芦沢央さんによる、将棋をベースとしたミステリ短編集です。
奨励会。
それは日本将棋連盟のプロ棋士養成機関。
26歳までに将棋のプロになる事ができなければ、強制的に退会。
望んで退会する者は誰一人いない。誰しも、退会しない為にも、日々苛烈な競争が繰り広げられる。
そこには叱咤のみが存在していて将棋の棋士を目指す場。
その厳しさはどの業界においても指折りです。
何とかプロになりたいと思っている岩城啓一は、三段リーグ戦前夜、対戦相手からある「戦略」を持ちかけられる「神の悪手」。
他4作品収録されております。
被災地の避難所の才気溢れる子ども「弱い者」、詰め将棋と新興宗教団体「ミイラ」、盤上に絡まっている糸を見る棋士とAI、師弟対決の棋将戦の駒師「恩返し」。
手に汗を握る攻防、そして白熱する頭脳決戦。
様々な葛藤を驚きの発想でちりばめられているミステリー短編集でありながら、描かれているのは心溢れる弱者でありながら強者の姿です。
将棋に携わった人しか分からない景色
私は、生まれてこの方将棋をほとんどやった事がありません。
正直申し上げまして、将棋のルールや概念等、ほとんど分からなかったのですが、将棋を知らない人間でも読み応えある作品であったと心底思えます。
将棋で1つ駒を動かす事を一手と言いますが、一手に至るあの小さな盤上で繰り広げられる頭脳戦、メンタル戦、そのような人生=将棋に関わっている命を落とすかのような情熱や気迫を感じました。
昨今、コロナ禍でどの業界も厳しく大変な時期であると思いますが、芹沢さんの文章から伝わってくる気迫や熱量は今までにないくらいのもので、将棋をやった事のない私にとっても物語にのめり込んでしまうくらい面白かったです。
昨今のコロナ禍だからこそ、人生・仕事において分かる部分も
故に厳しい世界だからこそ、通常通りこなしている常人でなく、異常な人いわば常人とは異なって、狂いきっている人が勝ち残るように思いました。
それはプロの棋士になりたいがための話ではなく、コロナ禍のような通常ありえない状態においても人間が勝ち残っていく為には日々自身と戦って、切磋琢磨していかなくてはならないということでしょう。
しかしながら、我々が見ている将棋は勝ち負けであってあくまでも断片的かつ、将棋の表面的な事だけであると思います。
勝負事である以上、どちらかが勝って負けるというのはあります。
引き分けは存在しない。一手間違ってしまうと、その手前やその一手で勝負を決してしまう戦略的な世界である。
故にメンタルだけでなく勝負を見通す俯瞰が大切であると改めて再認識させられました。
そのような思いがギュッとつまった作品であります。
ミステリー+将棋を楽しむなら迷わずこの一冊
芦沢央さんといえば、ミステリやホラーなど多彩な作品を書くことで有名なお方。
芦沢央さんの作品を読んだことがないという方は、ぜひ「神の悪手」を読んで、他の作品も読んでみてください。
自身の知らない世界を知る事が出来ると、現実世界に置き換えるとホラー(怖さ)を感じることがあります。
誰しも日々人生で戦っていて、誰よりも成功したいと願っている事と思います。
将棋で生きて行こうと決めた人たちに災難やトラブルに襲われながらも、前進して行こうともがきながらも頑張って行く姿にとても共感を覚えました。
それが5つのつながった作品ではなく、まったく関連性のない独立した作品(短編集)になっており思いもよらない方向性や思い、そして真実等があったりします。
それを解き明かしながら想像して読むのもありではないかと思います。
また、先ほどでも述べましたが、将棋が身近なものに感じ親近感が沸いてくるでしょう。
それは表面的で断片的な事であると思いますが、もっとそこに至る過程や棋士たちの一手に掛ける思いや気迫を感じる事が出来る作品であります。
ぜひこの機会に、芦沢央さんの作品を読んでいただければ嬉しいです。

コメント
コメント一覧 (4件)
気になっていたので、刊行されてからこの速さでanpo39さんのレビューが読めてとても嬉しいです!大いに参考にさせていただきます!
お聞きしたいことがあるのですが、anpo39さんはおすすめ小説○○選といった記事も書かれていらっしゃいますが、選ばれた作品も、随時追加や削除をなさっているのでしょうか?
もしなさっていないということでしたら、ぜひ「【名作選】’’叙述トリック’’が凄いおすすめミステリ小説50選」のその2、を期待させていただきたいなあ…などと勝手ながら思っております。
やんもさんこんばんは!
参考にしていただけてとても嬉しいです。
はい、おすすめ小説○○選という記事も新たに作品を追加したりしています。
【名作選】’’叙述トリック’’が凄いおすすめミステリ小説50選も追加したいのですが、ここ最近面白い叙述トリックの作品になかなか出会えておらず、なかなかストックがたまらないのです。
もちろんある程度たまったら追加いたしますので、しばしお待ちいただければと思います。
申し訳ございませんが、よろしくお願いいたします。
お返事ありがとうございます!
常に追加がなされているのですね。今後は逐一確認させていただこうと思います。
そもそも叙述トリックものが多くない中で、さらにおすすめを探すのは難しいですよね。考えが及ばず、申し訳ありませんでした。
これからも記事を楽しませていただきます!
そうなんです、私も叙述トリックものが好きなので積極的に探しているのですがなかなか出会いがなくて……(;_;)
ありがとうございます!これからもよろしくお願いいたします!