物語の舞台は今より100年以上前のインド。
当時のインドはイギリスに統治されており、主人公のサム・ウィンダム警部はそんなイギリスからインドにやってきたばかりの警部です。
インドではイギリス人が大きな顔をして闊歩しており、現地のインド人は差別的な扱いを受けていました。
そんな時代背景の中、ある殺人事件が起こります。
その被害者はタキシード姿のイギリス人男性でした。
あってはならないことと勇み立つウィンダムは、インド人の警察官であるバネルジーと共に事件の調査に向かいます。
そして二人は長年酷い扱いを受け続けてきたインドの人々の反乱や暗躍を続ける諜報機関の影に辿り着きます。
たった一つの殺人事件が当時の政治にまで影響を及ぼし、さらにウィンダムたちの成長や絆も描く歴史ミステリー小説です。
歴史ミステリーの新たな扉を開く話題作
その国の歴史を元にし、実在の人物や実際のできごとをさまざまな視点で描く歴史小説はたくさんあります。
日本でも時代劇の原作となる小説も多く、読んだことがある方、歴史小説が原作のドラマや映画を見たことがあるという方も多いのではないでしょうか。
海外にも同様に歴史を学びながら楽しめる歴史小説があり、今作はそんな歴史小説にも分類される一冊です。
ですがミステリー要素が強く、そして舞台がインドということもあり、これまでに歴史小説やミステリー小説をたくさん読んできた方でも新しい楽しさを発見できるのではないでしょうか。
もちろん、普段ミステリー小説を読まない方、歴史小説を読まない方、インドの歴史について詳しくない方にもわかりやすく描かれているので安心です。
インドというと華やかな建造物や民族衣装、スパイスをふんだんに使った料理などをイメージする方も多いかもしれません。
ですが今作では今から100年以上前の、イギリス領だったころのインドを描いています。
現地に住む人々は実際にはどんな扱いを受けていたのか、その中で何を思い、願っていたのかという、旅行や映画鑑賞だけでは見えてこないインドの歴史を垣間見ることができます。
人種を越えた友情にも注目
主人公のウィンダム警部は、イギリスのスコットランドヤードを卒業しエリート警部として活躍していました。
ですが戦争で身も心もボロボロになり、愛していた妻を失い、アヘンやモルヒネに溺れる日々でした。
そんな彼を見かねた上官が、気分転換になるのではないかと今回のインド赴任を言い渡したのがことの発端です。
インドに到着し右も左もわからないウィンダムは、現地で先に活躍している同僚や現地の住民からもバカにされてしまいます。
そんな中ウィンダムの前に現れたのが、新米刑事のバネルジーでした。
バネルジーはインド出身の青年ではあるものの非常に成績優秀で、イギリスへの留学経験や有名大学を卒業した学歴を持っています。
そして、身に着けた知識をインドの未来のために活かそうと日々懸命に仕事をこなしていました。
裕福な家庭で育ち学歴もあるもののインド人だからという理由だけでイギリス人に差別されることに対して苦しむ様子もきちんと描かれています。
そんなバネルジーとウィンダムは、イギリス人が殺害された事件をきっかけにコンビを組むことになるのですが、そこがまた面白い。
イギリス人とインド人、支配する立場とされる立場、ベテラン警部と新人刑事、さまざまな面で対照的な彼らが、事件を通してどのように障害を乗り越えていくのかも見どころの一つです。
インドを舞台にしたシリーズに続編も登場
作者のアビール・ムカジー氏はインド系の2世としてロンドンで生まれました。
会計士として働く傍ら、自分自身のアイデンティティを確立するためには、インドの歴史を知らなければならないと感じたのが今作を執筆するにいたったきっかけと語っています。
ダメ元で賞に応募した今作が選考に残り、さらに加筆修正したものが2017年に出版されました。
今作でデビューとなったアビール・ムカジー氏ですが、デビュー作とは思えないほど読み応えのある作品です。
インドの当時の様子についても描きつつ、事件やその背後で暗躍する団体なども絡め、これまでの歴史小説やミステリー小説にはなかった新しいジャンルを切り開きました。
二作目、三作目と順調に執筆活動を続けており、「カルカッタの殺人」に次ぐシリーズ二作目は日本語訳もされています。
今作が気に入ったらぜひ最新作が日本語訳されることを楽しみにしつつ、次回作である「マハラジャの葬列」もチェックしてみてください!
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