囮捜査官マルティンは5年前に、妻子を亡くしていた。
妻が豪華客船「海のスルタン号」に乗り、息子を海に投げ込んだ上、自身も海中に飛び込んだらしい。
表向きは自殺ということになっていた。表向きは…。
しかし今になってマルティンは、この事件の秘密を知るという老女に呼び出された。
2ヶ月前に「海のスルタン号」から姿を消した母娘のうち、娘アヌークのみがひょっこり姿を現したのだという。
しかも彼女が手にしていたテディベアは、マルティンの息子のものだった!
なぜ、この船からは母子が繰り返し失踪しているのか。
なぜ、アヌークは失踪後に突然戻ってきたのか。
マルティンの息子も、あるいは生きているのだろうか―。
クルーズ船を舞台に繰り広げられる、背筋の凍るような惨劇を描くサスペンスミステリー。
豪華客船というクローズドサークル
『乗客ナンバー23の消失』は、豪華客船「海のスルタン号」で起こった身の毛のよだつ恐ろしい事件を描くミステリーです。
海上の船内、つまり逃げ場のない閉鎖空間ということで、ジャンルとしては密室モノとなります。
密室と言っても「海のスルタン号」はかなり広くて、数千人もの人が乗船しており、設備や施設も小さな町並みに揃っています。
これだけ規模が大きいのに、怖いことに警察はいません。
そのため無法地帯のような状態であり、どんな悪だくみが行われているかわからない不気味さがあります。
なにせプロローグからして壮絶で、自称ドクターが船内で人を生きたまま解体しています!
そんな「海のスルタン号」では、たびたび母子が行方不明になるという事件が起こっており、主人公のマルティンの妻子もここで失踪しました。
監視カメラによると一見自殺のような感じなのですが、どうにも腑に落ちないマルティン。
そこで捜査を始めたところ、調べれば調べるほど恐ろしい事実が明らかになってきます。
窃盗、監禁、拷問、虐待など様々な要素が絡んできて、物語はどんどん陰湿で凄惨な方向へと進んでいくのです。
しかもスプラッターな展開やグロ表現もたっぷり…!
このように『乗客ナンバー23の消失』は、身震いすること必至の物語。
目を背けたくなるシーンも多いですが、怖さの中から真相がどんどん見えてくるので、先が気になって読まずにいられなくなります!
冒険あり、グロあり、どんでん返しあり
『乗客ナンバー23の消失』の見どころは、真相を求めて船内を捜索するところです。
「海のスルタン号」には使われていない謎の場所や通路がいくつもあり、事件を追うにはこれらをひとつずつ探っていく必要があります。
調べながら恐る恐る奥へと進んでいく様子は、まるで未開の地の探検のようで、スリル満点!
しかも合間合間で、必ずショッキングな発見があります。
たとえば、こんなメッセージが見つかります。
「いろいろ嗅ぎまわるなら、思い知らせてやる……」
内容も怖いですが、もっと怖いのが、このメッセージが書かれた絵葉書の場所。
なんとウジ虫がウジャウジャと詰まった袋の中で発見されたのです。
中から取り出す時の気持ち悪い描写と言ったらもう!
そしてやがて「監禁」のパートが出てくるのですが、ここもかなりショッキングです。
行間から音や匂いが溢れてきそうなくらいリアルで迫力がありますし、そしてやっぱり虫が出てくるので、グロ系やウジャウジャ系が苦手な方は注意が必要ですね。
さらに真相もかなり衝撃的!
母子がなぜ失踪したのか、その裏に隠されていた陰謀には文字通り背筋が凍りそうになります。
それでもようやく解決し、ホッとできるラストを迎えるのですが、ここで安心してはいけません。
物語が終わり、作者のあとがきがあり、その後に「あの人物」が再び登場して、恐ろしい真相を告げてくるのです…!
この驚愕と絶望感は、ぜひ実際に読んで、味わってほしいです。
本当に、最後の最後まで油断できない作品なっています。
世界中で話題になったサスペンス・ミステリー
『乗客ナンバー23の消失』の作者であるセバスチャン・フィツェック氏は、ドイツで注目されている小説家です。
デビュー作の『治療島』がいきなりベストセラーとなり、24もの言語で翻訳出版され、累計450万部を突破したくらいです。
その後も次々と作品を発表し、今ではフィツェック氏は「サスペンス・ミステリーの巨匠」と呼ばれるほどになっています。
本書『乗客ナンバー23の消失』も多くの国々で出版され、話題となりました。
特に日本では高く評価されており、2018年の週刊文春ミステリーベスト10で、 海外部門の第3位に選出されたほど。
さらに2019年の「このミステリーがすごい!」で、海外部門の第7位にも選ばれました。
国境を越え海を越えても人々の心を掴むくらい、優れた作品ということですね。
とにかく内容が衝撃的で、ノンストップで襲ってくるスリルとショックとがたまりません!
執筆したフィツェック氏ご自身が、
「もしかしたらこのサスペンス小説を書いたせいで、既存の船会社から永遠に嫌われてしまうかもしれません」
と仰っているくらい、センセーショナルな作品となっています。
ちなみにタイトル『乗客ナンバー23の消失』ですが、これは現実の世の中で毎年平均して23名がクルーズ船で行方不明になっている、という事実に由来があるのだとか。
このことを頭に入れておくと、本書をよりスリリングに楽しめると思います。
密室モノや、グロありのサスペンスが好きな方は、ぜひご一読を!