中山七里『連続殺人鬼カエル男ふたたび』-人間というものはこんなにも残酷になれるものなのか

あのカエル男が帰ってきた!

 

このミス大賞を受賞した『さよならドビュッシー』で一躍有名になり、『連続殺人鬼カエル男』でその実力を見せつけた中山七里さんの最新作、『連続殺人鬼カエル男ふたたび』が発売となりました。

 

食事の前後に読むのだけはおすすめしませんが、ミステリー小説としては一流の面白さです!

目次

ふたたびはじまった五十音連続殺人

【勝雄は自分という人間が嫌いだった】

P.8より

精神に異常をきたし、入院しながら治療を受けていた勝雄。

完治とみなされ退院した彼の視点からこの物語ははじまります。

伝わってくるのは、ただただ綴られる勝雄の精神の異常さ。

【畜生、馬鹿にしやがって。それなら人を慄かせ、恐怖のうちに君臨するカエル男の方がずっと魅力的だ】

P8より

御前崎という主治医と合間見えるその瞬間まで、おどろおどろしい、世間にたいする昏い熱情が文中にただよいます。

ただのサイコパスと言ってしまえばそれで足りてしまいますが、それだけで片づけたくはない。

こんな人物を簡単に退院させてしまっていいわけがないのに、こころの奥底に殺人鬼を飼ったバケモノはやすやすと野にはなされてしまう。

【以前から飼っている心の中の獣は夜行性だ】

P9より

その後、まずは主治医である御前崎が爆殺され、工場勤務の佐藤尚久という青年が硫酸プールに“落とされ”、半身を骨までぐずぐずに溶かされて殺害されます。

このあたりの描写がもう、すごいです。

語彙をどこかに落として忘れてきてしまったような感覚さえ覚えます。もうなんかすごい。ほんとうに人間を溶かしたことがある人でないと書けないような描写なんだもの。

お気づきでしょうか。

前作では苗字の頭文字が「あ」「い」「う」「え」の順に殺害されていた。名付けて五十音連続殺人。

「御前崎」が爆弾で爆破され、「佐藤」が酸でどろどろに溶解された。

あれ? カ行抜かされた?

と、これ以上書くとネタばれになってしまいそうなので、読んでみての率直な感想にうつります。

カ行が飛ばされた真実について気になるかたは、ぜひお手に取ってみてくださいね。

描写の精巧さに「さすが」と舌をまく

【百か二百か、あるいはそれ以上の数に粉砕された組織が壁や床にこびりついていた。血肉の赤と脂肪の黄、そして骨片の白が部屋中をカンバスにして極彩色の地獄絵を描いている】

P10より

このあたりの言いまわしは、あの『さよならドビュッシー』から健在ですね。もう、さすがと言うほかないです。

どこから物を言ってるんだという話ですが、ハッを目をひく描写の、多いこと多いこと。

【人間をすり潰して絵具にし、部屋中に描き殴った】

P14より

ただひたすらに、想像していると吐き気しか催さない表現の羅列がつづくのですが、わたしは、読んでいてただただ、かなしくなってきました。

怖い、というのでもない。嫌悪、というのでも、ない。

たったひとりの人間がじぶんの中の「感情」をないがしろにすると、そこから生まれでてくる狂気や残虐さはひたすらに、見る者のこころの内にかなしさを芽生えさせるんだな、と学んだ気がしました。

もう数十年以上、読書に親しんできたわたしですが、いままで感じ得なかった気持ちです。

実在しない登場人物なんだけれど、“こんな風”になるまでに至った背景におもいを馳せると、もうすこし違った人生もあったかもしれないのに、と悔しくなる。

【幼児は飽きるか叱られるかしない限り、気に入った遊びをやめようとはしないのだ】

P22より

ほんとうに、彼にとってただの遊びなんだろうか。

それが知りたくて、ただひたすらにページをめくりました。

この作品の肝となるところは、そのタイトルや、五十音連続殺人という題材から醸しだされる不穏さにかくされた、“かなしさ”と“せつなさ”です。

手垢のついた表現だとおもわれるでしょうか?

そんなあなたにこそ読んでほしいと思わざるをえない一冊です。

前作のその後がきになるかたは必読!

