未解決事件の捜査資料や遺留品が保管されている施設、通称「赤い博物館」。
館長の緋色冴子はそれらの整理や管理をしつつ、改めて事件を推理してみる日々を過ごしていた。
緋色の推理力はずば抜けて高く、誰もが匙を投げた難事件でも遺留品を見るだけで真相を暴くことが多々あった。
今回手がけることになったのは、26年前に起こった不思議な誘拐事件。
被害者は5歳の時に、両親の知人らしき女性に誘拐され、車のトランクに閉じ込められた。
ところが犯人は身代金を受け取らなかった上、被害者をすぐに解放。
犯人の目的は一体何だったのか、そして被害者の曖昧な記憶の中から、緋色は真相を掴み取れるのか?
表題作他、全5編を収録した「赤い博物館シリーズ」の第二弾!
過去の資料から真相を暴き出す
『記憶の中の誘拐 赤い博物館』は、警視庁管轄の施設「赤い博物館」を舞台とした本格ミステリー短編集です。
警察小説の一種ですが、刑事モノではなく、いわゆる安楽椅子探偵モノ。
「赤い博物館」館長の緋色冴子が、館内に保管されている未解決事件の資料を見ながら改めて推理する、という物語です。
要は現場の刑事が解決できなかった事件を、緋色が遺留品から暴いていくわけですね。
緋色の観察眼と推理力はすさまじく、どんな些細な点も見逃さず、少ないヒントから次々に真実を引っ張り出していきます。
難解な事件なのに、犯人や動機をズバリと言い当てて、快刀乱麻のごとく解決していく様子は、爽快そのもの!
ロジカルシンキングの好きな方なら、ワクワクしながら読めること間違いなしの作品です。
しかも短編集ですから、全5編もの推理劇を楽しめるところがまたGOOD!
ひとつひとつの物語は決して単純ではなく緻密に練り上げられており、伏線回収もバッチリなのでミステリーマニアも納得の読み応えです。
何より緋色のクールでクレバーなところがたまらなくカッコいいので、名探偵モノが好きな方にはぜひ読んでいただきたい一冊です。
各話のあらすじや見どころ
・『夕暮れの屋上で』
悲劇は、23年前、高校の卒業式の前日に起こりました。
美術部の後輩が、屋上で頭をぶつけて亡くなったのです。
先輩3名が殺人の疑いをかけられたのですが、決定的証拠がないため迷宮入りとなり、やがて時効となりました。
しかし23年の時を経て、緋色冴子がこの事件の真相を暴きます。
幸せだった日常が突然崩壊していく様子は、衝撃的!
・『連火』
1990年に起こった連続放火事件を、緋色が再捜査します。
犯人は民家に灯油を撒いて火をつけては、被害が大きくなる前に、自ら電話で火事を報せていました。
なぜなら犯人の目的は、害を与えることではなく、火事が起こると現場に来るであろう「あの人」に会うためだったから。
最後にどんでん返しがあり、「あの人」の意外な正体にビックリさせられます。
・『死を十で割る』
緋色が今回再捜査するのは、1999年に起こったバラバラ殺人事件。
遺体は不自然な形で十分割され、わざわざ目立つ場所に放置されていました。
その上前日に被害者の妻が、電車に飛び込んで亡くなっていたという、不審な点だらけの事件です。
緋色はもちろん、それらの謎を全て徹底的に解き明かします。
人が一体何のためにここまで残忍になれるのか、ゾッとするような作品です。
・『孤独な容疑者』
23年前に、同僚を殺した「私」の物語です。
「私」は競馬用のお金を同僚からたびたび借りており、高額になってきた頃に殺害しました。
しかし偽のダイイング・メッセージなどで警察を混乱させることで、まんまと罪から逃れます。
緋色は、この事件の裏側にある真実を見抜きます。
プロローグの段階から巧妙に仕掛けられている罠に注目!
・『記憶の中の誘拐』
表題作。
26年前、5歳の時に誘拐された男性からの相談です。
身代金目的の誘拐かと思いきや、犯人は受け取りを放棄し、被害者の身柄もすぐに解放しました。
一体何のための誘拐だったのか、謎を解くために緋色が再捜査に出向きます。
犯人の正体は早い段階でわかるのですが、緻密なトリックにより意外な展開になり、ドキドキが止まらない作品です。
前作以上の切れ味を楽しめる
大山 誠一郎氏の『記憶の中の誘拐 赤い博物館』は、「赤い博物館シリーズ」の第二弾となります。
第一弾は2015年に刊行され、トリックやロジック満載の面白さからたちまち話題になり、翌年2016年にはテレビドラマ化されたほど!
本書はその続編であり、前作以上に読み応えのある本格ミステリーとなっています。
特に絶妙なのはミスリードで、読んでいるうちに、いくつもの罠にはまっていたことに気付き、愕然とすることがしばしば。
ミステリーならではの「騙される快感」を存分に味わえます。
作者の大山 誠一郎氏は、京都大学出身で、在学中は推理小説研究会に所属されていたそうです。
京大の推理小説研究会と言えば、かのノベルゲーム「かまいたちの夜」の作者・我孫子武丸さんや、綾辻行人さん、法月綸太郎さん他、大勢の推理小説家が所属されていたという、超有名なサークル。
それを考えると、本書のミステリーとしての面白さや完成度の高さが窺い知れますね!
とにかく読み手の関心をグイグイ引きつけるストーリー展開と、緋色のハッとするほど鮮やかな推理とが、たまらなく魅力的です。
緋色の部下の寺田聡(ワトソン的な苦労人!)や、清掃員の中川貴美子(飴ちゃんネタが毎回面白い!)も、それぞれいい味を出してます。
前作を読んだ方にも、ドラマを見た方にも、もちろん初めての方にも、おすすめですので、ぜひ手に取ってみてください!