古生物が大好きで、ヒマさえあれば化石のクリーニングをしている化石少女・神舞(かんぶ)まりあは、焦っていた。
まりあが部長を務める古生物部に、新入部員が一人も来ないのだ。
新入部員どころか、部員そのものがたった2名しかおらず、まりあと、お目付け役の彰だけ。
このままでは、まりあが卒業した後に、古生物部は廃部になってしまうかもしれない。
「単弓類のようにしぶとく生き残るには、新人を勧誘するしかない!」
そう考えたまりあは、目星をつけた生徒の確保に走る。
ところがそんな時、理科室で新入生の女子が殺されてしまい――。
化石オタクのお嬢様探偵が織り成す型破りな事件簿、9年ぶりに続編登場!
もう一人の探偵役と推理合戦
『化石少女と七つの冒険』は、「化石少女シリーズ」の第二作目です。
「化石少女シリーズ」は、京都の名門高校に通っているお嬢様・神舞まりあと、その従僕である彰が、校内で次々に起こる事件を解決していくミステリーです。
まりあはちょっとお嬢様らしくないというか、大の化石マニアであり、喋ることは古生物のことばかり。
成績は低く赤点の常連ですが、ひとたび事件が起こると正義感を燃やし、探偵として奮闘します。
でも推理はハチャメチャで、誰にも相手にしてもらえないという……(苦笑)
一方常識人の彰は、お目付け役としてまりあに振り回されつつ、事件解決のためのフォローをします。
この二人のドタバタっぷりが、「化石少女シリーズ」の魅力です。
今作もやはり、まりあは破天荒で、彰は苦労人(笑)
でも前作と決定的に違う点があり、それは探偵役がもう一人登場するところ。
小柄な一年生で、色白美少年(!)の高萩です。
警察に顔が利くらしく、まりあと競うように独自の推理を展開してくれます。
前作同様に連作短編集となっていて、全部で7編。
ますますドタバタっぷりに磨きがかかって、ますます楽しく読ませてくれます。
各話のあらすじと見どころ
『古生物部、差し押さえる』
密室状態の理科室で女子生徒が殺され、まりあが推理します。
第一章ということで軽めのジャブ的な物語かと思いきや、いきなりの大パンチが来ます。
まさかアレが手掛かりになるとは……!
また、さりげなく前作のネタバレがあるところもポイント。
初めてこのシリーズを読む方にも、読んだけどうろ覚えという方にも嬉しいサービスです。
『彷徨える電人Q』
古生物部に、美少年探偵・高萩が入部します。
さっそく3人で語り合っていたところ、殺人事件が発生し――。
高萩が語る七不思議の「電人Q」が面白いです。
また犯人の逃走経路も凝っていて、ミステリーとしての面白味も十分!
『遅れた火刑』
出だしからぶっ飛んでいて、なんとまりあが新種の恐竜を発見します(笑)
この功績で大学への指定校推薦がほぼ決まり、赤点女王のまりあは大万歳!
ところがまたまた血なまぐさい事件が発生し、書道の先生が頭を文鎮で殴られた上、灯油で焼かれてしまいます。
事件もですが、どちらかというとまりあの恐竜発見と進路が見どころです(笑)
『化石女』
いつものように殺人事件が起こりますが、今回の事件は少し違った展開になります。
刺殺された被害者が、自分の血液で「化石女」というダイイングメッセージを残したことから、まりあが犯人として疑われてしまうのです。
見どころはメッセージの真相。
まさか、そんな意味が隠されていたとは……!
『乃公出でずんば』
今回は彰が災難に見舞われます。
まず制服が誰かに盗まれてしまい、その制服を着た女子(!)が、あろうことかクラブ棟の屋上で死体となって発見されるのです。
彰の制服、いろんな意味でニーズがありそうですね(笑)
ミステリーとしては、随所に伏線があり、最終的にひとつの意外な真相に結び付くところが小気味いいです。
『三角心中』
学園の裏の大木で、男子生徒が首を吊って死んでいるところが発見されます。
その両脇には女子生徒2名の死体があり、3人は赤い糸で結ばれていました。
まるで心中のように見えましたが――。
ついに一度に3名もの遺体が出てしまったこの学園。管理体制は一体どうなっているのでしょう?
というツッコミはさておき、知ら雪の降り積もる男女の死体という絵的なインパクトといい、事件の悲劇性といい、まりあの活躍っぷりといい、完成度の高い作品です。
『禁じられた遊び』
三学期になり、彰と高萩は新入生歓迎イベントのため生徒会と打ち合わせをすることになりました。
ところが、生徒会の役員が体育館の裏で殺されてしまい――。
全7編の集大成とも言うべき作品です。
いつも以上のパワーで読み手を大きく振り回したかと思うと、最後には意外なくらいきれいなオチがついて、心地よい余韻を残してくれます。
まりあの卒業と進路は?
シリーズ二作目ということで、まりあ&彰の関係性の魅力はそのままに、新キャラの高萩が参入して、より複雑で読み応えのある作品になったと思います。
また、第一章は一学期、第四章は二学期、第七章は三学期と、全7編を通して約一年が経過しているところもポイントです。
冒頭で三年生に進級したばかりのまりあも、章を追うごとに卒業が近付き、自分の進路や古生物部のその後について、彼女なりに頭を悩ませます。
当然焦りや不安があり、新しい門出に向けての希望やワクワク感もあり、そういったものが本書『化石少女と七つの冒険』の大きな見どころとなっています。
読者としては、「あのまりあが、いよいよ大学生か」と感慨深く思ったり、「まりあがいなくなった後、彰や高萩はどうするのかな」と妄想を膨らませたり、楽しみながら読めますよ。
そして最終的に、どのようなオチがつくのか。
これはもう、ぜひご自身で全7編を順に読んで、辿り着いてほしいです。
「やっぱり化石少女は化石少女だな」と思えるエンディングであることだけ、お伝えしておきます!
コメント