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『きまぐれな夜食カフェ』-マカン・マランシリーズは悩める人に突き刺さる最高のお料理小説です

待望のマカン・マランシリーズ第3弾、古内一絵さんの『きまぐれな夜食カフェ – マカン・マラン みたび』が発売しました。

美味しそうな料理が出てきて心が温まる系の小説は好きで、他にも結構読んでいますが、私の中では『東京すみっこごはん (光文社文庫)』(これもシリーズ化してます)とトップ争いをするくらい好きなシリーズ作品なわけですよ。

これはもう悩みを抱える全ての方に読んでみてほしいということで、簡単にご紹介させていただきます。

 

関連記事:『東京すみっこごはん』は食べ物小説の名作。元気をもらえて、心癒される連作短編集です

『きまぐれな夜食カフェ – マカン・マラン みたび』

悩みを抱えた人々が、隠れ家的存在のカフェやバーに行き着き、美味しいご飯を食べて、元気になっていく。

このパターンの小説はこれまでにたくさん読んできました。

マカン・ラマンシリーズもまさにそんなパターンの小説であるのですが、他の作品とは一味違う面白さがあると断言できます。

では何が違うのか、といろいろ思うところはあるのですが、まず「人の痛みの描き方がとてつもなく上手い」という点が挙げられます。

短い物語の中で、読者にとって全く初対面である登場人物にこれほど感情移入させる作品は滅多にありません。

各短編の序盤は、その物語の主人公が何を抱え悩んでいるのかが丁寧に綴られていきます。ツラい。とにかくツラい。

読んでいる身からすれば「あああ、早くこの人をマカン・マランに連れてってあげてえ!」となるわけですよ。

料理描写が特別丁寧に描かれているわけでなく、あくまで「人物」が中心のお話(もちろんお腹は減りますが)。

本当に、毎回涙しそうになるのです。それも良くある「お涙頂戴」的な感じではなく、優しさに包まれて自然と涙が出てしまう、というか。暖かいんです。

今回は第三話『風と火のスープカレー』で号泣。

最強の「ドラッグクイーン」登場。

そして今作最大の特徴であるのが、気まぐれカフェ「マカン・マラン」を営むシャールさんの魅力なのです。

なんていたってシャールさんは、身長180センチを超える女装した中年男なわけですよ!!(”ドラッグクイーン”と言う。”おかま”と言ってはいけない)

バンブーのチャームがカラコロと鳴り、重たい木の扉が押しあけられた。その瞬間、綾は呆気に取られて立ち尽くした。

クレヨンで描いたようなアイライン。鳥の羽のようなつけ睫毛。真っ赤に塗り込まれた唇。しかしその原形は、どう見てもいかつい中年の男だ。

鮮やかなショッキングピンクのボブウイッグをかぶり、深緑色のナイトドレスに身を包んだ長身の中年男が、孔雀の羽の扇を胸元で揺らしている。

P.58.59より

そんな衝撃的な風貌のシャールさんが、訪れた人を一目見て、その人の体の状態を見抜き、その人に合った料理を提供してくれるすごい方なんです。

しかもシャールさんが毎回名言を残していく。いや、名言というか、シャールさんに言われるとどの言葉も名言に聞こえてしまう、というか。

自分とこの物語の登場人物が抱える悩みや境遇は全然違うのに、シャールさんの言葉は読んでいる自分の心に突き刺さってしまうんですよ。

「すぐに食べる必要のない保存食づくりは、夜中の憂さ晴らしには最適よ。恨み、妬み、つらみ、そねみ、ひがみ……。全部、旬の野菜や果物と一緒に、お鍋でぐつぐつ煮込んだり、瓶に封じ込めたり、樽に漬け込んだり、砂糖漬けにしたりしてしまうの」

色鮮やかな瓶が、ずらりとカウンターに並べられる。

「青梅みたいに毒のあるものでも、漬け込むことで、ちゃんと食べられるようになるのよ。人の毒も同じことよ」

P.66 第一話『妬みの苺シロップ』より

 

「それにね、居場所なんて、どこかに無理やり見つけるものじゃないのよ。自分の足でしっかりと立っていれば、それが自ずとあなたの居場所になるの。要するに、あなたがどこに立ちたいかよ」

P.136 第二話『薮入りのジュンサイ冷や麦』より

 

「そりゃ、この世は複雑で冷たくて、思い通りにいかないことだらけよ。仮面が必要な時だってあるわ。でもね、どれだけ意に沿わないことをしなければならなかったとしても、自分の本心の隠し場所さえちゃんと分かっていれば、人は案外、自分の道を歩いていけるものよ」

P.197 第三話『風と火のスープカレー』より

 

手料理をめんどくさがって外食したりレトルトで済ましたりするのもすごくわかるし、私も実際そういうことが多いんだけど、やっぱり愛情のこもった料理を食べるっていうのは身体にも心にも良いんだよなあ、とつくづく思う。

食事をするというのは、「ただ身体に必要な栄養を補給する」というだけでなくて、心をも満たしてくれるんですよね。

手間も時間もかかるし、忙しい日々の中で料理に時間をとるのは大変なんですけど、それでも手間暇かけて作った暖かい料理を食べたくなる。

ああ、本当に行きたい。

シャールさんは自分にどんな料理を作ってくれるのだろうか。

 

