『噛みあわない会話と、ある過去について』-胸の底がゾクリとざわつく、鏡の裏表ですれ違うたった一つの思い出話

可愛い表紙に騙される、そういうのは今まで何度かあったんですが、今回はかなり大幅に騙されました。

いや、ほんとに。

で、本作は4編の短編からなる短編集。

そんな事実も手伝って、なんだか表紙可愛いし短編集だから気軽にお昼の読書にでも……なんて思ってると大けがしちゃう、そんな一冊でした。

でも後悔はしてない、大満足の辻村深月ワールドです。

 

目次

1.『ナベちゃんのヨメ』

主人公ナベちゃんの結婚にまつわるお話。

大学時代コーラス部で女子と仲良くつるんでいたナベちゃん、そんなナベちゃんが結婚するという。

しかし、コーラス部の仲間たちに紹介されたナベちゃんの婚約者「ナベちゃんのヨメ」はどこか風変わりなズレた女性だった。

しかも、そんなおかしな婚約者からコーラス部の面々は困惑するような頼みごとをされてしまって……。

感想

全体の中の個人というものを強く考えさせられる話でした、そして女子の残酷さも。

人としては受け入れていたけど、男として無視をし続けてきたコーラス部の面々。

そんなナベちゃんを男として大事にする人があらわれた時の彼女たちの姿には、悲しいくらい人間の浅ましさが見え隠れしていて、まさにかみ合わない過去の痛みを感じましたね。

誰かが大きく不幸になるわけではないのに、心のどこかで眉をひそめる自分を感じる、そんなお話でした。

2.『パッとしない子』

小学校教員の美穂にとって、国民的アイドルグループの一員である高輪佑は「パッとしない子」だった。

これといって印象もなく、覚えているのは運動会の入場門の作成で、ただ地味でおとなしい子のはずだった。

しかし、TV番組の企画で彼が美穂の働いている小学校へ訪れることで話はがらっと色合いを変える。

地味な生徒だった佑は美穂に対して、突然「僕はあなたみたいな教師が大嫌いです」と告げたのだった。

感想

きっとこれは、読んだ人の学生時代で大きく印象が変わるんだろうな、って思いましたね。

たぶん、美穂の様な教師とともに佑のような学生時代を過ごした人は、佑の言葉に痛快さを覚え、美穂の言い訳の様な後悔に言い訳じみた不快感をおぼえるんだろうな、って。

でも、そうじゃない人はきっとこう思う「教師ってそんなに完璧じゃないといけないの?」と。

そう、この作品は読み手にさえ“噛み合わない過去”を感じさせてしまうんですよね。

3.『ママ・はは』

今日学校教員の同僚、スミちゃんの昔話を聞いている主人公。

保護者会で出会った真面目過ぎてずれている保護者の話から、話はだんだんとスミちゃんの母親の話に代わっていって……。

そして、見えてくる、重大な、違和感。

そくそくと忍び寄るように感じられる不快な違和感、母親を通して見えてくるスミちゃんの過去。

感想

これ、はっきり言って一番怖かったです。

過去の話が進んでいくごとに、スミちゃんの中でずれていく「ママとはは」の姿、そして、その中から見えていくスミちゃんの狂気。

記憶の中で、完全に殺されてしまった母親と新しく作られた存在の母親。

スミちゃんの狂気もそうだけど、何より怖いのは、記憶を自由に改変できる私たちにも、もしかしたらスミちゃんの狂気が存在しているかもしれないという事実。

ほんと、こわかったですね、これ。

4.『早穂とゆかり』

地元雑誌のライターをしている早穂。

そんな早穂はある日、教育者として有名になった同級生ゆかりの取材のために、再会を果たしことになる。

小学生のころ、地味で目立たないタイプだったゆかりの成功になんとなく実感が持てないでいた早穂、そして、久しぶりに会って言葉を交わした二人。

そこに待っていたのは、早穂の知らなかった思い出のもう一つの顔。

そして、ゆかりの復讐だった。

感想

うーん、なんかこう、いやーな気分になるのに魅力を感じるお話でした。

お話自体は、ストレートに言うといじめの話で、そんな気もなくいじめていた早穂とそのことをしっかりと根に持っていたゆかりの話なんですよね。

そして、そこで起こる復讐劇。

いじめられていた人間の復讐劇なのに、少しも爽快じゃなくて、もうなんだろ、ただただ悲しくて不快で、たくさんのことを考えさせられるお話でした。

ブラック辻村、降臨。

噛み合わない過去、本当はそこに物語の面白さを感じるべきなんだろうけど。

なんだかただ、人間というものの弱さと悲しさ、そして、取り返しのつかない過去に振り回され傷ついていく人間のどうにもならないジレンマのようなものを感じて……疲れました。

ただ、小説としてとっても面白いですよ!それは間違いなし!超おすすめ!

夜の予定がなにもない日の夕方に「よし読むぞ!」って気持ちで読んでくださいね。

そうじゃないと、けっこう考えさせられてひきずっちゃいますから、これ。

 

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)

コメント

コメント一覧 (7件)

  • もう新作!読む方が追いつかないんですが…..(歓喜)

    まだ先日出た青空と逃げるも未読のままで….. 読まなければならない一冊が多すぎて…..まあそれもこれもanpoさんのせいでもあるんですけどねw(褒めてる)

    今年のトレンドなんでしょうか?短編集は 例えば下村さん然り短編集のスーパーヒット多いですよね

    ところで一つお願いというか要望が

    最近あまりなかったと思いますので、おススメの本格を一冊記事にしてもらえたらなあ….とw

    それなりに有名どころはまあ読み漁ってしまってるので、隠れた一冊に出会いたいです リクエストと言う形はダメですか?w

    • 新作早いですよねー笑
      嬉しいですけども。

      確かに今年は短編集が激アツですよね。多くの名作が誕生しておりますなあ。

      おすすめの本格!!

      そうなんですよね、自分も本格を記事にしたいと思っているんですけど、最近なかなか良い本格出会えないんですよ涙

      有名どころはもう記事にしてしまっていますし、慌てています笑
      でも出会ったらすぐ記事にしますからね!少々お待ちいただければと思います!
      リクエスト・要望は大歓迎ですので!

  • ブラック辻村楽しみにしてました。
    で、今日買って来ました!
    ヤバい!楽しみー!!
    これから読むのが楽しみー!

    読んだらまた来ちゃいます(笑)

    • いやー出ちゃいましたねー!
      ブラック辻村出ちゃいましたねー!

      ふふふ。ぜひ楽しんできてください(´∀`*)

  • 来ちゃいました❗
    女の泥。

    私は、新任教師にあたることもあって、パッとしない子が一番インパクトありました。

    しかし、女はこわい。。
    ナベちゃんの嫁こわい。

    • ええ!そうなんですね!パッとしない子はイヤでしたもんねえ。。。

      ナベちゃんの嫁にしかし、女は怖い。

      しかも辻村さんの描写の上手さのおかげで余計にネチネチした感じになって、とにかくイヤな気分になりますよね。

      辻村さんはブラックな方もお上手なんですねえ。

      • ほんと、臨場感ありすぎて、具合悪くなりましたもん(笑)

        辻村さんのうまさなんですよね、ほんとに。
        人間描写うますぎるばかりに(笑)

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