相沢沙呼『invert 城塚翡翠倒叙集』5冠獲得ミステリ待望の続編!

本作は第20回本格ミステリ大賞、このミステリーがすごい!ランキング1位など、数々の賞やランキング1位を獲得した「medium 霊媒探偵城塚翡翠」の待望の続編となっています。

事前に計画された完璧な犯罪を実行した犯人たちの前に現れる、美女探偵・城塚翡翠。

死者の声を聞くことができるという彼女が一見事故死や自殺と見て間違いのない事件の真相を暴き、犯人たちを追い詰めていきます。

本書は上司を事故に見せかけて殺害したITエンジニアと翡翠が対峙する「雲上の晴れ間」、子供たちのために殺人を決行した女教師が登場する「泡沫の審判」、部下を殺害した冷徹な男が犯人として登場する「信用ならない目撃者」の全3章構成の中編集です。

犯人たちが事前に計画した殺人の犯行当日から物語は始まります。

入念に練られた彼らの犯行は証拠も残らずアリバイも一見完璧。

隙がなくまさに完全犯罪と呼べる事件に探偵の城塚翡翠が警察に協力する形で挑み、犯人たちの犯行の証拠を見つけ出し彼らを追い込んでいきます。

事件を推理することの喜びに特化した新感覚ミステリ

本書の魅力の1つとしてまず挙げられるのがミステリ小説としての構成です。

物語が始まると、まず最初に犯人の視点から事件当日の様子が仔細に語られます。

このことで、読者からしてみれば犯人自らが明かしてくれる殺人の手口や鉄壁のアリバイを知って、事件の真相が露見しないだろうと思えてしまうでしょう。

しかしそこに翡翠が登場して、思わぬところから殺人の手がかりを見つけ出し、犯人を少しずつ追い詰めていきます。

犯人が最初に明かされることで、通常ならミステリ作品で読者を楽しませるために用意されている、驚きの結末や予想外の犯人が浮かび上がるという展開は使えなくなってしまいます。

作者は大胆にもそれらを排除して読者の興味を事件の謎だけに向けさせることで、純粋に「推理する」ということの楽しみを最大限に美味しく読者に与えているのです。

ミステリ小説において本来最も重要な要素であるはずの「推理」に集中させることで、本書は論理的に推理を組み立てる喜びを読み手に再確認させてくれる構成になっていると言えるでしょう。

また、最初に犯行シーンを見せられていることで、ある種犯人側の立場にも立つことができる読者は翡翠にジリジリと追い込まれていく犯人の緊張をより臨場感を持って感じることにもなります。

このユニークな構成とスリリングな展開が面白く、最後まで一気に読み進めてしまうこと間違いなしです。

読者に挑戦状を叩きつけてくる探偵・城塚翡翠

本書では犯人を最初に明かして事件の推理に焦点を絞っているだけあって、一見どの犯人にも完璧で隙のないアリバイがあります。

それでも最後には翡翠が「簡単でしょう」と言って犯人の犯行を暴いてしまいます。

完璧に見える犯行を遂げた犯人たちを嘲笑うかのように事件を解決へと導く探偵・城塚翡翠が作中のどの事件でも真相暴露の直前にある口上を述べるのですが、これがまさに読者へと語りかけるものとなっていてとても魅力的なシーンになっているのです。

得心がいったように犯人の犯行を裏付ける証拠にたどり着いた様子の翡翠が、シャーロックホームズのように口上を述べて「あなたは私の推理を推理できますか」と読み手に直接問いかけてきます。

読者はそれを受けて自分のミステリ読みとしての鋭さを彼女に試されているように感じ、自然とこれまでに提示されてきた、事件の手がかりを改めて吟味し始めることになるでしょう。

そうして自分自身もまるで探偵として彼女と一緒に事件に関わっているような感覚になれることが、本書の魅力でもあり、面白いところです。

読者に語りかけながら小芝居を打つ翡翠の雰囲気はもはや読者を揶揄っているようにも感じられ、読者は自力で事件を推理するためにより一層物語の中にのめり込んでいかざるを得なくなります。

5冠ミステリ待望の続編。推理することの喜びに満ちた名作中編集!

ミステリランキングで5冠を獲得した前作「medium 霊媒探偵城塚翡翠」の続編となる本作「invert 城塚翡翠倒叙集」。

作者の相沢沙呼さんは2009年に「午前零時のサンドリヨン」で第19回鮎川哲也賞を受賞されています。

繊細な筆致でジャンルを跨いだ活躍を見せる相沢さんの最新作である本作には前作の主人公・探偵城塚翡翠が再登場するのですが、物語の構成は「論理的に推理する喜び」を読者に与えてくれるものになっていました。

通常であればミステリの醍醐味にもなり得る意外な結末や予想外の犯人発覚といったエンタテイメント要素を大胆に排除し、犯人を最初に明かしてしまうことで本書はより純粋に推理を楽しみながら読み進めていくことができます。

そんな構成にするだけあってミステリとしての完成度が非常に高く、終盤に主人公自らが読み手に語りかけるシーンも相まって、ミステリ好きな人にとってはつい腕試しをしたくなるような作品となっているのでおすすめです。

また、登場人物が多くなく、扱う事件自体は単純な殺人事件なので、普段あまりミステリ小説を読まない人でも苦しく感じることなく推理を楽しめるでしょう。

しかし、本作では前作「medium 霊媒探偵城塚翡翠」の結末に触れているので未読の方はご注意ください。

あまりの衝撃的結末から続編の執筆は不可能とまで言われていた前作の待望の続編。

犯人たちの視点から描かれる物語展開の中で美女探偵・城塚翡翠の華麗な推理が再び炸裂する今作も間違いなく傑作と呼べるミステリ小説となっています。

ぜひご一読ください。

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