『法廷遊戯』の物語は、司法試験合格を目指してロースクールに通う久我清義(くがきよよし)が一枚のビラを発見するところから始まります。
ある日、久我が通うロースクールの自習室に、何者かの手によって1枚のビラが配られます。
そのビラの内容は久我の過去に犯した罪を告発するというものでした。
そして、その手紙が届いたことを契機に、織本美鈴(おりもとみれい)を始めとした同じロースクールに通う学生達の身に不可解な事件が続いていきます。
久我は同じくロースクールに通う天才・結城馨(ゆうきかおる)に相談を持ちかけます。
そして久我・織本・結城の三人は事件の真相を追っていきますが、次第にそれぞれの道は思わぬ方向に分岐していきます。
果たして犯人は誰なのか?そしてその目的とは何なのか?裁判に見立てたゲームを交えながら三人は事件の真相に迫っていく…というお話です。
五十嵐律人『法廷遊戯』
「法廷遊戯」の見どころは、作中でロースクール生の間で行われる独自のゲーム「無辜(むこ)ゲーム」にあると感じました。
無辜ゲームというのは告訴者と裁判官役、証人役によって行われる本物の裁判のようなゲームです。(なお、裁判官役は常に結城です。)
無辜ゲームでは告訴者が証人に質問をし、そこから得た情報を元に犯人を指定します。
そして、裁判官である結城が抱いた心証と告訴者の指定が合致すれば訴えが認められ、犯人に罰が下されるというものです。
久我は自身の過去を暴露するビラを配られたことによって初めて告訴者になるのですが、この無辜ゲームの描写がまるで実際の裁判のようで、見ているだけで身が引き締まるような思いでした。
本作では法律や裁判などを取り扱っているということもあって、法関係の専門用語がバシバシ出てきます!
しかし、しっかりと解説も入るため、見慣れない単語に混乱せずに読むことができ、結果的に上述の無辜ゲームをしっかりと楽しむことが出来ました。
現役司法修習生だからこそのリアル
法律の話というのは普段私達にとってあまり馴染みがないものなので、少し堅苦しく小難しいイメージがあります。
しかし本作では先にもお伝えした通り、そうした法律に関する用語を丁寧に解説しているため、苦手意識を持つこと無く読み進めることが出来たというのも好感触です。
聞けば、著者である五十嵐律人さんは現役の司法修習生だそうです。
自分の得意分野である法律の知識を小説に活かした…と言えばそれまでですが、作品の完成度が非常に高く、小説と法律の両方に対する確かな知識と熱い情熱を感じさせられる作品に感じました。
単に「著者の得意分野を組み合わせた」という簡単な言葉では済ませられない非凡さを感じる作品なので、多くの方に読んでほしいです!
作品自体の完成度もさることながら、著者の五十嵐律人さんはなんとこの作品がデビュー作ということで、これからの活躍にも期待が湧いてしまうような作品でした。
法律や裁判という難解なテーマを小説に落とし込んだ手腕も見事ですが、緻密に寝られたプロットや伏線の回収の仕方なども素晴らしく、新人離れした一冊と言ってもいいでしょう。
本格的なミステリーが好きな方や、まだ読んだことがない作者の作品を求めているという方にはぜひおすすめしたい一冊です。
ちなみに、今作は2021年版このミステリーがすごい!で4位となった作品ですので、面白さは保証されているようなもの。ぜひこの機会に!
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