デザイナーであり、江戸川乱歩賞受賞作家でもある「川瀬七緒」さんの描く「女學生奇譚」。
明治大正時代のはかなげな女学生が表紙になっていて、街中で読んだら間違いなくミステリーではなく、百合作品を読んでいると思われるでしょう。(事実、要素が含まれているだけになんとも言えませんが……)
川瀬七緒さんといえば法医昆虫学をふんだんに盛り込んだ『法医昆虫学捜査官シリーズ』がめちゃくちゃ面白いわけですが、シリーズ作品以外もバッチリ面白いんですねえ。

秀逸な世界観、そして、鮮明な今と過去とのコントラスト!
意外な結末が待つ、奇譚の世界へ、今すぐ飛び込んじゃいましょう。
女學生奇譚あらすじ
この本を読んではいけない。過去に読んだ者のうち五人が発狂し、二人が家から出られなくなり、三人が失踪している……(中略)……もう一度警告する。ただちに本を閉じよ。読んではいけない。
という、「さてどうしようか」と読者に思わせるセリフでスタートする『女學生奇譚』。
さすがに、ここで本を閉じたりはしませんが、心地よいゾクゾク感でスタートできるため、より物語の世界へ引き込まれていきます。
主人公は、フリーライターの八坂。
マリモを愛し、事故物件を選んで住むような変わり者の元へ、これまた癖の強いオカルト雑誌の編集長火野から舞い込む依頼。
それが、「この本を読んではいけない」と書かれたメモが挟まれた本を取材することです。
本の持ち主は、あやめと名乗る少女であり、彼女と直接会った八坂は、あやめの兄が、この本を読んだ後に失踪したという話を聞きます。
行方不明者の捜索は仕事じゃないと突っぱねながらも、“読んではいけない本”「女學生奇譚」の取材は仕事だからと、じっくり読み進める八坂。
書き手のノンフィクション風回想物語で進んでいく本の中の「女學生奇譚」に隠された謎とは、あやめの兄の居場所とは……いたるところに思いを巡らせながら、夢中になれるストーリーです。
「女學生奇譚」の見どころはココ!
川瀬七緒作品はキャラが強いことで有名ですが、「女學生奇譚」ももちろん、その濃さが満載です。
八坂の相棒であるカメラマンの「篠宮」は、会社の金を使い込んで追放された過去が、「火野編集長」は、汚い部屋で英国風の衣服を身にまとい、押しが強いが冷血漢な男。
アメリカ育ちで化粧気もなく、いつも無表情でそっけない「あやめ」など、出てくる人間すべてのキャラが立っていて、誰一人として無下にできません。
人物が立つのは、もちろん優れた描写力にあります。
「女學生奇譚」八坂&篠宮コンビは、料理上手と食いしん坊という側面もあるのですが、この食べることについての描写がまた素晴らしくて……目の前に料理が並んでいるかのようで、お腹が空いてしまうほど。
スズキの切り身を電子レンジで解凍し、今朝砂抜きしておいたアサリをザルに開けた。そこからきっかり三十五分でアクアパッツァを作り上げる。潰したニンニクを効かせたオリーブオイルでスズキに焼き目をつけ、アサリとトマトを加えたイタリア料理だ。
ちょっとした夕飯も、こんな具合です。(さらに、この後味付けや盛り付けも……)川瀬さんはグルメ、もしくは自炊が得意な方なのでしょうか?
ストーリーだけでなく、こんな描写にも大注目ですよ。
「女學生奇譚」を読み終えた感想
序盤はそれぞれのユニークなキャラクターに惹かれつつ、本の中の「女學生奇譚」で描かれる女学生たちの毎日から目が離せなくなっていきます。
女学生の書く物語が実話であるのか、読み終えたらなぜ人が消えてしまうのか、その答えを求め、静かにページを捲る時間が過ぎていきました。
そして……ネタバレレビューはしませんが、「女學生奇譚」のラストは、思いもよらない結末が待っています。
最後に近づいていくたび、「嘘」「そっち?」「そうじゃなの?」「えー」と、展開に翻弄され、思わず口からつぶやきが漏れる連続でした。
この辺りは、集中して読んで頂きたいので、一人でゆっくりと読み進められる環境を作ってから、一気に読破しちゃってください!
「女學生奇譚」を読んでも失踪しなかった!よかった!
「女學生奇譚」を読み終えて、一番に感じたのは魅力あふれる八坂&篠宮コンビとまだ離れたくない!また会いたい!という想いでした。
八坂、あやめ、火野……それぞれの過去も作中では浮き彫りになっていき、淡々と進む本の中の「女學生奇譚」を読むシーンと、慌ただしくなる現実との差が、なんとも言えず癖になる作品でもあります。
「女學生奇譚」のレビューの中には、尻切れトンボという声もいくつかありますが、次を期待させるような終わり方なので、「これ前編だっけ?」とつい思ってしまうんですね。
問題の答えは、きちんと物語の中で解決していますので、この尻切れトンボは、悪い意味ではなく“次作にも大期待!”という意味に捉えてOK!
なんならシリーズ化を所望したいくらいです。てか、してください!川瀬さん!
ミステリー小説は、基本一度読んだら、中身を忘れるまでしばらく開かないことが多いのですが、「女學生奇譚」は、読後間を置かず再読したほど、好みの作品となりました。
モダンな世界が好きな方、奇妙な世界へ興味がある方、ぶっ飛んだキャラクターが好きな方、定番のラストでは満足できない方は、是非「女學生奇譚」をご一読下さい。
そして、失踪せずこの場に留まれたなら、物語や愛すべきキャラたちについて、熱く語り合いましょう!
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