読み解き方も楽しみ方も6パターンあり、全て新作、または2020年以降の作品となっている、贅沢な内容の本作。
無敵の布陣がつむぎ出す濃厚な六編の罠にこれ1冊で入り込むことができるというのが一つの魅力となっています。
作品は以下の通り。
【収録作品】
・乾くるみ『夫の余命』
余命わずかと知りながら、愛を誓ったふたりは……本能に刺さる見事なトリックを扱った物語。
・米澤穂信『崖の下』
スキー場で遭難した4人。1人が他殺体で見つかり…過去が招く破綻に驚愕すること間違いなしのイヤミス物語。
・芦沢央『投了図』
地元でタイトル戦が開かれる。将棋ファンの夫は…コロナ禍のやり場のない気持ちを可視化する感動作。
・大山誠一郎『孤独な容疑者』
23年前、私はある男を殺したのだ…人間の「執着」の恐ろしさにゾクリとさせられるどんでん返しミステリー。
・有栖川有栖『推理研VSパズル研』
“学生アリスシリーズ”待望の新作!論理パズルが会話形式で進むので臨場感が楽しめる。
・辻村深月『2020年のロマンス詐欺』
大学生になったけれど、コロナ禍で…日常の歯車が狂い出す現代を象徴する物語。
全ての作品を読み終えた瞬間、豪華すぎる布陣によるアンソロジーの醍醐味にあなたも酔いしれることになるでしょう。
辻村深月『2020年のロマンス詐欺』【読み進めるにつれて現代の渦に呑み込まれていく読者自身】
コロナ禍の今を切り取り、抱えざる得ない心の苦しみを緻密に描いた本作。
読み進めるにつれ「もしかしたら、一歩間違っていたら自分もそうなっていたのかもしれない」と思わせるリアリティ溢れる内容に惹き込まれます。
コロナ禍での生活の中で起こる事件、金銭面での不安、いつの間にか詐欺の当事者になってしまった事に対する焦りや不安など色々な要素が詰まっており、どう物語が着地に至るのか最後まで読者はハラハラさせられるというわけです。
心理描写がとても緻密であり、読み進めると物語の渦に巻き込まれるがごとく、話に振り回されるような面白さを感じられます。
物語に登場する主人公と「美味しい話」を紹介する友人の異なる事実の受け止め方や認識のズレ、明らかにされる事実など次々と出てくる場面に翻弄されるのです。
今の世相をうまく反映している描写に世の中が一変してしまったのがヒリヒリと伝わる内容ですが、終盤は晴れやかな気持ちになり、読了感が素晴らしく、トリに相応しく読み応えのある作品となっています。
有栖川有栖『推理研VSパズル研』【謎解きミステリー独特の雰囲気】
人気クローズド・サークル推理小説「学生アリスシリーズ」の短編となる本作。
巧妙な本格推理小説としてだけでなく、若者たちの将来への不安や歯痒い恋愛模様を描いた青春ミステリー小説としても人気のシリーズとなっており、こちらに収録されている短編はシリーズ初見でも十分に楽しめる内容となっています。
コロナ禍を扱った作品も多い中、こちらはベルリンの壁崩壊の年が舞台となっており、推理小説特有の謎を解体するのではなく謎からロマンを構築するという妙技が本書の印象を決定づける
大きなカギの一つ。
論理パズルが題材となっていますが、パズルがミステリーに変わる瞬間のワクワク感や、そこに論理的な解釈をつけパズルを解くだけでは終わらないという斬新なスタイルに驚くことでしょう。
パズルから謎解きミステリーを生み出していくという少し変わったお話ですが、推理研の提案や話し合いを机上で議論して組み上げていく描写が「こんな風に考えていけたら面白そうだな」とワクワクさせられます。
こういった知的遊戯の雰囲気をミステリーと同時に味わえる、一風変わった“謎解きミステリー”としての魅力が、本書には詰まっているといえます。
ミステリーアンソロジーの決定版!
全てがタイトルロールになりそうな完成度の豪華作家陣が集結している本作。
すでにミステリーアンソロジーの傑作として絶大な評価を得ており、時代性や作者の色が濃く出ているお話ばかりなので、ミステリーに興味がある方にとってはもはや必読の小説と言っても過言では無いでしょう。
短編集は物足りなさを感じることも多いのでアンソロジーはあまり読んでこなかった、という方は読むのに躊躇するかもしれませんが、それはちょっともったいない!
むしろこの本を読むことによって、ミステリーアンソロジーの面白さに目覚めることができるかもしれません。
各作家の特徴や個性が際立つ作品集となる本作は、類似の物語がなく、どれも騙される・または唸れる傑作揃いとなっており惹き込まれます。
ミステリー好きの方、ミステリーデビューを果たしたい方、ただただ読み応えのあるミステリーを読みたい方など、ミステリーや読書が好きな方は読んで損はないです!
好きな作家を指名買いしている方も、新たなお気に入り作家を探す方も納得の一冊となる本作。
出版されたこのタイミングで、ぜひ一読してみてください!
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