紙の銘柄、厚み、密度など、紙のことなら何でもござれの紙鑑定士・渡部のもとに、新たな依頼が来た。
小学3年生の女の子からの依頼で、「紙粘土の鑑定をしてほしい」というもの。
紙は紙でも、紙粘土はさすがに専門外。
しかし依頼の目的が、
「可愛がっていた猫の虐待に使われた可能性があるから、確認したい」
という深刻なものだったことから、渡部は協力することにする。
そこでプラモデル造形家の土生井に相談したところ、その粘土がフィギュアの制作用だとわかった。
さらに粘土における意外な事実がどんどん判明していき―。
新たな仲間を加えて3つの事件に挑む、「紙鑑定士シリーズ」第二弾!
新たな相棒はフィギュア作家
『偽りの刃の断罪』は、「紙鑑定士シリーズ」の二作目です。
このシリーズの特徴は、紙の専門知識を豊富に持つ「紙鑑定士」渡部が、「神探偵」のごとく事件を解決していくというもの。
捜査の素人であるにもかかわらず、自分の得意分野から解決のヒントをなんとか引っ張り出しながら解決を目指す様子が、なんとも斬新で目が離せないシリーズです。
また紙の蘊蓄をあれこれ語ってくれるので、トリビア的に楽しめるところも特徴ですね。
さて、前作の『模型の家の殺人』では模型専門家の土生井が相棒を務めており、彼もプラモデルの知識から解決のヒントを導き出しつつ、蘊蓄をたくさん語ってくれました。
そして今作の相棒は、フィギュア造形作家の團(だん)。
やはりフィギュアの専門知識を使って事件に臨みますし、蘊蓄もたっぷり出てくるので、フィギュア好きな人には心を鷲掴みするような一冊です。
加えて今作は、長編だった前作と異なり、3つの連作短編集となっています。
より多くの事件を、より読みやす形で楽しめるので、前作のファンにはもちろん、初めての方にもおすすめです。
各話のあらすじと見どころ
・『FILE:01 猫と子供の円舞曲』
小学3年生の梨花から、固まった紙粘土の鑑定を依頼されます。
動物の毛と血がついており、どうやら猫の虐待に使われたようです。
梨花の同級生が似た紙粘土を持っていたため、梨花は不安になり、「紙粘土の種類が同じかどうか、調べてほしい」というのです。
ところが調べてみると、話があらぬ方向に進んでいきます。
猫や同級生だけでなく、製造の問題や転売ヤーまで絡んできて、予想外すぎてワクワクが止まりません。
見どころは、初登場のフィギュア作家・團。
彼のマニアックな知識が、解決のための意外な道しるべとなります。
・『FILE:02 誰が為の英雄』
父が事故死し、引きこもってしまった12歳の翔。
團はその母親からの依頼で、翔が好きなアメコミヒーローのフィギュアを作ります。
ところが翔はお気に召さない様子で、しかもそのヒーローを描いたアメコミの新刊まで「欠陥品だ」と突き返す始末。
團も母親も翔の気持ちがわからず首をひねるのですが、ただ一人、紙鑑定士の渡部にはわかりました。
コミックの印刷に、原因があることを。
紙についての渡部の蘊蓄が、解決の鍵となります。
渡部と翔の熱のこもった会話も見どころで、色々と考えさせられる物語でした。
・『FILE:03 偽りの刃の断罪』
表題作。
今回の渡部は、刑事からの依頼で、殺人事件の捜査に協力します。
既婚女性に横恋慕した男性が、夫婦宅に強盗に入り、放火し、夫を殺害するという事件です。
夫婦と容疑者とがアニメのコスプレ仲間だったことから、渡部はアニメに詳しい團に相談します。
團は、消えた凶器の謎や放火のトリックなどを、コスプレの観点から次々に解き明かします!
團がすごいのはもちろん、コスプレのギミックも面白く、非常に奥が深く、興味津々で読める物語です。
エピローグで意外な真相が明らかになり、事件に対する印象がガラッと変わるので、ぜひ最後の最後まで読んでください。
深みや説得力のある作品
「紙鑑定シリーズ」と言えば、マニアックな捜査が魅力のシリーズです。
一般的な推理モノとは全く異なるところから真相を引っ張り出してくる様子が新鮮で、全く退屈することなく一気読みできます。
そしてシリーズ二作目となる『紙鑑定士の事件ファイル 偽りの刃の断罪』では、このマニアックぶりがさらにパワーアップ!
前作のジャンルは主に紙とプラモデルとジオラマでしたが、今作ではフィギュアやアメコミ、さらにコスプレまで追加。
ジャンルが増えたことで捜査の切り口も増え、より複雑で難解な事件にもアプローチ可能になりました。
特に「FILE:03」で、コスプレの小道具からトリックを暴いていく様子は斬新で、「なるほど、こんな使い道があるのか!」と思わず拍手してしまったほど。
もちろん蘊蓄も面白く、乱丁や版ズレの原因、シリコンとシリコーンの違いなど「へぇ~!」と思える情報が満載ですよ。
こういったマニアックな蘊蓄がふんだんに描かれているのは、作者の歌田年さんご自身がマニアであり、それらの道に精通しているからです。
なにせ歌田年さんは、小説家としてだけでなく、ジオラマやフィギュア作りでも活躍し、個展も何度か開催されたくらいです。
つまり本書『紙鑑定士の事件ファイル 偽りの刃の断罪』は、歌田年さんの知識と愛着とがギュッと詰まった作品ということですね。
決して取材や下調べで得た知識ではなく、だからこそリアリティや深みや説得力があり、グイグイと読ませてくれるのだと思います。
次回作では、どのような事件をどのような蘊蓄で解決してくれるのか、マニアックで全く予測がつかないだけに、楽しみですね!
また、前作で登場した、渡部の元恋人・真理子(ランボルギーニを自在に操る、巨乳の美女!)との関係も気になります。
二人がその後ヨリを戻すのか、新たな関係を作っていくのか、ぜひ行く末を見届けたいです。