島田荘司『北の夕鶴2/3の殺人』-島田トリック炸裂!吉敷竹史シリーズの傑作を改めて読む

最近本屋さんに行きましたら、島田荘司氏の『北の夕鶴2/3の殺人』が目立つところに平積みされておりました。

なぜ今になってこんな場所に平積みされているのか。

あまりの懐かしさに買ってしまいましたよ。

帯には伊坂幸太郎さんの「これから読む人がうらやましくて仕方がありません!」なんてコメントが書いてありますが、まさにその通りのミステリーなんですよねえ。

これも良い機会ですし、久しぶりに『北の夕鶴2/3の殺人』を読んで島田推理小説の良さを再考してみます。

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『北の夕鶴2/3の殺人』あらすじ

『北の夕鶴2/3の殺人』は、まさにラブロマンスのような様相。

離婚した、元結婚相手からの電話で幕を開きます。

久しぶりに再会したい主人公の吉敷、それをあいまいな態度で濁す通子。

ちなみに、この小説は「吉敷竹史シリーズ」の第3作としても有名なので、この作品だけでも楽しめますが、1作目寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁』2作目『出雲伝説7/8の殺人を読んでからだと、より吉敷へ親近感が湧きます。

 

さて、再び遠くへ行こうとする彼女が乗った電車を追いかける吉敷でしたが、残念ながら走り出そうとする電車の窓からこちらを見る通子を見送るだけ、という結果に。

話はここから急展開を迎えます。

通子が乗っていた電車、それも彼女の乗っていた車両で殺人事件が発生。

被害者の持ち物情報から「通子なのでは?」という疑惑を抱き、休暇を利用して東京から青森へ飛ぶ吉敷。

一時は通子であることを確信し絶望したものの、実際に死体を見るとそこには違う女の顔が……

この事実で一点、通子は被害者から容疑者になってしまいます。

真犯人は誰なのか。吉敷は容疑から通子を救うことができるのか。

愛と犯罪がクロスする、最後まで目の離せないストーリーになっています。

通子と吉敷の行方は……

「北の夕鶴2/3の殺人」の見どころとして、通子と吉敷の不思議な関係性が挙げられます。

どちらも相手を嫌っていないものの、すれ違いで分かれてしまった二人のもどかしい気持ちが読み手にも伝わり、やきもきしながらも読み進めてしまいました。

また、吉敷が通子と復縁したいから頑張っているのではなく、通子の幸せを願って、別の相手と再婚する場合も、相手の家族へ負い目を感じないように、そんな優しい気持ちで、容疑を晴らそうと奮闘する様子は、いやでも胸打たれますよね~。

自分のために、その身がボロボロになっても暗躍してくれる男性。

実際にはなかなかいないですから!

そんな純度の高い恋心も、『北の夕鶴2/3の殺人』では見逃せないポイントです。

 

また、この殺人事件では、吉敷が表立って捜査に関わらない点も大きな見どころ。

元妻であると明かしてしまうと支障が大きいなどの理由もあり、吉敷竹史という一人の人間として向き合う姿は必見です。

衝撃と感動のラスト

まあ、このラストには胸打たれますよね。

二人の交錯した思いが、次第に溶けていき……

思い違いが多く別れた二人ですが、そんな部分があっても相手を必要としている、そんな心境に変化していく過程が素敵です。

推理面でも、島田荘司氏らしさ全開の大胆なトリック、そして重傷を負うなど、見ていて心が痛くなるほどの吉敷の姿に、最後まで一気に読み進めてしまいます。

管轄外の事件であり、容疑者の関係者でもある吉敷。

捜査に加われないだけでなく、通子への逮捕状が出る前に事件を解決しなくてはいけない、という時間的制限まで加わり、傷を負ってなお駆けずり回る様子に、こちらまで心が急かされます。

そして最後は……この読後感こそ、昭和の名作ミステリー。

パソコンやスマホを駆使した犯罪や推理劇にはない、胸を熱くするものがあります。

男としての戦いや維持、驚愕の結末、そしてロマンス、「北の夕鶴2/3の殺人」はそんなすべてを一度で味わえる、お腹いっぱいな作品なのです。

大胆なトリックが好きな方は是非

「緻密に計算されたトリックが好き!」

という方には、向かないかもしれない作品ですが、

「精細さや現実味ではなく、とにかく壮大なトリックを楽しめるミステリが読みたい!」

という方には是非お勧めしたい作品です。

「バカミス」と揶揄されることも多いですが、それも愛嬌。

すがすがしいまでの爽快感を、私たちへもたらしてくれる、もはやお家芸とも言えますね。

「推理小説のトリックは簡単に見抜けてしまう……という悩みを持っている方は、島田ワールドへ触れてみて下さい。

見抜けるわけがないのです。

一般的なサスペンスとは違う、独自の世界観に驚かされるでしょう!

「吉敷竹史シリーズ」は、吉敷の持つ男らしさ、ハードボイルドさに焦点をあてられることが多いですが、この作品は元妻通子が登場することで、普段は見せない心情が浮き彫りになる点も良いですね。

平成も終わりを迎える今、この時代だからこそ、この作品を手に取ってみませんか?

サスペンスをひとしきり楽しんだ後、大切な人にちゃんと思いを伝えたくなる、そんな作品でもあるのです。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)

コメント

コメント一覧 (2件)

  • 島田氏の作品は感動も謎もトリックも壮大で、とっても良いですよね。
    きっと極論こそ正義、みたいな人なんじゃないですかね(笑)
    この作品を筆頭に吉敷シリーズ大好きです。
    主人公が一般的な人間でしかも警察官なので、同じ幻想的な謎でも御手洗シリーズよりも際立つんですよね。
    御手洗なんか事件の謎よりも現実感無いですもんね(笑)

    • そうなんですよ、感動も謎もトリックも壮大。特にこの作品は。
      ほんと、主人公のキャラって大事ですよね笑。普通の人間で普通の警察官ってところがいいです。
      御手洗の事件はもうファンタジーのレベルですし笑

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