より
と述べられています。
特に幽霊専門のお祓いをするとかではなく、地味なお仕事が多いようです。
しかし、専門ではないにもかかわらず、まれに出会ってしまうのです。どう説明しようもない「怪異」に。
さて、先日発売された本書『拝み屋怪談 来たるべき災禍』は、シリーズ1作目に登場した桐島加奈江(きりしまかなえ)という14歳の少女の話。
その「完全版」といったところでしょう。
シリーズ1作目『拝み屋郷内 怪談始末 (MF文庫ダ・ヴィンチ)』はたくさんの怖い話が収められた実話怪談集となっているのですが、その中でひときわ異常な雰囲気を醸し出す「桐島加奈江」というお話がありました。
しかし『拝み屋郷内 怪談始末』の中でそれは未解決のまま終わっており(つまり書いた時は現在進行形で怪異が続いていた)、その後「桐島加奈江」は一体どうなったのか?と読んだ誰もが想いを募らせていたのです。
そこで、今作です。
なんとあの「桐島加奈江」にとうとう終止符が打たれたようなのです。これは大事件です。
ついに、ついにきてしまったか。
桐島加奈江とは?
彼女は、著者・郷内心瞳さんが中学生の時に出会った十四歳の少女であり、「怪異」です。
郷内さんはそのころ学校で集団無視にあっていて、自宅で熱帯魚の飼育をすることが唯一の楽しみだったそう。
そんなある日、夢の中で出会ったのが桐島加奈江でした。
彼女も熱帯魚が大好きであり、意気投合した二人はすぐに友達となりました。
しかし所詮「夢」。目が覚めればおしまいです。普通なら。
でも普通ではなかった。
二日目も夢の中で桐島加奈江と出会い、たくさんお話をして、遊んだ。
その次の日も。その次の日も。
寝れば、夢の中で桐島加奈江に出会うことができた。桐島加奈江は他のお友達も紹介してくれた。みんな優しかった。
夢の中では、桐島加奈江に誘われて一緒に熱帯魚屋さんでアルバイトもしていた。その店は、現実世界にも存在する、郷内さん馴染みの店だった。
いつしか夢は楽園となり、現実よりも桐島加奈江と過ごす時間の方が大切になり、学校から帰ってはひたすらに寝続けた。現実と夢が完全に逆転していた。
そんなある日のこと。
夢ではなく現実世界での話。
郷内さんは熱帯魚の餌が少なくなっていることに気がつき、おなじみの熱帯魚屋さんに一人で行くことになった。
夢の中ではいつもその熱帯魚屋さんでアルバイトをしているので、店主に「しばらくぶりだね」なんて声をかけられて変な気分になったり。
まあそんなことは良い。
餌を買い、さっさと帰ろうと道を歩いてると、そこにいた。
桐島加奈江が。
そんなバカな。
これは現実だ。
夢ではない。
しかし目の前にいるのは間違いなく桐島加奈江だ。
夢の中にしかいないはずの少女がなぜ現実世界にもいるのか。
そこで郷内さんは悟ってしまう。
いま自分の身に起きていることが、どんなに普通ではないことかを。
この少女が、どれだけ異常な存在であるかを。
というのが「桐島加奈江」という怪異のザックリしたあらすじです。
これはほんの始まりであり、この後20年以上、郷内さんは桐島加奈江に悩まされ続けるのです。
最初にも述べたように、このお話はシリーズ1作目『拝み屋郷内 怪談始末』の中に収録されていたお話でした。
しかしその時は、桐島加奈江という存在は謎のまま終わっていました。
それが今回シリーズ5作目にして、ついにすべての真相が明かされたのです!
ああ。なんという壮大で、恐ろしいお話なのでしょうか……。
サクッと感想。
1作目『拝み屋郷内 怪談始末』で「桐島加奈江」ファンになった私には最高の一冊でした。
しかし、あの「桐島加奈江」に終止符が打たれてしまったことにもの哀しさも感じます。
ただひとつ。いままでのシリーズ作品は明らかに「実話怪談集」といった構成と文章だったのですが、今回はなんだか「小説」っぽい書き方でしたね。
路線変更したのか、今回だけなのかわかりませんが、すでにシリーズファンの方だと違和感を感じるかもしれません。
まあそれでも郷内さんの「読ませる力」はすごかったですけどね。やっぱり拝み屋シリーズは面白い!って思える内容でしたし。
読む順番は?
やはり1作目『拝み屋郷内 怪談始末 (MF文庫ダ・ヴィンチ)』で「桐島加奈江」を読んでおくのがベスト、と言いたいところですが、今回の『拝み屋怪談 来たるべき災禍』から読んでも大丈夫でしょう。
なぜなら『拝み屋郷内 怪談始末』で触れられた「桐島加奈江」の話のほとんどが『拝み屋怪談 来たるべき災禍』にも書かれているからです。
シリーズを初めて読む方にも問題なく楽しめる仕様になっていました。
ただ『怪談始末』は純粋に面白い実話怪談集であり、「桐島加奈江」以外にも面白い話がたくさんあってオススメですよ。
で、続いて2作目『拝み屋郷内 花嫁の家 (MF文庫ダ・ヴィンチ)』なわけですが、『拝み屋郷内 花嫁の家』は怖いを通り越し、「ヤバい」「エグい」といったレベルの作品です。
ホラー小説、実話怪談集はとても好きでこれまで数多くの作品を読んできましたが、これほど恐ろしい物語を私は知りません。
怖い話がお好きな方はぜひ読んでみてください。
関連記事:『拝み屋郷内 花嫁の家』は実話怪談集の中でも「最凶」の怖さです
シリーズの順番は以下の通りです 。
三作目『拝み屋怪談 逆さ稲荷 (角川ホラー文庫)』
まだ読まれていなければ、一作目『拝み屋郷内 怪談始末』 二作目『拝み屋郷内 花嫁の家』を続けて読むことをオススメします。拝み屋シリーズの虜になるはず。
この二作品を読んで「面白い」と思っていただけたなら、ぜひ続けてシリーズ作品を読んでいってください。
特に「桐島加奈江」「花嫁の家」は忘れられない読書体験になることでしょう。
最高の恐怖がそこには待っています。
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