主人公の高校生ピップは、夏休みの自由研究の題材にある殺人事件を選ぶ。
ピップの町では5年前に女子高生が失踪する事件が起きており、女子高生の恋人が殺人の容疑者とされたが、彼は自殺してしまっていた。
彼の無実を信じるピップは、“失踪事件の捜査においてメディアとソーシャルメディアがいかに重要な役割を果たしたか”という視点で事件の情報を洗い出し、真相を探っていく。
小さな町の偏見や差別・いじめにも物怖じせず、勇気と信念そして信頼できる協力者とともに捜査に取り組むピップ。
事件はだんだんと複雑に入り組み始め、予想もしなかった方向に進んでいく。
彼女は事件の真相にたどり着くことはできるのだろうか?
ミステリー×青春モノの新たなシリーズが始まる!
“夏休みの自由研究”という斬新な視点で進む物語
この作品の探偵役を務めるのは、弱冠17歳・高校生のピップ。
ピップは何と、夏休みの自由研究の題材に、町で実際に起きた事件を採用します。
しかも単に事件の推移を追うのではなく、容疑者とされ自殺した少年の無実を信じて、事件の捜査にメディアやソーシャルメディアが与えた影響を探るというのです。
担当教師からは被害者・加害者家族への接触は避けるように言われるものの、物怖じしない彼女は加害者家族へのインタビューを敢行したり、ついには家宅侵入まで行ったりするなど、どんどん事件の情報を集めていきます。
あくまで“自由研究”なので、ピップが自分で動ける範囲での情報と、そこから導き出せる論理的思考のみで真相に近づいていくのが本作の魅力の一つ。
よくある知り合いの警察・新聞記者から情報を貰う、という展開は、自由研究というテーマ上出てきません。
高校生が探偵役というのは珍しくないかもしれませんが、“自由研究”という視点がこの作品に特別な色味をもたらしていると言えるでしょう。
ミステリー初心者の方はもちろん、これまで多くのミステリー作品を読んできた読者の方も新鮮味を持って読んでいける作品です。
ミステリーものながら清涼感の感じられる青春譚としての一面も
勇気と信念を持って、自殺してしまった少年の容疑を晴らそうと町の人の偏見や差別・いじめにも折れずに事件の捜査を進めていくピップ。
彼女のもう一つの美点は、優しさと思いやりを持っているという点。
ミステリーの探偵役にしては一見平凡に見えるピップの特質は、その実、作品全体にある種の清涼感をもたらしているということができます。
おどろおどろしい殺人シーン、登場人物の暗く苦しい過去……といった最近のミステリーものにありがちな、重苦しい雰囲気に疲れた読者であればあるほど、彼女の天真爛漫な明るさ・優しさ・強さに惹かれ癒されていくはず!
またピップだけでなく、ピップの相棒を務めるラヴィ(容疑者の弟)ら登場人物たちも、あたたかく人間味に溢れた描写がされています。
この作品は、ミステリーものの一面の他、彼らの青春譚としての面も持っているのです。
やがて明かされる事件の悲しい真相と明るい青春モノ、というコントラストが、この作品の魅力の一つとなっています。
文学を学び文学を愛する著者のデビュー作!
この作品の著者であるホリー・ジャクソンは、イギリス・バッキンガムシャーに生まれ、幼いころから物語を書き15歳で最初の小説を完結させたという経歴の持ち主。
大学では言語学と文芸創作を学び、文学修士号まで取得するなど、才能と努力の人と言えます。
そんな著者のデビュー作である今作は、英米で大ベストセラーを記録し、2020年のブリティッシュ・アワードのチルドレンズ・ブック・オブ・ザ・イヤーを受賞。
イギリスの児童文学であるカーネギー賞の候補にもなっているなど、高い評価を得ています。
ここまで見ると児童文学という分類をされているように見える今作ですが、大人でも十分に物語を楽しめるのがすごいところです。
むしろ主人公ピップの明るさや強さ、優しさなどは、いろいろな人生を歩んできた大人にこそ味わってほしい!
現実世界に疲れた読者の心をスカッと癒してくれるはずです。
警察に情報を開示請求したりSNSで他人に成りすまして情報を得たりと、事件の解明のためには手段を選ばず違法ギリギリな手段も取るピップの強さも楽しめます。
また、主人公が高校生ということもあり、パソコンやスマホ・SNSが捜査の手段や事件解決のカギとして自然に使われており、新時代のミステリーものとしての価値もある本作。
現代ミステリ―×青春モノにピンときた方は読んで損はしません!
イギリスでは続編も3作まで出版されており、これからが楽しみなシリーズです。
ぜひ今のうちに読んでおくことをおすすめしますよ!(*’▽’*)
コメント