民俗学を援用した土着的な怪奇ホラーミステリー作品となっている、凝った作りの本作。
刀城言耶シリーズ8作目となっていますが、最初に登場人物の紹介があり、前作との繋がりもないので本作から読んでも全く問題なく楽しむことができます。
忌み名や昔の葬送儀礼が残る妖しい村で、代々伝わる儀式の最中に奇怪な殺人事件が発生し、現地に赴いた主人公が村人や警察と捜査にあたるのですが、異様な村の思想や考え方を垣間見ることができるというのが一つの魅力となっています。
しかし村人たちの主張は互いに矛盾を抱えていて、同じ事件から受ける彼らの印象も一致しません。
物語の前半では登場しなかった新たな事実が後半で明らかにされるなど、読み進めるにつれて情報がどんどんアップグレードされていきます。
どこまで主人公の推理が当たっているのかもわからないまま展開は進んでいきますが、それでも読み進めていく中でうっすらと異様な村の背景や真実が浮かび上がってきます。
最後まで読んだ時点で明かされる事件の意外な真実、そしてそこに至るまでの流れと込み上げる戦慄に、読者は大いに驚かされることになるでしょう。
読み進めるにつれて妖しい村の世界観に呑み込まれていく読者自身
第一章では十四才になったばかりの少女が心不全で亡くなり、遺体に魔物が入らないようにする風変わりの儀式が行われる中、実は少女はまだ生きていて意識があり…というシーンから始まるため、最初から不穏な空気を漂わせており、恐ろしい気持ちで読み進めることになります。
儀礼がとても凝っており、風習の原因や目的も説得力があるため、雰囲気にどっぷり浸りながら読み進めることができます。
日常的に行われる恐ろしい儀式が次々と明らかになり、巻き起こる怪奇現象の渦に、果たしてこれは殺人事件なのか、怪異の仕業なのか…主人公と一緒に考えながら読み進めるうちに、怪異の存在感をありありと強く感じ、凄惨で緊迫感のある描写に呑み込まれていきます。
主人公は村人たちに話を聞き推理を二転三転しながら進めていきますが、全ての登場人物が何か裏表ありそうな描写なので、実際はどのような人物なのかを瞬時に判断することは出来ません。
それぞれの主張を読み進めていくことで初めて、その人物がどういった立場なのかを徐々に知ることが出来るようになっています。
そして語り手によって異なる事実の受け止め方や認識のズレ、明らかにされる事実に、読者は次々と翻弄されていくことになります。
後半の盛り上がりが凄まじく、怪異の渦に巻き込まれるがごとく、妖しい世界観に呑み込まれていくような面白さを感じられます。
最終章で明かされる真相の破壊力
怪奇ホラーミステリーとしてだけではなく、後半からの怒涛の展開とエピローグの破壊力が、本書の印象を決定づける大きなカギの一つ。
意外と解決編があっさり終わるので拍子抜けしている所に、最後に凄まじいどんでん返しがあり、恐怖を誘います。
事件自体は怪奇ホラーミステリーにしては地味なのですが、それと比較にならないほど読後に残る怖さが、このシリーズの醍醐味といっても過言ではないでしょう。
そして怪異はとびきり恐ろしく、儀式の怖さや犯人の動機・トリックにもゾクリとさせられます。
推理は二転三転し、最後に真相に辿り着くまでの過程はホラーミステリーの中にも緩急をつけるユーモアがあるため、飽きずに一気に読めること間違いなしです。
衝撃的な結末に呆然とするとともに、恐怖だけでは終わらない一気に読ませる雰囲気を存分に味わえる“怪異ホラーミステリー”としての魅力が、本書には詰まっているといえます。
怪異ホラーミステリーの一冊目ならコレ!
小説でしか味わうことのできない独自の世界観を確立し、怪奇ホラーミステリーの魅力が存分に詰め込まれている本作。
発売して間もないですがすでにホラーミステリーファンの間では絶大な評価を得ており、妖しい村の儀式や怪異現象に興味がある方にとってはもはや必読の小説と言っても過言では無いでしょう。
あまり怪異ものには興味を持ってこなかった、という方は読むのに躊躇するかもしれませんが、それはちょっともったいない!
むしろ、この本を読むことによって怪異ホラーミステリーの面白さに目覚めることができるかもしれません。
怪異ものに興味が無くても引き込まれるほどに、本書は“ホラーミステリーとしての面白さ”も十分に兼ね備えているということができるのです。
ホラーミステリー好きの方、怪異ものデビューを果たしたい方、ただただ読み応えのあるホラーミステリーを読みたい方など、ホラーミステリーや読書が好きな方は読んで損はないハズ!
終章で明かされる伏線、最後に明かされる真相の破壊力、長編でもテンポ良く読める本作はとにかく面白く、最後まで気が抜けない傑作となっています。
出版されたこのタイミングで、ぜひ一読してみてください。

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