弁護士として活躍後、60歳で満を持してデビューを叶えた異色の作家、深木章子さんの新作「記憶の断章」。
この作品は、少女の持つとぎれとぎれの記憶を辿りながら、謎めいた二つの事件を解決していく展開……ですが、その中にも交錯あり、嘘あり、書くキャラクターの思惑あり、という、気の抜けない物語になっています。
穏やかな語り口で進む、ミステリーの答えを知った時、読み手の胸に何とも言えない感情が過るでしょう。
『記憶の断章』あらすじ
「記憶の断章」の物語は、誘拐の場面に次いで、葛木夕夏という少女が、友人の麻亜知(まあち)へ、推理作家を目指す兄である樹来(じゅらい)へ相談を持ち掛けるところから始まります。
子どもの頃に誘拐された過去を持つ夕夏は、その事件について学生になった今、再度警察から接触を受けることに……。
自分の誘拐が、別の誘拐事件と絡んでいるかもしれないこともあり、樹来に、そしてその祖父である元捜査一課で勤務していた元刑事へ話を聞いて貰いたいと言われ、過去を聞き出す形で進んでいきます。
タイトルにある、「記憶の断章」とは、夕夏の持つ断片的な記憶。
別の誘拐事件で亡くなってしまった子どもの写真を、警察に見せられた夕夏が樹来たちへ伝えた、
「もしかしたら、私、その子を殺したかもしれないんです」
引用(P70)
というトンデモ発言で、ストーリーの流れが一変。
その他にも、誘拐したのは叔父であったり、叔父夫婦が失踪していたり、夕夏の母が入水自殺していたりと、様々な要素が絡み合いながら、ラストへ向かって突き進んでいきます。
「記憶の断章」の見どころ
「記憶の断章」は夕夏の生まれや、家族構成、トラブルなど、彼女が置かれた状況へ想いを張り巡らせることで、より楽しめる物語です。
私の場合は、ミステリーの読み過ぎのせいか、途中で結末の予測がある程度立ちましたが、それでも決め手になる部分は見抜くことができませんでした。
ミステリー好きな読み手を飽きさせることなく、ラストへ誘う手腕はさすが、ですね。
口コミ評価でも、ラストが見えなかったという意見が多数となっていました。
深木作品の中でもライトな読み口ですので、ミステリーを読み慣れていない方も、さくっと読了できると思います。
堅い仕事を勤め上げた後、この軽さを70歳過ぎてから出せるのは凄いとしか言いようがないですね。
7月生まれの樹来と、3月生まれの麻亜知は、深木作品の「交換殺人はいかが?」にも、登場しているキャラクターです。
「交換殺人はいかが?」を既読の方は、当時は12歳だった樹来がたくましく成長している姿にも注目です。
「消えた断章」を読んだ感想
もし、自分に可愛い子どもがいて、その子が誘拐されたら……誘拐犯の出した条件に、どんな返事を行いますか?
おそらく、家中のお金をすべてかき集めて、時には借金をしてでも、子どもを救おうとするはずです。
しかし、夕夏の言葉に耳を傾けてみると、
「『分かったな』と念を押した相手に、父はひと言、『断る!』と返したそうなんです」
「『私には誘拐犯と取引をする気はない。どんな脅しをかけられようが、要求には応じない』」引用(P49~50)
と、一般的な父親像とはかけ離れた、父の姿が描かれているなど、こちらの予想を裏切る展開が続々と待っています。
「消えた断章」では、このような裏切り要素がたっぷり含まれています。
記憶に残る男児を夕夏が本当に殺してしまったのか。
そうでなければ、どのような理由でその映像が残っているのか。
ちらちら見え隠れする真相に、心地よく翻弄された作品でした。
「消えた断章」を読んだ総評

「消えた断章」は、惹き込み要素が、多数盛り込まれている作品です。
どこまでが伏線なのか、今考えている図式は正しいのか、修正に修正を重ねながら、ラストを迎えることになるでしょう。
全体的な印象としては、樹来、そして麻知亜がどこにでもいそうな学生のため、刺激は薄いかもしれません。その分、誰にでも訪れうるストーリーとして、物語へ入りやすい部分もあります。
年配の方には、幼すぎるように感じるかもしれませんが、是非童心に返って楽しんで貰いたいですね。
それぞれ違った性格の兄弟と祖父が、足りない部分を補い合いながら、推理をしていく姿が印象的でした。
その一方で、夕夏をとりまく環境は劣悪だと言わざるを得ません。不幸な家に生まれながらも、歪んだ家族愛が形成されていきます。
これらの家族像の違いも、「消えた断章」では興味をそそられるポイントですね。
「推理」×「家族」「青春」がミックスされた一冊。
樹来や麻知亜、祖父のキャラクターが良いので、今後何かの作品で、またこの家族が登場したら面白いなあ、とも思います。
既存作品とは少し路線が違いますので、深木ワールドが好き、という方は是非読んでおきたい「消えた断章」
表紙へ描かれた、静かに混ざり合う二色の液体のように、交わり合う物語の結末を見届けましょう。
まーたanpoさんはぼくの好きな作家さんを….. 卑怯ですねえ また買わなければいけないリストの行が増えてく(歓喜)
みきさんと言えば、ど定番ですが何度も何度も読んだ鬼畜の家 読了後の、お前かい!って衝撃 この新作も新しい驚きを味あわせてもらえるんでしょうか?
その登場人物の前作?から読んだ方が入り込めてよさそうですね! ちょっと調べてみます彡(^)(^)
ふふふ。
深木章子さんもいいですよねー!ぜひぜひ買っちゃってください!笑
いやー正直、鬼畜の家ほどの衝撃ではないかなーとは思うんですけど、面白い作品なことには間違いないです!(鬼畜の家は本当にすごかったですよねえ。。。)