闇の展覧会『霧』-後味最悪の映画『ミスト』の原作はキングの超傑作なんです

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私が愛してやまないスティーブン・キング原作の『ミスト』っていう映画があるんです。

簡単にいうと、とつぜん街が「霧」に覆われてとにかく大変なことになる、ってお話です。

有名な映画なので見た方も多いかと思います。

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確かに映画版もとっても面白いんです。

でも、映画だけを見ると『霧(ミスト)』=「後味が悪い作品」というイメージが強く根付いてしまうんですよ。

友人に『ミスト』って映画知ってる?と聞くと、だいたい「ああ、あの後味が最悪のやつでしょ」みたいに返答されるんです。

私は映画を否定するつもりは一切ありません。映画版もかなり好きです。

でも『霧(ミスト)=後味の悪い作品』と思われてしまうと「ちょっっとまっってえええええ!」と言いたくなってしまうんです。

まず、原作と映画のラストは全く違いますからね。この時点で、そもそも『霧(ミスト)=後味の悪い作品』ではないんです。

やっぱり映画の『ミスト』って「あのラスト」で有名じゃないですか。

じゃあ「あのラスト」なくして原作は何が面白いの?ってところなんですが、ズバリ「始まりから終わりまで」です。全部です。

 

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目次

闇の展覧会『霧』

この『闇の展覧会  霧』とは、選りすぐりの名作モダンホラーが収められたアンソロジーです。

キングの『霧』以外にも、デニス・エチスン『遅番』、リサ・タトル『石の育つ場所』、マンリイ・W・ウェルマン『昼、梟の鳴くところ』、デイヴィス・グラップ『三十六年の最高水位点』の四編が収められています。

もちろんこれらの作品も面白いのですが、やはり『霧』がずば抜けていますね。

『霧』は短編ではなく中編でして、この『闇の展覧会』の三分の二くらいを『霧』が占めており(129ページから388ページまで)、まさに『霧』を読むためだけでも購入する価値があるのです。

まずは簡単にあらすじを見てみましょう。

始まりは、静かに。

主人公・デイヴィッドたちが住んでいる街を、まず嵐が襲います。

嵐が去った後、デイヴィッドは湖で奇妙な「霧」を見ます。

どうも気に入らない。はっきり言って、あのような霧は、いままで見たことがなかった。ひとつには、その先端が驚くほど直線的だということだ。自然界にあれほどすっぱり裁ち切ったような線は存在しない。もうひとつは、濃淡も水蒸気のきらめきも見られない、目もくらむばかりの純白の色である。

P.172より

そのあと、デイヴィッドと息子のビリーはスーパーマーケットに向かいます。

で、そのスーパーマーケットにいる最中、あの「霧」がやってきてマーケット全体が包まれていく、という流れです。

 

もうこの時点で面白いんですよ。

まず「霧」そのものの異常さの表現がキングらしくて大好き。まだ霧が発生しただけなのに「何か大変なことが起きる」と予感させる怖さ。

霧の中に、何かがいる

そして霧に包まれたスーパーマーケットの中で、不安を感じながらも外に出ていく人たちがいます。

そのとき(私の知る限り、それを見たのは私一人だけだ)何かが男のむこうで動いたようだった。一面の白色の中に灰色の影が見えた。そして、チノクロスのズボンをはいた禿頭の男は、霧の中に走りこんだというより、不意をつかれたように両手を上下に動かしながら、霧の中に引っ張り込まれたように、私には見えた。

P.198より

これは霧の中から悲鳴が聞こえ、その様子を見に行った男性を描いたシーン。

「霧の中で何かが起きている」。この恐怖の煽り方が本当にお上手なんですわ。ゾクゾクが止まりません。

ここらへんからページをめくる手がどんどん加速していきます。

 

そして第一の見所です。

デイヴィッドたちがスーパーマーケットの搬入口のシャッターを開けようとする時。

一本の触手が、コンクリートの搬入口のプラットホーム越しに伸びてきて、ノームのふくらはぎに巻きついた。私は口をあんぐり開けた。オリーは喉の奥から出たような短い驚きの声を発した。触手は先端が細くなっていて、ノームの脚に巻きつているあたりは一フィートぐらいの、グラススネークほどの太さになり、それがしだいに太くなっていって、霧に隠れているあたりでは、おそらく四、五フィートはあろうかと思われた。上のほうはストレートのようなねずみ色なのだが、下にいくにしたがって肉色ににたピンクに変わっている。その下面に吸盤がびっしり並んでいた。

P.218より

デヴィットを含めた数人が、「霧の中の何か」を初めて自分たちの目で目撃するシーンです。

この場面の「緊張感」と「恐怖」の描写が凄まじいんです。わずか数ページほどのシーンなのですが、何十ページのように長く感じられ、気がつけば手汗がビショビショ。

もうここだけでキングの魅力が存分に表現されています。

今までの「霧の中で何かが起きている」という恐怖が、目の前でその「何か」に襲われることで「霧の中に何かがいて、襲われる」という恐怖に変わったわけです。

キング全部入り。

『霧(ミスト)』って、「キングの面白さ」というものが全て詰まっている、と言っても過言ではないんですよ。

①ある日とつぜん街が霧に包まれていき、主人公たちはスーパーマーケットに閉じ込められる。原因は不明。しかも霧の中には「何か」がいる、というB級ホラー映画好きなら誰もが喜ぶような舞台設定。

②突如、平穏な日常から悪夢のような現実に堕とされた人々の描き方。

③そして天才的なストーリー運びの巧さ。

加えてキングの作品は非常に長い物語のものが多い中、『霧』は250ページほどの中編なため凝縮度がハンパないんです。

ザ・スタンド(1) (文春文庫)』とか『IT〈1〉 (文春文庫)』なんて文庫にして4巻,5巻に及んでいるのにもかかわらず濃厚なのに、そんなキングの面白さをギュッとギュッと凝縮して、そこから絞り出たエキスのみで作られた作品が『霧』、みたいな。

ほとんど、カルピスの原液を直飲みするようなもです。逆に体に悪いです。

映画を見て「面白いなあ」と思った方は、ぜひ原作の方もお読みください。キングがどれだけ優れた作家さんなのか、改めてお判りいただけることでしょう。

まだ映画を見ていない方も、ぜひ先に原作を読み、そのあと映画を見てラストの違いにビックリしましょう。

 

実をいうと、『霧』を読みたいなら『スケルトン・クルー〈1〉骸骨乗組員 (扶桑社ミステリー)』というキングの短編集もおすすめなんですよ。

『闇の展覧会』と違って全部キングの短編なので本当はこちらの方をおすすめしたいんですが、コレなかなか手に入りにくいんですよねー。。

なので今回は『闇の展覧会』の方をおすすめさせていただいたってわけです。『霧』だけを読むなら全く問題なく楽しめますので。

ぜひご参考にしてくださいませ(*´ω`)ノ

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)

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