時間停止、鉄筋生成、猫化・・・、この国には唯一無二・解明不可能な超能力「匿技」を持つ者たちがいた。
そして君待秋ラ・19歳もまた、とある匿技の持ち主であった。
そんな匿技の持ち主たちを集める国家に属する組織「日本特別技能振興会」。
匿技を持つ君待秋ラも組織からスカウトされることとなる。
能力の使用をいやがる彼女であったが、成り行きで所属することになり、次第に国家レベルのとんでもない秘密を知ってしまう・・・。
そしてある日、匿技を持つ異能者の1人が亡くなった。
振興会に関わる発足時からの巨大な闇とは一体?
新たな事件、終わりなき戦いに巻き込まれていく君待秋ラの運命はいかに―?
「匿技」を駆使したバトル&ミステリ!
物語の舞台は日本にも似ていますが、違うのは「匿技」と呼ばれる能力を持つ人間がごく少数生まれてこの世に存在しているという点です。
この「匿技」を持つ者たちが「日本特別技能振興会」に集められ、さまざまなバトルに巻き込まれていきます。
それぞれが持つ能力が特殊でおもしろく、かつその個人が抱える問題や得意とすることが「匿技」となって表れているという点もユニークでした。
匿技を活かしてバトルをするだけでなく、その匿技とどう向き合うのか、自分が抱える問題をどう乗り越えていくのかという成長ストーリーも楽しめます。
小説でありながら少年漫画を読んでいるような熱い展開が待っているので、次々にページをめくってしまうことでしょう。
この「匿技」はただそこに当然あるものとして描かれているのではなく、科学的な側面から匿技を分析したり、匿技を持つ者を集める振興会についても掘り下げられていたりと、「もしかしたらこんな世界があるのかもしれない」と思わせてくれるようなリアリティーもあります。
現実にはあり得ない設定ではありつつも、これらの要素が丁寧に描かれているのでしっかり物語の登場人物に感情移入して読み進めることができるでしょう。
ユニークなキャラや設定が楽しめる
匿技を持つ者たちのバトルという設定だけでも十分に期待できる作品ですが、それぞれのキャラクターや設定がきちんと確立しているためさらに物語を深いものにしてくれています。
小説という視覚から情報を得にくい媒体でこのような能力もの、バトルものを描こうとするとどうしてもキャラクター設定をやりすぎてしまったり大げさすぎたりして、ライトノベルを読み慣れていない方は抵抗を感じてしまいます。
ですが今作「君待秋ラは透きとおる」に登場するキャラクターはどこにでもいそうな、いわゆる普通の人たちがメインです。
一見すると地味な印象ですが、一人一人の特徴や能力、性格についてきちんと書き込まれているのでわかりにくくなるようなこともありません。
ライトノベルの強烈なキャラクターが苦手という方でもすらすらと読み進めることができるでしょう。
普通の日常生活を送っている人たちが匿技を持ち、バトルをするとどうなるのか、という面から見ても楽しめます。
能力やバトルの内容はまだまだ広がりを見せそうな余韻を残しており、続編を期待する声も多いです。
主人公たちが今後どのような戦いに挑んでいくのかを想像しながら読み終えるのもいいでしょう。
今もっともひねくれた作家に注目
作者の詠坂雄二氏は「今もっともひねくれた作家」と評されたこともある作家です。
王道ミステリー小説やバトルアクション小説の形を取りながら一筋縄でいかない展開には多くのファンがおり、有名作家の中にも詠坂氏のファンを公言する方がたくさんいます。
今作「君待秋ラは透きとおる」は一見するとバトルアクションものですが、読み進める内にただのバトルものではないことに気づくでしょう。
詠坂氏はミステリー小説も多く手掛けており、ミステリー作家ならではの展開も組み込まれています。ただ能力で戦うだけではなく、頭を使って戦い抜いていく主人公たちの活躍にドキドキさせられること間違いなしです。
さらに能力者たちを集める振興会の謎についても終盤明らかになりますが、さらにそこから新事実が発覚するというどんでん返しも待っています。
詠坂氏の小説を読んだことがある方なら「さすが!」と思えることでしょう。
詠坂氏の小説を読んだことがない方にとっては新しい驚きを楽しめる作品でもありますので、ぜひこの機会に手に取ってみてください!
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