15歳の少年・夏木蒼汰は憔悴していた。
ある目的のために友人の別荘に忍び込んだところを、その母親に見つかって揉み合いになり、気が付けば彼女が腹部から血を流して死んでいたのだ。
そして自分の右手には、血まみれの包丁が…。
友人になんと言えばいいのか、警察に正直に言うべきか、それとも証拠を隠滅すべきか…。
蒼汰が迷っていると、突然玄関のチャイムが鳴った。
訪ねてきたのは、山道で車が故障して困っているという女性二人で、蒼汰は怪しまれないよう平静を装いながら応対する。
この二人が、霊媒探偵・城塚翡翠と、助手の千和崎真であるとも知らずに―。
累計55万部を突破した大ヒット倒叙ミステリー「城塚翡翠シリーズ」第三弾!
長編レベルのボリュームで楽しめる!
「城塚翡翠シリーズ」は、翠色の瞳を持つ美しい霊媒探偵・城塚翡翠が数々の事件に挑むシリーズです。
倒叙ミステリーなので犯人は最初から分かっていて、それを翡翠がジワジワと追い詰めていくという展開です。
本書『invert II 覗き窓の死角』は、シリーズ第三弾にあたります。
第一弾は4編収録、第二弾は3編収録の中編集でしたが、第三弾は2編収録と、1編あたりのボリュームがアップ!
しかも表題作は約300ページもあり、もはや長編と言えるレベルです。
つまり今作では、翡翠の活躍をより長く深く楽しむことができるわけですね。
もちろんシリーズの十八番とも言える大どんでん返しや反転も健在で。
それでは早速、各話のあらすじと見どころをご紹介していきます。
犯人の少年を手玉に取る『生者の言伝』
友人の別荘に不法侵入し、勢いで家人を刺し殺してしまった少年・蒼汰の物語です。
翡翠は「年上の可愛いお姉さん」を演出し、お得意のブリブリ攻撃で蒼汰を追い詰めていきます。
15歳という思春期真っ盛りの蒼汰は、気の毒にまんまと乗せられて、ドギマギしながらどんどん墓穴を掘っていく…という展開。
でもこの物語には実は裏があり、翡翠が蒼汰の罪を暴いて終わり、ではありません。
その先のビックリ展開で、それまでの全てがひっくり返され、思いもよらなかったところへ着地します。
シリーズならではの見事な反転は、清々しいほど衝撃的!
またこの物語は、翡翠と真とのテンポの良いユーモラスな会話も見どころです。
翡翠があざとくボケるたびに、真がツッコミで瞬殺するのですが、そのキレの良さはあたかもコントや掛け合い漫才。
読んでいてプッと吹き出してしまう場面も多く、そういう意味で『覗き窓の死角』はシリーズ中で最も楽しく読める作品と言えます。
大切な友達との勝負を描く『覗き窓の死角』
表題作です。
『生者の言伝』がコミカルな雰囲気も織り交ぜてあったのに対して、こちらは終始シリアスな展開が続く王道ミステリー。
ストーリーとしては、友達同士の翡翠と詢子が対決する様子が描かれます。
詢子は写真家で、ミステリー愛好家であることから翡翠と気が合い、序盤では二人はとても仲良し。
でも実は詢子には自殺させられた妹がおり、その復讐を遂げるためにアリバイ作りとして翡翠を利用していたのです。
翡翠は、詢子の狙いに気付いてはいました。
でも特殊な容姿や能力から友達が少ない翡翠にとって、詢子の存在はとても大切。
探偵としては彼女の罪を暴くべきですが、大事な友達を追い詰めたくないという気持ちもあり、正義感と友情との間でひどく揺れます。
その葛藤が『覗き窓の死角』の見どころです。
もうひとつ見どころがあって、それは翡翠と詢子との手に汗握る駆け引き!
詢子はさすがミステリー愛好家なだけあって、頭が抜群に切れる上、翡翠の思考パターンを把握しているので翡翠は今までにない苦戦を強いられます。
普段の翡翠であればひときわ高い場所から全てを見通し、犯人を破滅へと誘導するはずですが、今回ばかりはそうもいきません。
裏をかかれ振り回される翡翠の姿は新鮮ですし、詢子に対する葛藤も相まってかなりハラハラする展開となっています。
翡翠が最終的にどう決断しどう行動するのか、ぜひご自身で読んでみてください。
少しずつ明かされる翡翠の内面と過去
「invert II」とありますが、シリーズとしては三作目ですし、二作目の「invert」とは事件としてのつながりはありません。
「invert」は英語で「反転」という意味なので、途中で大きく反転する物語、つまり大どんでん返しのある物語として、タイトルにこの言葉が使われているのだと思います。
そしてタイトル通り『invert II 覗き窓の死角』は、展開が激しく反転します。
『生者の言伝』では、それまで物語の土台だと思っていたものが180度ひっくり返されますし、『覗き窓の死角』ではある人物が…という衝撃的な流れ。
どちらも読み手の度肝を抜きつつ、きれいに収束していく様子を楽しませてくれます。
また本書は、第一弾、第二弾と比べると、翡翠の内面が色濃く描かれているところも特徴です。
ものすごーく可愛い見た目を生かして人を操るあざとさとは従来のままに、今作では少女らしいあどけなさや感情の揺れ動きが加わり、より読者のハートをガッチリ掴むキャラクターとなっています。
そして、翡翠の過去も少しずつ見えてきました。
詳しくはまだ明かされていないものの、弟や友達のことで過去に相当辛い思いをしたのだろう、ということは伝わってきます。
表紙イラストの翡翠の涙と、何か関係があるのかもしれませんね。(もっとも本書には、翡翠が別の理由で涙を流すシーンもあるのですが)
そう考えると、次回作がますます楽しみですね。
発表されるまで、心ゆくまで本書を堪能しましょう!


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