『怪盗不思議紳士』は、私世代には懐かしい「かまいたちの夜」のシナリオを手掛けたことでも有名な我孫子武丸さんの新刊。
レトロな雰囲気あふれる装丁に、つい表紙買いしてしまった方もいるのではないでしょうか?
金持ちからしか盗まない「怪盗不思議紳士」と、探偵、そして助手がどう絡んでいくのか、結末まで目が離せない展開になっております!
『怪盗不思議紳士』あらすじ
「怪盗不思議紳士」は、戦後の日本を舞台に物語が展開していきます。
震災孤児である瑞樹は、とあるきっかけで「怪盗不思議紳士」とやり合う誰もが知る探偵「九条響太郎」と出会い、助手として働くことになります。
その矢先、「九条響太郎」が乗り込んだ車がなんと爆発、葬儀が執り行われるという、まさかの主人公不在状態に……。
しかし、彼の助手となった瑞樹は、
「先生が、先生が戻るまで、この事務所は!ぼくが守る!」
引用(P56)
と、その事実を認めず、
「先生が死ぬわけないじゃないか~中略~あれはきっと、不思議紳士を油断させるために、死んだふりをしたんだ」
引用(P56)
と推理します。助手である自分をも騙し、どこかで響太郎が生きているはず。
そう信じ、「九条響太郎」が瑞樹のために残した財産を資金にあて、探偵事務所を運営していくことになるのです。
とはいえ、言葉を読むのがやっと、という孤児である瑞樹が、一人で依頼をこなせるはずがありません。
そこで登場したのが、「九条響太郎」自身が、事件を解決する際などに雇っていた、彼とうり二つの風貌をした「山田大作」という俳優です。
「九条響太郎」は死んでいない。
大作が扮する「九条響太郎」が世間へ登場し、何らかのトリックで車から逃げ出したのだと周囲を驚かせた後、瑞樹&大作が真相を暴くべく動き出します。
舞台脚本が小説に!
「怪盗不思議紳士」の見どころは、そもそものストーリーが舞台脚本であったことでしょう。
この物語は、現在のスネ夫や妖怪ウォッチのウィスパーなどを演じている声優、関智一氏が主宰する劇団で演じるため、作られた物語という異色の生まれなんです。
この物語を舞台で演じるとどうなるんだろう……。
どうやって場面を切り替えるんだろう……。
そんな演劇シーンに思いを馳せながら読むのも一興ですよ。(ちなみに、舞台はDVD化されているそうです。いつか見よう)
探偵と少年助手という設定は定番中の定番ですが、いわゆる助手になるような少年は、飛び級してしまうほど賢い例が多い中、孤児である瑞樹は助手となれる素質は見抜かれたものの、喧嘩っ早い、口悪い、字が書けないの三拍子。
それなのに、なぜか憎めない奴……草野瑞樹と言う少年の持つそんな魅力にも注目してくださいね。
瑞樹、そして大作。
世間からはじかれてきた二人が、ストーリーを通じて成長していく様子も必見です。
ラスト数ページからの……!

「怪盗不思議紳士」はラスト数ページで急展開が訪れます。
それまで、信じていたこと、予想していたことが、見事に裏切られる展開は、見事でした。
ことの顛末をしった瞬間、私の状態はマンガのように「ぽかん」です。
ネタバレになってしまうため、多くは語りませんが、おそらくあなたが思っている展開とは違った結果が訪れるでしょう。
時折視点が変わるのも面白いですね。
濃いキャラクターたちへ、いつしか感情移入し、昔から知っていたようなつもりで読み進めていました。
ありがちの探偵と助手もの、そんな先入観をゼロにして、是非楽しんでみて下さい。
舞台も良いけれど、ドラマや映画にしても盛り上がる、エンタメ要素満載の作品でした。
九条響太郎の生死はもちろん、怪盗不思議紳士の正体にも注目しながら、ドキドキハラハラの展開へ身を委ねてみて下さい。
総評
「怪盗不思議紳士」は、最初からラストまで、良い緊張感が保たれる作品でした。
大作が九条響太郎に化けていることが、バレてしまったら……。
ピンチが訪れるたびに、ふっとそこから響太郎が現れるかもしれない。
そんな不安や期待が、心を休ませてくれません。
頼りない瑞樹の存在もそうですね。
この子の一挙手一投足で、大変なことになってしまうのでは……とそれはもう、親目線で心配してしまったほどです。
物語のラストは、続編が発刊されてもおかしくないムードで終演するため、あの後登場人物がどんな暮らしをしているのか、是非追ってとも思いましたね。
本当に、全キャラクターが立っているので!
続編をまた舞台化して、と言うのも期待値大。
関智一さんのアレンジがあってこその「怪盗不思議紳士」ですから、どちらのファンも楽しめる未来が待っていたら素敵だな、と思いました。
それにしても……意外ではないけれど、意外なラストとしか言いようがない、虚を突かれた結末に、まだ気持ちが揺れているようです。
落ち着くまでにはもう少しかかりそう……。
是非皆さまも、色々なシチュエーションを想定しながら、昔懐かしい世界へタイムスリップしてみて下さい。
あら、マイベスト叙述トリック作品を書いた我孫子さんじゃありませんか。
しかも関さんが舞台化。
あの人「八つ墓村」も遺族と交渉して舞台化してますよね。
ミステリ大好きなんでしょうか。
えーそうだったんですか!
じゃあもうミステリ大好きっぽいですよね。
これは確定ですな( ´∀`)