妾腹の少女たちが住む館、「鏡館」。
その名の通り、左右対称の新旧の館には48枚の姿見が飾られており、少女らはその館でまるで籠の中の鳥のように育てられていた。
父親である富豪は一年に一度その鏡館を訪れ、政略結婚のために娘を一人選んで連れ出す。
少女たちにとっては、そこで選ばれることだけが、館から離れて自由になれる唯一の方法だったのだ。
しかしある時、何者かの手によって父親が殺されてしまい……。
そして鏡に映る「わたし」の隣に、死んだ姉が現れる。
鏡面に浮かぶ不吉な文字、新旧の館に隠された構造と姿見の秘密、そして密室の逆トリック。
使用人探偵、シズカはこの謎を解くことができるのか?
超個性的な本格ミステリの新鋭、月原渉さんの人気『館』シリーズ第四作目!
本格『館』ミステリ!読みやすいのに本格派
ミステリ好きにはたまらない、館×密室×殺人事件という舞台設定。
シリーズの前作までと同様、本作でも館という設定が最大限に生かされています。
本シリーズの館の特徴は、決して普通の館では無いという点。
姿見だらけの館というだけでも普通でないのに、その館には妾腹の少女たちが大勢住んでいるというのです。
さらにさらにこれにプラスしての密室というトリックですから、今まで本格ミステリをたくさん読んできた方でも大満足できるはず!
明治時代という時代設定もあいまって、本格味たっぷりの作品となっています。
そして今作では、往年の名ミステリや館ミステリへのオマージュもたっぷり。
昔からのミステリファンにとって嬉しい仕掛けがたくさん隠されています。
ミステリを読んでいればいるほど楽しめる作品となっているのです。
しかし、本格ミステリだからと言って気後れする必要は全くありません!
主人公である使用人探偵・シズカを始め、魅力的で個性的なキャラクターが大勢登場するので、先が気になってどんどん読み進めることができます。
これまでミステリをたくさん読んできた方にも、これからミステリを読み始めたいという方にも、どちらにもおすすめしやすいミステリ小説となっています。
使用人探偵・シズカの謎めいた魅力が面白い!
本作の魅力の一つである、探偵役のシズカ。
彼女はシリーズを通して、舞台となる館の使用人として登場し、事件の謎を解いていきます。
しかし彼女に関する謎は残されたまま毎回小説が終わってしまい、それもシリーズの魅力となっているんですよね。
それでも、今作では少しだけ、不遇な少女たちへのシズカの優しさが垣間見えます。
少女たちとシズカのやり取りも本書の見どころの一つとなっているのです。
謎めいた彼女の素顔が見えそうで見えない、でも人となりがほんの少しだけわかる、という見事なバランスが、読者をひきつけているのでしょう。
そもそも彼女はなぜ毎回違う館に奉仕しているのでしょうか?
なぜ探偵としての役割を全うするようになっているのでしょうか?
彼女の素顔や過去が明かされるときが、このシリーズの最大のクライマックスになるのかもしれません(明かされなくてもそれはそれで面白そうですね)。
本編の推理とともに、彼女のミステリアスな魅力を楽しんでください!
本格派ミステリ作家の挑戦的作品!
2010年に鮎川哲也賞を受賞してデビューしてから、本格ミステリの系譜をくみながらも個性あふれる作品を数多く発表してきた月原渉さん。
2017年には使用人探偵シズカシリーズの第一作目となる「横濱異人館殺人事件」を発表し、毎年シリーズ新作を発表してきました。
2020年発表の今作もそれまでのシリーズ同様、本格派でありながらも枠にはまらないミステリ展開がされています。
シリーズを通してはまる人・はまらない人が出やすいのは、作者の挑戦的な姿勢が小説全体にも反映されているからこそ。
小説全体の雰囲気、「館」というミステリにおける“王道”の舞台装置、明治時代という本格ミステリ感。
使用人探偵、驚きのトリック、個性的で魅力的なキャラクターというキャッチーさ。
これらの文言にビビッと来る方は、読んでみて決して損はしないはず!
これからもどんどん個性的な名作を生み出し続ける作家の一人であると、自信を持っておすすめできます。
また、『館』シリーズはシリーズ物ではあるものの、一つ一つ完結した小説となっています。
使用人探偵シズカが毎回違う館に仕えているということもあり、途中の巻から読むことも可能!
この本を読んでシリーズの魅力に気づいた人は、ぜひ他の巻も読んでみてください。
『館』シリーズ、そしてシズカさんの魅力にとりこになること間違いなしです!


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