1775年の独立戦争勃発中のアメリカ。
新聞記者・ロディは、収監されているイギリス兵のエドワード・ターナーに会いにいく。
エドワードは大富豪の息子アシュリーを殺害した容疑をかけられており、事件に関する情報を求めてロディは顔を出したのであった。
投獄中のエドワードと殺害されたアシュリーは、かつて戦地へ移動するまでの際に様々な問題に直面していたが、そのような過程を経ながらも良好な関係を築いていた。
そのような関係性を築いていたのにもかかわらず、エドワードはなぜ、アシュリー殺害の容疑をかけられているのだろうか。
また、容疑が真実とすれば、なぜ殺害へと至ってしまったのか……。
監獄での謎解きを通じて事件の真相に迫る、本格歴史ミステリー。
三部作から構成される長編ミステリー完結版
『インタビューウィズプリズナー』は、1作目『開かせていただき光栄です』2作目『アルモニカ・ディアボリカ』に続く、本格歴史ミステリー完結編です。
いずれの作品も500ページ前後とかなりのボリュームですが、読み進めていくにつれて、次第に物語の世界観へと引き込まれていく構成に仕上がっています。
じっくりと読書をする時間があれば、誰でも気軽にストーリーを楽しむことができるでしょう。
三部作の最終作である本書は、1作目と2作目に関連する描写が用意されているため、「最終作だけ読むと、ストーリーが理解できないのでは?」と疑問に感じる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、1作目はロンドン市街地、2作目は舞台を転々と移動する描写、そして本作は独立戦争中のアメリカといったようにテーマが大きく異なるため、前作を読んでいない方でも、新しいストーリーとして楽しめるようになっています。
とはいえ、3作品の間で共通の物語や登場人物が存在している以上、1作目から順番に読んだ方が、物語の理解に繋げやすいのはもちろんです。
時間がたっぷりと確保できる方は1作目からじっくりと物語の世界観を味わい、時間があまり取れない方は最終作を通じて事件の真相にいち早く迫るといった形で、読み方を柔軟に変えてみるのも面白いかもしれませんね。
謎解きを楽しみながら、時代背景も学べる歴史ミステリー
本作の物語は、ロディとエドワードのリアルタイムなやりとりを通じて、アシュリー殺害の背景について迫っていきます。
アシュリーを殺したのは、本当にエドワードなのか?
もしそうだとすれば、良好な関係を築いていた2人の間にいったい何があったのか?
こうした疑問を持ちながら、着実に事件の真相に迫っていくミステリー要素満載のストーリーは、本作の特徴といえるでしょう。
また、ロディとエドワードのやりとりの過程で、殺害されたアシュリーの手記から始まる過去の物語が描写されている点にも、ぜひ注目しておきたいところです。
そこには、アメリカ独立戦争当時の生活ぶりや戦争勃発の背景、イギリス人とアメリカ先住民(インディアン)の関係性など、歴史に関する描写が施されています。
一部のストーリーで簡易的な歴史描写がされているのかと思いきや、全体を通じて当時の時代背景について緻密かつ忠実に描かれているため、物語の臨場感や奥深さをより一層引き立たせています。
非日常的なミステリー要素とシビアな歴史背景を掛け合わせた本作の重厚なストーリーは、歴史ミステリー小説の醍醐味といっても良いでしょう。
三部作の掉尾を飾る傑作歴史ミステリ
著者の皆川さんは1930年にソウルで生まれ、1972年に刊行した児童書「海と十字架」で児童文学作家デビューを果たします。
その後も「アルカディアの夏」で第20回小説現代新人賞受賞、「恋紅」で第95回直木賞など、怒涛の早さで数多くの功績を残し続け、2015年には文化功労者に選ばれるほどの実力者となりました。
そんなベテラン作家が生み出した傑作歴史ミステリー『インタビューウィズプリズナー』は、三部作で描かれる物語の完結編として注目を集めています。
1作目、2作目と読み進めていくにつれて次第にシリアス感が増していき、本作では、前作以上の重厚なストーリー展開が繰り広げられていきます。
本作の物語で、過去作に仕掛けられた伏線を着実に回収していくその様は、3冊とも読んだ人にしか分からない衝撃と感動を与えます。
前章でもお話した通り、作品ごとに物語の舞台やテーマが違うため、まったく異なる物語として楽しむこともできますが、もし時間に余裕があるのであれば、1作目から順番に読み進めていくことをおすすめします。
また、アシュリーの手記から回顧される、独立戦争時代のアメリカについての描写も見逃せない要素です。
もし歴史の知識が浅ければ、インターネットで時代背景を探りながら、本作を読み進めていくのが良いかもしれません。
謎解き要素満載のミステリー小説を楽しみたい方はもちろん、当時の歴史背景を学びながら物語の世界観に没頭したい方も、ぜひ読んでみてください。