私立鯉ヶ窪学園高校に入学したばかりの主人公は、ちょっとしたきっかけで第二文芸部に迷い込んでしまいます。
そこにいたのは自称学園一の美少女、水崎アンナでした。
水崎は主人公に自身で執筆したミステリー小説を読ませます。
その小説の中で水崎は容姿、性格、頭脳すべてにおいて現実よりもすぐれて描かれており、部活動についても脚色がかなりされていました。
さらにミステリー小説としては粗が多く、主人公は次々に指摘しますが……。
文芸部長と『音楽室の殺人』、文芸部長と『狙われた送球部員』、文芸部長と『消えた制服女子の謎』、文芸部長と『砲丸投げの恐怖』、文芸部長と『エックス山のアリバイ』といった五つの物語が進む内に、主人公たちはさらに大掛かりな仕掛けにはまっていくのでした。
東川篤哉『君に読ませたいミステリがあるんだ』
舞台は『放課後はミステリーとともに』の鯉ケ窪学園。高校に入学したばかりの僕は「第二文芸部」の部室に迷いこんでしまう。学園一の美少女(自称)である部長・水崎アンナは、自作のミステリ短編集を強引に僕に読ませるのだが――。
桜舞い散る季節に起きた『音楽室の殺人』、ハンドボール部員が襲われる『狙われた送球部員』、女子更衣室が舞台の『消えた制服女子の謎』……アンナがたくらむ大仕掛けを、僕は、そして君は見抜けるか!?
テンポの良い展開、冴え渡るユーモア、そして想像を超える大トリックに、一気読み必至!
私立鯉ヶ窪学園高校は、東川篤哉氏の「放課後はミステリーとともに」などを始めとする鯉ヶ窪学園シリーズの舞台にもなっています。
今作はそのスピンオフ作品のような形をとっていますが、鯉ヶ窪学園シリーズを未読でも十分に楽しめます。
物語の連続した短編が5篇が収録されており、それぞれに小さなトリックからあっと驚くトリックまでが仕掛けられています。
すべてを通して読むと最後には大掛かりなトリックが隠されていたことに気づくという点もユニークです。
主人公と第二文芸部の水崎部長との掛け合いが面白く、微笑ましい気持ちになりながら読み進められます。
残酷な事件が起きるわけではありませんが、ミステリー小説ファンを飽きさせない工夫が随所に見られます。
隙があればすかさずに伏線が仕込まれてくるので、何気ない会話でも見落とさないようにしましょう。
ミステリー小説というよりは青春小説の要素も強く、若い方や登場人物と同年代の方でも楽しめそうな作品です。
緩やかに流れていく学生生活の中でちょっとした非日常を楽しめる第二文芸室が羨ましくなるような気持ちになれます。
終始ユーモラスな会話が繰り広げられ、水崎のキャラクターもどこか憎めず、アニメや漫画のキャラクターを見ているような緩さを楽しめます。
最初は嫌々小説を読んでいた主人公が、最終的にはかなり積極的になっていく様子もつい応援したくなることでしょう。
爽やかな小説やクスっと笑える小説が好きという方はぜひチェックしてみてください。
ユーモアミステリといえば東川篤哉!
作者の東川氏は、鯉ヶ窪学園探偵部シリーズの他にもさまざまなミステリー小説を発表しています。
架空の都市を舞台とした烏賊川市シリーズ、メディア化もされ話題となった謎解きはディナーのあとでシリーズ、その他魔法使いマリィシリーズ、平塚おんな探偵の事件簿シリーズ、探偵少女アリサの事件簿シリーズなどがあります。

すべてのシリーズにおいて若い世代や普段小説を読まない層にも読みやすいミステリー小説が多く、強烈なキャラクターやユーモラスな描写が特徴です。
それでいてミステリー部分が他の作家と比べて劣るというわけではなく、しっかりとしたプロットが練られているのが読んでいるとすぐにわかります。
本格的なトリックをユーモラスな作品に落とし込んでおり、一度ハマると抜け出せないファンが多いです。
重苦しい雰囲気のミステリー小説よりは、読後に爽やかな気分になれるミステリー小説を読みたいという方にもおすすめです。
今作も例に漏れず、ツッコミ担当の主人公とボケ担当の水崎部長の掛け合いが漫才やコントを見ているような印象を受けました。
連作ではありますが短編集なので、ちょっとした時間にさらりと読める点も魅力的です。
同じ鯉ヶ窪学園が舞台の探偵部シリーズも今作のような軽快なテンポのミステリー小説です。
第二文芸部のメンバーは登場しませんが、それでも時々物語のつながりを感じられます。
この作品が気に入ったら、こちらのシリーズもチェックしてみてください。
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