海外ミステリー小説

「十三号独房の問題」の密室脱出を刮目せよ-新版『世界推理短編傑作集1』より

 

なんと嬉しいことに、『世界推理短編傑作集1』が【新版】となってこの度登場しました!

その名の通り、世界の傑作推理短編を収めたアンソロジーで、収録作品は、

・ウィルキー・コリンズ「人を呪わば」
・アントン・チェーホフ「安全マッチ」
・アーサー・コナン・ドイル「赤毛組合」
・アーサー・モリスン「レントン館盗難事件」
・アンナ・キャサリン・グリーン「医師とその妻と時計」
・バロネス・オルツィ「ダブリン事件」
・ジャック・フットレル「十三号独房の問題」

となっております。

まさに定番中の定番、ミステリ好きなら誰もが読み倒した古典傑作が収められているのです。

今回はその中で、見事な密室脱出劇をみせてくれるジャック・フットレルの「十三号独房の問題」をピックアップ。

一体どんなミステリなのか、サクサクっと見てみましょう。

 

 

ジャック・フットレルの「十三号独房の問題」

 

ヴァン・ドゥーゼン教授は、その天才的頭脳ゆえに「思考機械」と呼ばれていた。

ある時、不可能なことなんてありえない、という思考機械に対し、ランサム博士はこのようなことを言い出した。

「そうだな。例えば刑務所の壁さ。監房に収容されたばあい、どんなに思考の力を働かしたところで、脱出なんか出来るものではなかろう。もし、そんなまねができるのなら、囚人なんて概念は、およそ無意味になってしまうじゃないか」

P.316より

それに対し思考機械は、

「ところが、脳髄さえつかえば、監房脱出なんて易々たるものだ。僕の主張は、ちっとも変わらんよ」

P.316より

とはっきり言い放ったのだった。

死刑囚と全く同じ状態に拘禁しても、必ず脱出できると言うのです。

もちろん脱出用の道具なんて持ちこまず、思考の力だけで脱出する、と。

 

ということで、早速監房に入れられることになった思考機械。

「なにを携帯するね?」

「できるだけ簡単でよろしい。靴に靴下、ズボン、シャツーーそんなところでけっこうだ」

P318より

ただし、三つだけ欲しいものがあると言う。

「恩恵ってほどのものではないつもりだ。まずひとつ、歯磨粉がもらいたい。心配だったら、現物をよくあらためてくれればよい。それから、五ドル紙幣一枚に、十ドル紙幣が二枚ほしいのだ」

P.321より

そして三番目、自分の靴をいつも磨いておいてもらいたいという。

 

刑務所の中に現金を持ち込んでどうするのだ?

靴を磨いておく意味とは?

 

理由はまるでわからなかったが、問題ないとして要求は許可された。

 

かくして、死刑囚を収容する十三号監房へと入れられた思考機械。

「正確な時刻は何時ですね、所長?」

「十一時十七分」典獄はこたえた。

「そうですか。では、今から一週間後の夜八時半に、きみの所長室で、三人いっしょに待っていてもらうとしよう。ぼくのほうから姿を現すことにするからーー」

「もし約束の履行ができなかったときは?」

「もしということは、ぼくにとってはありえぬことなんだ」

P.323より

思考機械の奇妙な行動

ある日、十三号監房の窓から、ヒラヒラと白いものが落ちてくるのを監視員が目撃する。

駆け寄って見てみると、それはワイシャツ生地を切り裂いたと見えるリンネルの小切れで、五ドル紙幣が結びつけてあった。

布片にはインキのようなもので、

ーーこの布片を発見せらし方は、チャールズ・ランサム博士にお届けを乞う。

P.331より

と書かれていた。

残念ながら看守に発見されたため、この手紙はランサム博士に届くことはない。

所長は「逃亡第一計画は失敗に終わったな」とニヤリと笑うが、ひとつの疑問が残る。

 

思考機械は、文字を書くためのペンとインキをどこから手に入れたのか?

 

独房に入れる前の身体検査でも、そんなものは見つからなかったのだが……。

 

 

さらに。期限まであと三日と迫ったある日。

独房の窓からヒラヒラと一枚の紙幣が舞い落ちるのを目撃した看守。

拾い上げてみると五ドルの紙幣で、チップのつもりなのか「きみに進呈するよ」などと機械思考は言う。

全くおかしな話だ、と所長に伝えたところで、ある事実に気がつく。

 

独房に入れられる前、機械思考が欲しがった紙幣は、五ドル紙幣一枚に、十ドル紙幣が二枚。

しかし、一枚しかない五ドル紙幣はもう、ランサム博士に当てた手紙の時に使っている。

 

ということは、この二枚目の五ドル紙幣は一体どこから。まさか十ドル紙幣を両替したというのか。一体どうやって……。

思考機械の華麗なる脱出劇

ペンもないのに文字を書いたり、勝手に両替したりと、独房の中で奇妙なことをやってのける思考機械。

結論を言うと、思考機械は期限の日に見事に独房から脱出してみせます。

もちろん「どうやって脱出したのか」が機械思考の口から語られるのですが、その鮮やかで天才的な脱出方法には誰もが驚きを隠せないでしょう。

まさに天才である彼にしか出来ない脱出方法です。

もしも未読であれば、ぜひその方法を新版となって登場した『世界推理短編傑作集』でご覧あれ。

 

ABOUT ME
anpo39
年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)
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POSTED COMMENT

  1. nao より:

    やはりこのアンソロジーの新訳がでたことはめっちゃうれしいしけど、どうせなら、ぜ~んぶ、新訳ででてほしいよね。
    やっぱり昔の訳より、新しい訳のほうが断然読みやすいもんね。
    最近は、古典の新訳(新装版も)が、ラッシュといえるくらいにめちゃくちゃでてるよね。
    anpo先生はやっぱり新訳はもちろん、新装版のほうも(ついつい)たくさん買ってしまってるんでしょうね(笑)かくゆう自分もクイーンとカーの新訳を、、とおもっていても、本屋に行くとついいろいろかっちゃうよ~ハァー/(‘A`)\

    • anpo39 より:

      ほーんとそうですよね。全部新薬で出てほしい。
      読みやすさは正義です。内容の面白さまで変わってくるような気がします。
      ですねー笑
      新版出るとどうしても読みたくなっちゃうんですよー!!助けてください。
      お、実は最近私もクイーンとカーの新訳を買いました笑 同じ作品だったりして。
      ほーんと本屋は買わないつもりで行っても買っちゃうから危険ですなあ……

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