そうそう、あとこのマカン・マランシリーズ、Amazonさんでのレビューも凄いんですよ。

周りの評価が低いけど自分的には最高に面白かった作品なんて山ほどあるし、評価が高くても自分にはハマらない作品もあるわけで、普段は「レビューとかあまり関係ないなあ」とは思ってはいるんですよ。

でも。

このマカン・ラマンシリーズ、この記事を描いている2017年11月22日の現時点で「星5」の評価しかないんですよね。

星5っていうのはAmazonさんでは最高の評価で、レビューをつけた皆さんが全員星5をつけているという作品は滅多にありません。

1作目『マカン・マラン – 二十三時の夜食カフェ』は9人中9人が星5評価、『女王さまの夜食カフェ – マカン・マラン ふたたび』は6人中6人が星5評価なわけですよ。

いやあ、凄い。そして嬉しかった。やっぱりこの作品はいろんな人の心に突き刺さるんだ、って思いました。

 

シリーズ第一弾からどうぞ

さて順番ですが、

やはり

1作目『マカン・マラン – 二十三時の夜食カフェ

2作目『女王さまの夜食カフェ – マカン・マラン ふたたび

3作目『きまぐれな夜食カフェ – マカン・マラン みたび (単行本)

の順番で読むのがベストです。

順番がバラバラでも面白いことはもちろんなのですが、それでも順番に読むほうが良いです。

その理由は聞くのは、野暮ってもんですぜ( ゚∀゚)

 

身体共に疲れている時、元気をもらいたい時、なんか自分病んでるなあ、と思うとき、マカン・ラマンシリーズを手にとってみてください。

シャールさんとその料理が、きっと癒しを与えてくれます。

直接マカン・ラマンに行けなくたって、シャールさんに励まされる人を見ていると、なぜか自分まで元気を貰えちゃうんですから。

「もし本当に、このお店の常連の誰かが運命を変えたのなら、それは私の料理とは関係ないわ。その人が、自分の頭や手や足で変えたのよ」

P.63『妬みの苺シロップ』より

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anpo39
年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)
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POSTED COMMENT

  1. Kiriyan より:

    こんばんわm(_ _)m

    3巻目が発売されてるんですねー\(^_^)/
    ぜひとも、かわねば!と、
    いつも買ってる電子書籍のところにいったら、
    まだ、なかった、、、( >Д<;)
    (子供を出産する入院中に電子書籍版で見つけたので、前2作品とも電子書籍でかってるんです。)販売されるまで、おとなしく待っていようかと思います★

    シャールさんの作るお料理と、素敵な名言の数々、
    いちどならずとも、通ってみたい!!
    お茶だけで済ませたくない、否、済ませれないです(笑)実際にあったのなら、頑張ってお店を見つけないとです。(方向音痴)

    anpo39さんは、電子書籍で買われることあります??
    私、断然、紙本派なんですが、置場所と、現在の環境で電子書籍もすこしずつ増えてきました。
    でも、やっぱり、紙の媒体が好きなので、
    いろいろ余裕ができたあかつきには、紙にもどそうかと★

    本屋さんや、図書館で、本を選んでるときって、幸せですよねー♪

    • anpo39 より:

      そうなんですよー待望の第3巻なんですよー!
      なるほど、電子書籍版まだなんですね。早く電子書籍化されることを願います(ノω`*)
      いやーほんと通いたいです。シャールさんにあって美味しい料理作ってもらって、優しい言葉をもらいたいです。私も絶対迷っちゃうと思いますけど 笑。
      電子書籍で買うことありますよー!でも、よほど緊急の時というか、できる限り紙で買ってますねえ。
      どうしても電子版は馴染めないというか、「紙でできた本」という物質そのものが好きなんだと思われます。あとページをめくる時の触り心地とか。新刊の匂いとか。
      確かに置く場所を考えると圧倒的に電子書籍が良いんですけどね。。
      ですよねー!本屋さんにいると楽しすぎて、本当に時間の流れを早く感じます。10分だけ寄るつもりだったのに気がつけば30分以上たってたりすることばかりです(´∀`*)

  2. 30os より:

    こんばんわ!いつも更新楽しみにしてます☆
    以前、お腹が空くおすすめ食べ物小説・エッセイ本25選で紹介された時から、マカンマランにはまってしまいました(^^)家族みんなで読み回しました!
    シャールさんの言葉って押し付けがましくなくて、このままでもいいんだって思わせてくれる優しいパワーに溢れてますよね。大好きな本です。
    今回は通勤電車で読んでしまい、危うく朝から泣いてる変な奴になるところでした。。笑
    これからも素敵な本をたくさん紹介してください!

  3. anpo39 より:

    30osさん!いつもありがとうございますー(*´∀`*)ノ
    おお!家族みんなで読み回し!ありがとうございますーありがとうございますー。著者さんでもないのになんだか私まで嬉しいです。
    やっぱりマカンマラン良いですよね。
    そうなんです!シャールさんの言葉って、優しいんだけど力強くて、でも押し付けがましさがなくて心にじんわり染みてくる、不思議な力があるんですよね。
    本当に、さりげない一言に泣かされそうになりますもん。通勤電車で読むのは危ないですね!笑
    私も絶対変な人に見られてしまう自身があります。
    ありがとうございます!どんどんご紹介しちゃいますよー!(゚∀゚*)

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