著者・中山七里さんときいて浮かぶのが『さよならドビュッシー』だ! というかたにとっては、そのイメージでかるく手をだすと火傷してしまう作品かもしれませんね。

登場人物のひとりである、さゆりがピアノを爪弾く場面では、奏でられる一音一音が鮮明に聞こえてくるほどのうつくしい描写が目立ちますが、『ドビュッシー』を彷彿とさせるのはその部分だけ。

あとはサイコスリラーとも呼べる、はらはらと生々しい表現がつづきます。

シリーズ前作である『連続殺人鬼カエル男』を読んだ方、彼らのその後が気になるかたは必読!

突きつけられる、どうしようもない真実に、どうか、覚悟をきめて読んでください。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)

コメント

コメント一覧 (10件)

  • はじめまして。いつも楽しくサイトを拝見させていただいております。管理人様のおかげで今まで知らなかった素晴らしい作家さんを沢山知ることができ、読書の幅が広がり大変感謝しております。

    さて、本記事に記載されております映画ミュージアムについて、カエル男は出てくるのですが、原作は漫画となっており、中山さんの作品とは全く関係がないようです。
    お節介で恐縮ですが、誤った情報が流れてはいけないと思い、老婆心ながらご連絡させていただきました。

  • きょこ様、映画ミュージアムについて正しい情報を教えてくださってありがとうございます。

    早速その件についての文章は削除いたしました。

    本当に本当にありがとうございます。

    これからはこのようなことが無いように努めさせていただきます。

    嬉しいお言葉をありがとうございました。
    そして誤った情報を提示してしまい申し訳ございませんでした。

  • ついこの前、中山さんの「嗤う淑女」の文庫を購入し読みました

    白夜行を思い出すような、そんな登場人物、久々に 女ってこわーw と思う一冊でしたw

    カエル男の続編とは! 全然知りませんでした なんてこった!

    ベートーヴェンで音楽シリーズは完結?っぽい??し、こっちの続編も期待大です彡(^)(^)

    • こはるさんこんにちは!
      そうなんです!カエル男の続編なんです!
      もう最高にワクワクしますよね( ´∀`)
      まさか続編が読めるなんて思っていなかったので余計に嬉しかったです〜。

  • ふっふっふ。
    積読本が溜まっていきますなあ!
    出費も増えますなあ!
    しかし手に取らずにはいられない!( ゚∀゚)

  • こんにちは。
    いつも読む本を探す参考にさせて頂いてます。
    中山七里さんの本は大好きで、他のシリーズも読んでます。
    「カエル男」はこれでもってくらい残虐な表現と共に、人間の本質を見せられているようで、色々考えさせられます。
    それらひっくるめて、作者の掌で弄ばれているのだと思って、楽しんでいますけどね。

    • クマっちさんこんばんは!
      参考にしていただけているようで大変嬉しいです!
      確かに「カエル男」の残虐にさは考えさせられるものがありますよね。中山七里さんの腕の凄さでしょう。
      それにしてもカエル男の続編が読めるなんて本当に嬉しかったですねえ(*´Д`*)
      もしかして第三弾も……?!

  • こんばんは。

    この「カエル男ふたたび」をきっかけに中山七里さんにどっぷりハマっておりますわたくしの今日この頃です。
    「カエル男」で捜査していた渡瀬警部が「テミスの剣」「ネメシスの使者」は主人公なのか!?、更に「魔女は甦る」にも渡瀬警部や古手川刑事も出てくるじゃん。「ヒートアップ」と「ワルツを踊ろう」は「魔女は甦る」の事件と繋がってるじゃん。
    「ヒートアップ」に出てきた宏龍会の山崎が「逃亡刑事」 でも準主役だし!?
    とりあえずこれから「切り裂きジャックの告白」から始まる犬飼刑事シリーズを一気に読もうと思っております。
    (岬洋介シリーズも未読、ヒポクラテスシリーズも未読、御子柴シリーズも未読。これからも楽しみがたっぷりです。)

    余談ですが、先日ラジオ出演されておられた中山さんが“連載は10本が限界”(いや!10本は十分に多いでしょ!?)、“今でも1日1冊小説を読む”とおっしゃられていて、この人化け物だな…と思ってしまいました。

    • 手持ち豚さんさま、こんばんは!

      中山七里さんの作品、面白いですよね(๑>◡<๑) 作品同士にちょっとしたつながりがあるので、余計にワクワクしますよねえ。 ヒポクラテスシリーズも御子柴シリーズもとても面白いので、ぜひぜひ読んでみていただけたらと思います! ラジオでそんなことをおっしゃっていたのですか……! それは化け物ですね笑

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