風力発電施設の建設会社内で、夜警をしていた男性の遺体が発見された。
遺体は螺旋階段の下にあり、事故による転落死のように見えたが、蘇生を試そうとした形跡があった上、どうやら侵入者もいた様子。
さらに社長室のデスクには、なぜかハムスターの死骸が置いてあり―。
刑事オリヴァーとピアが捜査をすると、発電所の建設に、地元住民が反発していたことがわかった。
それが殺害の動機かと思いきや、今度は反対運動の関係者が遺体で発見された。
誰もが怪しく見える、容疑者だらけのミステリー。
オリヴァーとピアは、果たして真犯人に辿り着けるのか?
大人気シリーズの第五弾!
増え続ける嘘や謎
シリーズも五作目となると、謎も人間関係もどんどん深みを増していきますね。
もともと伏線も登場人物もてんこもりな本シリーズですが、今作『穢れた風』は輪をかけてすごい!
怪しげな人物が次から次へと登場し、それぞれ言っていることが一致しない部分が多く、どこかに嘘や隠し事があるのは明白。
うまく推理していくためには、必要に応じてメモを取り、情報を整理しながら読むことをおすすめします。
『穢れた風』は、そのくらい複雑で読み応えのある本格派ミステリーです。
ストーリー展開としては、まずは風力発電関連の会社内で、夜警をしていた男性の遺体と、ハムスターの死骸が発見されます。
遺体には蘇生術の痕跡があり、監視カメラに映っていた侵入者は社長という、なんともツッコミどころの多い事件。
「なぜハムスター?なぜ蘇生?なぜ社長が侵入?」
と、読者はもちろん、捜査に駆け付けた刑事ピアも混乱します。
調べてみると、どうやらこの会社、風力発電施設の建設反対派の地域住民と揉めているらしく、さらには建設予定地の買収問題も抱えていました。
土地の所有者は買収を拒否しているのに、その息子たちがお金欲しさに買収を熱望しているのです。
他にも気候研究所やペットショップなども絡んできて、事態はどんどんややこしく。
そのため捜査は難航するのですが、ピアが奮闘することで、中盤を過ぎると一気に道が開けてきます。
数々のピースが繋がり、全ての伏線が回収されていく様子は、実に鮮やか!
しかも犯人が全くの予想外の人物なので、ミスリードの見事さにも拍手喝采したくなります。
ドン底オリヴァーとピアの奮闘
「刑事オリヴァー&ピアシリーズ」と言えば、主人公二人のプライベートなサイドストーリーも見どころのひとつ。
今作『穢れた風』では、このパートがかなりボリュームアップしているので、好きな方にはより面白く読めると思います。
しかも順風満帆ではなく、波乱万丈な展開が続くため、目が離せません!
まずオリヴァーですが、前作『白雪姫には死んでもらう』で妻コージマの不貞により別居となり、今作では両親と同居しています。
ショックのあまりヘタレモードから抜け出せず、ろくに働かないので、ハッキリ言って捜査の足手まとい。
挙句、家族まで事件に巻き込まれてしまい、ちょっと可哀想なくらいです。
と思いきや、生来の女好きが高じて、あっさりと新たな恋をスタートさせます。
あろうことか、またもや事件の関係者と!
これはもはや、オリヴァーのお家芸というかお約束というか、まぁいつものことですね(笑)
一方ピアは、ドン底状態のオリヴァーに代わって陣頭指揮を執り、リーダー的な役割を果たします。
ピアはもともとデキる女性なのですが、今回はそれが際立っていて、膨大な嘘や謎をテキパキ処理していって、とにかくカッコイイ!
そんなピアにも悩みがないわけではなく、恋人クリストフとの関係に苦しむシーンもあるのですが、それでも負けずに懸命に事件を解決します。
思い悩んで立ちすくむオリヴァーと、悩みながらも前に進み続けるピア。
対照的ですが、どちらも人間臭いという意味では同じです。
刑事というと人間離れした強いメンタルを持っているイメージですが、この二人は極めて人間的で、なんだか身近な感じがします。
そこがこのシリーズの特徴であり、人気の理由なのでしょう。
興味深くて学びもある
「刑事オリヴァー&ピアシリーズ」も、本書『穢れた風』で、いよいよ五作目!
毎回色々なテーマで攻めてくる本シリーズですが、三作目の「ナチス」、四作目の「冤罪」に続き、今作では「風力発電」。
様々な社会問題に向き合っていることが分かりますし、作者のネレ・ノイハウスさんの博識っぷりには頭が下がります。
読み手にとって毎回学びがあり、飽きさせないところも流石!
今回の学びは、なんと言ってもドイツの環境問題における意識の高さでしょう。
日本では、環境への取り組みというと良いイメージがあり、特に風力発電は、再生可能なクリーンエネルギーということで期待されています。
ところがドイツでは賛否両論のようで、少なくとも本書では、設備建設における過激な反対運動が起こっていました。
これはつまり、民衆がクリーンエネルギーの良い部分だけでなく問題点をも理解した上で、積極的に関わろうとしている証です。
反対運動が良いか悪いかはさておき(本書ではそれを隠れ蓑とした陰謀があるので)、日本ではなかなか見られない民衆の熱意には、興味深いものがあります。
このように、ミステリーを楽しむだけでなく、社会やお国柄について考えるきっかけをくれる本シリーズ。
次回作では、どのようなテーマやジャンルで我々の関心を引きつけてくれるのか、楽しみですね!
そして、オリヴァーは果たしてドン底から這い上がることができるのか、ピアとクリストフの仲はどうなるのか?
もちろんミステリーとしての魅力も、一層高まるはずです。
気になる部分や楽しみな部分が多く、ますます目が離せなくなりそうです!




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