小沢はオカルト好きの編集者で、雑誌の企画で心霊スポットや奇妙な事件、噂について調べていた。
「私」もライターとして協力していたが、だんだんと怖くなり、これ以上足を踏み入れることに抵抗を感じるようになった。
あまりにも根深い事件の数々に、関わりを持てば持つほど、自分の身にも危険が及んできそうな気がしてきたのだ。
しかし小沢は現地に向かってしまい、それきり消息を絶った……。
「私」は彼が調べていた事件の資料をまとめ、作品化することにした。
できるだけ多くの人に読んでもらい、読者の中にもしも小沢の居場所について思い当たる人がいたら、情報を提供してほしいという思いからだった。
小沢は一体どこへ消えたのか、そして読者は膨大な資料の中から小沢の行方を探ることができるのか。
身震い必至の恐ろしすぎるモキュメンタリーホラー!
最後まで読むと手遅れに……
『近畿地方のある場所について』は、読めば読むほど怖くなり、抜け出せなくなる、恐怖の泥沼的モキュメンタリーホラーです。
一見、小説というより資料集のような感じです。
内容の大半が、怪談や怪事件を紹介する雑誌記事、当事者へのインタビュー、SNSへの書き込み情報などをまとめたものだからです。
主人公の「私」は、それらを読者に見せた上で、失踪した小沢の行方について何か知っていたら教えてほしいというのです。
資料にある事件は、いずれも場所や時間がバラバラで、全く別々の出来事のように見えます。
でも読み進めていくうちに、少しずつ繋がりが見えてきて……。
そして最終的に真実が明らかになるのですが、その時にはもう手遅れというか、読者は顔面蒼白になってしまうくらいの恐怖を味わうことになります。
怖いです、本当に本当に怖いです。
中盤くらいから怖さが加速し、これ以上ページをめくれなくなる人も多いと思います。
でも資料には、失踪した小沢の謎を解くために必要な情報が入っているはずですから、全てに目を通さなければなりません。
主人公の「私」も「最後まで読んだ上で、ご協力ください」と再三お願いしてきますしね。
真面目で優しい方であれば、なんとか協力できるかもと思って、きっと頑張って最後まで読むでしょう。
もちろんホラー好きの方や好奇心の強い方も、ゾクゾク感を楽しみながら最後まで読むはずです。
そしてその先に待っているのは……、しばらくは平常心で日常生活を送りづらくなるほどの恐怖です。
どうかそれを十分に承知した上で、読み始めてください。
異様な事件の数々
作中で紹介されている怪談や怪事件は、どれも鳥肌モノの怖さです。
たとえば「奈良県行方不明少女」で、これは小学2年生のKちゃんが、自宅付近で忽然と姿と消したという事件です。
警察の捜査では見つからず、霊視捜査が行われますが、霊能者もうろたえるほどの不気味な状況。
そして近畿地方の●●●●●という地域の山沿いの国道で、真夜中にありえない姿のKちゃんが何度も目撃されたり、●●●●●のダムで働いていたKちゃんの叔父が自殺したりと、恐ろしい出来事が続くのです。
他にも、「林間学校集団ヒステリー事件」とか、「なぜか5号棟からだけ人が飛び降りるマンション」とか、「お札屋敷」とか、とにかく怖い事件や怪談の資料がみっちり詰まっています。
いずれも実際に目撃した人や取材した人が語った内容をまとめたものなので、言葉遣いや描写がとにかくリアル!
彼らの恐れや怯えがひしひしと伝わってきて、読み手まで一緒に怯えずにはいられなくなります。
また資料の合間合間には、「私」と小沢とが仕事上の打ち合わせとして、各事件の資料を考察する様子が描かれているのですが、これがまた怖い!
小沢は考察を進めながら、だんだんと真相に気付いていき、そしてある日「もう少しで全てが繋がりそうだ」と言い残し、現地に向かってしまうのです。
小沢は一体どんな真相に気付いたのか、一緒にいたはずの「私」はなぜ止めなかったのか、それはぜひ実際に読んでご確認ください。
本当に血の気が引くほど怖いので、くれぐれもお覚悟を……。
想像を絶する恐怖が詰まった袋とじ
『近畿地方のある場所について』は、ホラー作家・背筋さんのデビュー作で、もともとはWEB小説サイト「カクヨム」に投稿された作品です。
あまりの怖さにネット上で大反響となり、1400万PVを獲得したことから、晴れて書籍化されたのです。
本気で怖くて泣いてしまった人や、読んだことを心底後悔した人も数多くいるとか。
一応念を押しておきますが、この物語は実話ではなくモキュメンタリーです。
モキュメンタリーとは、ドキュメンタリーのように見せかけることで真実味を出したフィクション作品のこと。
本書は、雑誌記事やインタビューの形式なので、いかにも実話のように見えますが、れっきとした「作り話」なのです。
だから、どうか安心して読んでください。
最後まで読んだからって、呪われたり、巻き込まれたり、逃れられなくなったり、ずっとそばに立たれたりする心配は、ありません、…きっとないです、…多分。
また『近畿地方のある場所について』は、「カクヨム」でも読むことができますが、できれば書籍化されたものを読むことをおすすめします。
なぜなら書籍には、「袋とじ」がついているからです。
袋とじの部分は、文字通りページが袋状に閉じていて、開けることで初めて中を見ることができます。
書籍で読む人だけが味わえる、一種の特典ですね。
袋の中に何があるかというと、ネタバレになるので詳細は伏せますが、メインは画像です。
見た瞬間「ギャー!」と叫ばずにいられないほど、恐ろしくてたまらない画像です。
本編を読んでも平気だったという人でも、この画像には心をやられてしまうかもしれません。
それくらい怖いし、だからこそせっかく本書を読むのなら、ぜひ書籍を選びましょう。
こうしてここで『近畿地方のある場所について』について知ったのも、何かの縁かもしれませんから。
どうぞ秘められた扉の奥まで、存分に味わい尽くしてください。
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